Key.

どうしたって、開けるのが怖いんだ、俺。


憎き帝国―――。
狂うほどに愛しかった、深い群青色の髪を持ったあいつ。
その命を奴らに奪われ、俺は帝国に復讐を誓った。
元凶を断ち、幻とされている秘宝を手に入れて彼女を取り戻し、今度こそ傍を離れない、と。

それらの想いを抱え込むように生きてきたのに、ふいに目の前に現れたそいつへの感情に、俺は咄嗟に反応することができなかった。

彼女を拘束された場から連れ出したことに、大した理由などなかった。
ただ、そいつの青い目に宿る意志を無視できなかった。

女だてらに武装をし、剣を振るえば一流の腕前。
放つ能力は一瞬にして敵を氷面世界へと誘う、向かうところ敵なしと称した剣士だった。

ただ、剣士である彼女は怯えていた。

誰かを信じること、誰かと共に行動をすること。
裏切り者というレッテルを貼られた彼女は、霧の中でいつ命を狙われるか分からない、常に四方にアンテナを張り巡らす獣のような態度を取るようになっていた。

だけどそんな彼女が発する言葉の端々が、いつも俺の中に溶け込んでいた。

厳しさの中に柔らかな種子があって、それが春の花のように芽吹くのだ。


……こいつが欲しい。

他の奴なんか見るな、俺だけを見ていて欲しい。
叶うなら、その心ごと手に入れたかった。


だが、怖かった。
もう既にそんな感情が生まれているのに、新たな鍵を開けるのが怖かった。

帝国に奪われたあいつを忘れて、そいつにのめり込んでしまうことが。
帝国に復讐を燃やす身でありながら、元帝国の将であるそいつに惹かれてしまうことが。

それが、とても怖いんだ。

まだ、あいつとの約束を守れていないから…。
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