Hit Lots.

―――数時間後、平たく長い棒を持ちながら、頬を膨らませ、一室に置かれた椅子にふんぞり返る柳宿の姿があった。

暴れて乱れた髪をそのままに、柳宿は不満の溜め息だけを絶えずこぼしている。
結局のところ、美朱の暴食を阻止する役目は、柳宿が請け負ったのだ。

先ほど星宿の執務室を出た後、食堂で、

「星宿様は宮廷内で仕事がおありになるし、俺はちょっとこれから用事がある。だから柳宿、この役目はお前が一番適任だ」
「何言ってんのさ、鬼宿。この超絶美人な私に、あんなぐうたらな子のお守りをしろって言うの?」
「だって、現に今暇なんだろう? さっき侍女に、そうぼやいていたって言うじゃねぇか」
「~~~~~っ、誰から聞いたのよ、そんなことっ」
「自国の巫女の一大事だ、みんなあいつが心配なんだろうよ」

美朱と柳宿が、――美朱はそうでなくても柳宿が彼女に敵意を示しているのは、鬼宿も星宿も分かっている。
ゆえに、このままでは残った七星士の探索はおろか、朱雀の召喚もままならないだろう。

よって鬼宿は皇帝の理解を得て、自ら街へ出向き、手に持つ物を購入してきたのだ。

「巫女の難は、俺らにとっても難だ。―――ほら、分かったらクジを引きな。結果は恨みっこ無しだぜ」
「……分かったわよ」
「何も書いていないもの、先端が赤く"当"と書いてあるもの。二種類の棒が入っているから、良く見るんだぞ。―――どうしても美朱の看病にあたりたくないと我が儘言うんなら、頑張って当たりを引かないようにするんだな」

差し出された物に対しぶつぶつ言いながらも、柳宿は鬼宿が持つ六角形の筒を下に向け、何度か上下に振った。

―――カコンッ。

穴から勢い良く棒が飛び出す。

「何も書いてない……、やった、あたし役目を免れるのね!」
「んな訳あるか、ちゃんと全部抜いてみろ」
「……えっ?」

恐る恐る鬼宿の言うままに棒を引き抜くと、中でそれを支えていた糸がプツンと外れ、そこには……。

「何よこれ! イカサマじゃないのさ!」
「クックッ、だから棒を良く見ろって前置きしてやったんだよ」

そう、外れた棒の先には、確かに先端が赤く、"当"と書いてあったのだ。

これは単なるクジ引きではない。
柳宿自身が知るはずもないが、このクジは柳宿に必ず当たりが出るよう、細工をされた代物なのだ。

実は他の棒にも同じように、当たりは筒の下に隠れている。
ただ振って出しただけでは分からないし、実際に引き抜かないと、当たりがハズレかも分からなかった。

星宿は、柳宿が巫女に対しての素行があまり思わしくないということを、鬼宿からの報告で知り、頭を悩ませていた。

あれに命令してやるぞと美朱にも助言したが、『人の心は命令じゃ動かせない』と、星宿はあっさり断られてしまっている。

そこで、この一件で少しでも二人に絆が芽生えるよう、皇帝承知の上で、鬼宿が提案したのだった。

「俺と星宿様の労いだ。巫女の顔でも見ながら、その刺々した心を更生させるんだな」
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