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《死の谷》とゾンビ病(未完

「名前を変える」

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貴女の名前は?



とあるスラム街の一角に《死の谷》と呼ばれている場所がある。

そこはモンスターも生息しているが、死期の迫った者や重傷者などが捨て置かれる廃墟でもあった。

活力ある生者が訪れることは少ないが、中には死者の遺品を回収して生計を立てている者も訪れる。


「…、」


彼女は、その谷に住んでいる数少ない生存者である。

そして、目の前のものを見て足を止め少し逡巡した後、それを持ち帰ることにした。


瓦礫の山の隙間に潜り込むと、人が生活するのに十分な空洞があった。

決して広くない空間の隅に、それを降ろす。


男「…ぅ…」


傷だらけで意識のない男、
着ているスーツは上物でプレート街で生活している人間であると推測できた。

死期が近いという訳でもなく、誰かに追われでもしたのだろうか。
この谷に逃げ込む辺り聡明さが窺える。


今は手当に使用できるアイテムが少ない、
仕方なくリジェネとケアルラをかけて**は眠りについた。





..









翌朝、
目を覚ますと、荒く肩で息をする男が、**に銃を突きつけている。


男「何故、助けた」

「…死にたかったのか?」

男「…、」

「見つけてしまったんだ、そのまま放置するのも後味が悪い。それだけだ」

男「謝礼、目当てか?」

「何にもいらない、礼もいらないから歩けるなら帰って」

男「…ぐっ」


銃を下ろしたと思えば、男が膝から崩れ落ちた。
無理をしていたらしい。


「はぁ…回復するまで大人しくしててよ」

**は保存食から簡単なリゾットを作る。

木のボウルに装って男の前に差し出すが、手をつける様子はない。


「毒なんて入れてないし、食べないと治らないよ」


それでも手につけない様子に、また溜め息を吐いて一口を自分で食べてみせる。


「お腹空いたら食べてよね」

男「…お前の分は」

「私は食欲がないんだ、水だけで良い」

男「もしや、ゾンビ病か?」


木皿と木匙を手に取り食事に手をつけるのを見て、相手の言葉に隙間から谷を眺める。


《ゾンビ病》とは、数年前に流行した奇病である。

発症してしまえば治療法はなく、
ただ死ぬのを待つ他にない。

ゾンビと言われる理由は、生きながら体が腐っていくからだという。


**は、深々と被っているマントを持ち上げて男に見せた。


男「 ! 」


男が目を驚愕で見開く。


「ゾンビ病は緩やかに腐り落ちていく。それまでは食べなくても、寝なくても死ぬことはない。私には水だけあれば生きられるんだ」


**は、そう言うと立ち上がり瓦礫から出て行く。


男「どこへ?」

「ただの散歩さ」


《死の谷》を歩くのは彼女の日課だ。

死者漁りをするのでもなく、ただ谷中を歩いて周る。


新たに捨てられていくモノ、
昨日まで生きていたモノ、

1日たりとて同じものなど存在しない。


半日かけて谷を巡り、戻ってくる。
男は帰っただろうかと思いながら中に入る。


「…まだいる」


男は寝ていた。

リゾットは鍋の中の分も平らげている、
回復に専念することにしたのだろう。

丈夫そうだし明日には帰るだろうと、希望的観測を浮かべながら壁に寄り掛かり、眠ることにした。






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