Key.
「似ている? 勘違いするな、俺はフーテンだと言っただろう。似ているも似ていないも、俺の仕事は職業などではない」
「一時的でも仕事はあるんだろう」
そう論じたものの、知人と似ているのは、雇われの身ということだけだった。
これ以上は下手に口に出さない方が良いだろう。
「まぁ俺にはどうでも良いことだが……お前、こんなご時世に、何を暢気に酒を呑んでいる? 旅人とはいえ、仕事もしないでグダグダしていては金など作れないぞ?」
「金なんかいらねぇよ。そんなもんより、俺には探している宝があるんだ」
「ほう? 在りもしない蘇りの秘宝をか?」
フーガンの言葉に、俺は思わず椅子から飛び退いていた。
その勢いで、グラスから二・三個、氷がテーブル上に跳ねる。
「何故あんたに、俺が探している物が分かるんだ?!」
「落ち着け。そんなに驚くほどのことでもないだろう」
「これが驚かないでいられるか! 言えっ! 何だあんたは?! 超能力者か、予言者か?!」
「落ち着けと言っている」
フーガンは俺の両肩を掴み、無理矢理、倒れてしまった椅子に座らせた。
「トレジャーハンターとは、未知の場所に足を踏み入れ、誰も手にしたことのない宝を収集すること。即ち、咄嗟の時には正確な判断と、己を自制する力を必要とする」
俺は黙って聞いていた。
「俺が何ゆえにお前の欲する宝が分かったのか。それはお前が、そこに地図やら紙面やらを広げていたからだ。隣に座る俺は自ずと視線が行くだろう」
全く、何度俺に言わせたら分かる?
俺はガンマンだ、相手の動向を読むのは日常茶飯時だ。
「あっ……」
俺は自分の失言を恥じた。
確かにその通りなのだ。
「それで、その宝の情報は確かなのか? 死した者の命を蘇らせることができるなど、俺には到底信じられん。死に掛けた者を心肺蘇生させるのだったらまだ話が分かるが……」
「あぁ、この情報は確かだ。裏も取れている」
世界が崩壊してから俺は、港町ニケアから出ているサウスフィガロ行きの連絡船に乗り、ある人物と待ち合わせをしていた。
ラフー・ル・ドルガンという情報屋の男だ。
その秘宝は帝国の間で幾度も飛び交った代物であり、このラフー・ル・ドルガン、かつては帝国で用心棒として雇われたことのある人間だった。
その男からの情報なら、ある程度は信憑性があるだろう。
俺が普段仕事をする時は、ネタを扱う売人と伝書鳩を使って詳細を確認し、多額の金と引き換えに情報を買う。
リスクも大きいが、収穫もそれに見合っている。
だが今回に限ってその情報屋との打ち合わせをお流れにされてしまい、ムシャクシャした俺は、こうして酒場で一人呑んでいたわけだ。
「話を戻そう。お前はその蘇りの秘宝を、何の為に使う? 女か?」
「……悪いかよ」
そう、正確には俺の彼女だ。
俺はその宝で、コーリンゲンにいる眠り姫の魂を呼び起こそうとしている。
帝国に奪われた、俺の愛した女。
ある事故で記憶を失ったまま、帰らぬ人となってしまった。
今は特殊な薬で、生きている時と同じ状態で保管されている。
狂気の沙汰でしかないと分かっていても、俺は彼女を諦められない。
「俺は、守ってやれなかった。レイチェルを、帝国の手から救ってやれなかった」
―――だからこそ、彼女を生き返らせる!
俺の望みは変わらない。
あいつをこの世に戻してやれば、全ては元通りになるんだ。
だが、
「完全な自己満足だな」
フーガンは俺の脆い心臓に大きな矢を射ってきた。
仮面の中から黒光りする瞳は容赦しない。
「一時的でも仕事はあるんだろう」
そう論じたものの、知人と似ているのは、雇われの身ということだけだった。
これ以上は下手に口に出さない方が良いだろう。
「まぁ俺にはどうでも良いことだが……お前、こんなご時世に、何を暢気に酒を呑んでいる? 旅人とはいえ、仕事もしないでグダグダしていては金など作れないぞ?」
「金なんかいらねぇよ。そんなもんより、俺には探している宝があるんだ」
「ほう? 在りもしない蘇りの秘宝をか?」
フーガンの言葉に、俺は思わず椅子から飛び退いていた。
その勢いで、グラスから二・三個、氷がテーブル上に跳ねる。
「何故あんたに、俺が探している物が分かるんだ?!」
「落ち着け。そんなに驚くほどのことでもないだろう」
「これが驚かないでいられるか! 言えっ! 何だあんたは?! 超能力者か、予言者か?!」
「落ち着けと言っている」
フーガンは俺の両肩を掴み、無理矢理、倒れてしまった椅子に座らせた。
「トレジャーハンターとは、未知の場所に足を踏み入れ、誰も手にしたことのない宝を収集すること。即ち、咄嗟の時には正確な判断と、己を自制する力を必要とする」
俺は黙って聞いていた。
「俺が何ゆえにお前の欲する宝が分かったのか。それはお前が、そこに地図やら紙面やらを広げていたからだ。隣に座る俺は自ずと視線が行くだろう」
全く、何度俺に言わせたら分かる?
俺はガンマンだ、相手の動向を読むのは日常茶飯時だ。
「あっ……」
俺は自分の失言を恥じた。
確かにその通りなのだ。
「それで、その宝の情報は確かなのか? 死した者の命を蘇らせることができるなど、俺には到底信じられん。死に掛けた者を心肺蘇生させるのだったらまだ話が分かるが……」
「あぁ、この情報は確かだ。裏も取れている」
世界が崩壊してから俺は、港町ニケアから出ているサウスフィガロ行きの連絡船に乗り、ある人物と待ち合わせをしていた。
ラフー・ル・ドルガンという情報屋の男だ。
その秘宝は帝国の間で幾度も飛び交った代物であり、このラフー・ル・ドルガン、かつては帝国で用心棒として雇われたことのある人間だった。
その男からの情報なら、ある程度は信憑性があるだろう。
俺が普段仕事をする時は、ネタを扱う売人と伝書鳩を使って詳細を確認し、多額の金と引き換えに情報を買う。
リスクも大きいが、収穫もそれに見合っている。
だが今回に限ってその情報屋との打ち合わせをお流れにされてしまい、ムシャクシャした俺は、こうして酒場で一人呑んでいたわけだ。
「話を戻そう。お前はその蘇りの秘宝を、何の為に使う? 女か?」
「……悪いかよ」
そう、正確には俺の彼女だ。
俺はその宝で、コーリンゲンにいる眠り姫の魂を呼び起こそうとしている。
帝国に奪われた、俺の愛した女。
ある事故で記憶を失ったまま、帰らぬ人となってしまった。
今は特殊な薬で、生きている時と同じ状態で保管されている。
狂気の沙汰でしかないと分かっていても、俺は彼女を諦められない。
「俺は、守ってやれなかった。レイチェルを、帝国の手から救ってやれなかった」
―――だからこそ、彼女を生き返らせる!
俺の望みは変わらない。
あいつをこの世に戻してやれば、全ては元通りになるんだ。
だが、
「完全な自己満足だな」
フーガンは俺の脆い心臓に大きな矢を射ってきた。
仮面の中から黒光りする瞳は容赦しない。