…

デスクに積まれた書類の山が、あと少しという所で時計の針が就業時間の終わりを告げるチャイムがスピーカーから流れると、途端に部署内が騒めきだす。


『あー、やっと終わったよ』

『今日どうする？飲みに行くだろ』

という会話が聞こえるのは、今日が週末日だからだろう。

そして、その中に女性の黄色い声が混じり始める。


『カッコイイ…』

『今日も来てるのか』

と、耳に聞こえて＊＊は溜め息を吐いた。


課「＊＊くん、残りの仕事は私がやっておくから君は上がりなさい」

「ですが、あと少しですし」

課「いいからいいから。ほら、今日も迎えに来られている。待たせては申し訳ないだろう」

「…、」


そう言って課長がフロアの出入口を振り返る。

迎えとは、女性たちの視線の先にいる人物のことだ。

白いコートに金髪という派手な出立ち、
それに付け加えてイケメンと表される有名な、恐らく新羅で働いている者は知らない筈がないだろう男が、花束を抱えて出入口の前で待っていた。

勿論、彼は課長が示唆した通り、＊＊を待っている。


課「早く行ってさしあげろ」


課長が急かすように言った。

彼は、自分に災難が降らないようにと心中穏やかではないのだろう。


「はぁ…」


＊＊は、また溜め息を吐いた。


「分かりました、それでは先に失礼します」

課「くれぐれも失礼のないようにな」


念を押す課長の声は聞き流して、＊＊は自分のロッカーからバッグを取り出すと、フロアの出入口に向かう。

それは決して彼に会うためではなく、家に帰るためにである。


バサッ、彼は出入口を塞ぐように立ち、目の前まで寄ると花束を押し付けてきた。


「花束は好きじゃありません」


ムスッとした表情で言うと、彼は気を悪くする様子もなく。


ル「なら次からは一輪の花にしよう。それは、ここにでも飾るといい」


と言った。

＊＊は、側で見ていた女性社員の一人に花束を渡すと、彼女は嬉しそうに花束を抱えて離れていった。


ル「それで、今夜は何が食べたい？」

「家に帰って食べます」

ル「釣れないな、君は。たまには外食でも良いだろう？」

「贅沢は敵なので」


キッパリと断る。


ル「そうか。ならば遠慮なく、お邪魔するとしよう」

「家には上げませんよ」

ル「本当に、良いのか？」


彼は、意地悪くニヤニヤと笑っている。

副社長である彼を蔑ろにした日には、課長の首が飛ぶのかもしれない。
それは、どうにも後味の悪いものだと思った。


「はァ…食事だけなら」


観念して、そう返すと、彼は余裕そうに笑む。


ル「それで良い。リクエストが無いなら、私の行きつけの店にしよう」

「どこでも構いません」

ル「それでは行こう」


ヒソヒソと内緒話をしている社員たち。

副社長に対する＊＊の態度が気に入らないのだろうことは、見ていれば分かる。

＊＊は気にせず、彼の後に着いてEＶに乗り込んだ。



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