…

仕事を終えたツォンは社宅に戻り、着替えてから再び外へと繰り出す。

●番スラム街の廃ビルの地下からハシゴを降りて、そこにあるＥＶに乗り込む。

到着したのはシェルターの入り口。
ロックを解除して中へと入った。


空調で整えられた安定した空間に、色とりどりの花が咲き乱れ、その中にカントリー調のハウスがある。

家具や小物も女性が好みそうな可愛らしいものが揃えられている。

テラスで本を読む相手に近づくと、気付いてツォンを向いた。


「おかえりなさい」

ツ「ただいま」


彼女の持つ本の中身は真っ白だ。


ツ「お茶を淹れよう」


電気ケトルで湯を沸かしている間にポットに茶葉を入れておく。湯が沸いたらミルクと共に注ぎ入れ、カップに注いでハニーシュガーを入れて掻き混ぜる。

それを彼女の前に置いて、その手を掴んだ。


「ありがとう」

ツ「熱いから気をつけて」

「うん」


ふぅ、と息を吹きかけて口をつける。


「ん、美味しい」

ツ「今日は何が食べたい」

「んー、パスタ」

ツ「好きだな、パスタ」

「色んな味があるし、ツォンが作るの美味しいから」

ツ「分かった」


キッチンのパネルで湯沸かしの操作をしておき、調理を始めた。

彼女はテーブルに置いていた本を取り、開いては指で撫で始める。

挿絵も文字も存在しない、彼女の為だけの本だ。


夕食を取り終えたら入浴タイム。

彼女の脱衣を手伝いながら、頭を包帯を取る。
自らも脱衣して共に入る。

彼女が座ると、シャワーで流しながら髪を洗ってやり、体は自分で洗う。

そうして最後に湯船に浸かる。


ツ「熱くないか？」

「大丈夫」


彼女の体には大きな傷痕がある。
右肩から左足にかけて、モンスターの爪痕だ。

任務中に巨大モンスターに襲われた際、不慮の事故が重なって瀕死の重傷を負った彼女は、すぐに手術を受けた。

術後の回復は順調だった、ただ一つの問題を残して。


彼女の目は光を失っていた。

現場への復帰は無理だと判断された彼女に下されたのは、殺処分だった。

責任者だったツォンが彼女の最期を偽り、表面上は「処理済」として報告し、彼女を匿ったのだ。


彼女の好きなもので作った箱庭で、彼女は残りの一生を過ごす。

そのサポートという口実を得て、ツォンは彼女の傍に居ることを選んだ。


「ぁつ…」

ツ「上がるか」


風呂から上がって服を着たら、目に薬を塗って包帯を巻いてやる。


彼女の美しかった瞳は、形も色も歪んでしまった。

体の傷といい、女性ならば醜く変わってしまった姿を見たら死を選んでもおかしくない。

それを思うと、目が見えなくて良かったのかもしれない。


彼女を抱き上げて、ベッドに運ぶ。

一緒に入って、キスをする。


ツ「おやすみ、＊＊」

「ん、おやすみ」


そう交わして眠りに落ちる。

彼女にとっては、
この空間が全てであり、
幸せなのだ。

外の世界への憧れもなく、静かに暮らしたい＊＊の為だけの空間。

まだ眠っている彼女に口付けて、ツォンは仕事に行くために社宅に戻った。




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