Hit Lots.


「ぅおいしぃ~! スクランブル中華ロックテイスト風味ぃ!」
「うっさいわねぇ! 食べるんなら口閉じて、静かにお食べ!」

テーブルからはみ出るほどに並べられた豪華な料理。

前菜のタマゴスープから始まり、中華まん、かに玉、青椒肉絲(チンジャオロース)などの一般中華料理。

そしてメインの大盛りフカヒレ炒飯を前に、病床に就いているはずの夕城美朱(ユウキミアカ)は、衰弱しているとは思えないくらいの勢いで料理を平らげていた。

「フラガのハンバーグも魅力的だけど、こっちの中華も最高だよね、柳宿っ!」
「あ~はいはい、良かったわね…。だいたいフラガだのハンバーグだの、一体何だっていうのよ……」

柳宿にしてみれば、異界の特殊な言葉はさっぱり分からない。

ましてや"フラガ"が某飲食店グループの名称を短縮した言葉だなんて、元の世界でも分かる人にしか分からないだろう。

柳宿は【当】と書かれた棒を手に、大きな溜め息を漏らした。
頭上で軽く結わえた濃紫の長い髪までもが、まるで抵抗することを諦めたように、脱力している。

あれは、夕城美朱が朱雀の巫女に襲名されて、数日が経った頃だった。
栄陽の下町で美朱がチンピラに絡まれたところを鬼宿が助けた後すぐに、彼女は故郷恋しさゆえ、衰弱して道端に倒れてしまった。

帰路を急ぎ宮殿一室に彼女を寝かせ付けたが、美朱は呼吸も荒く、顔は青白い。
美朱の異変に、星宿も仕事を抜け出し、部屋に駆け付けた。

「鬼宿、美朱と市内で一体何があったのだ。事によったら、お前でもただではおかぬぞ!」
「……チンピラに絡まれて助けただけですが……」

なぜ彼女がこんな弱った姿で戻ってきたのかは分からないが、紅南国皇帝である星宿の鋭い視線が鬼宿を捕らえた時、明らかに鬼宿は動揺していた。

柳宿も医者も寝台の側で控えていたが、美朱を治癒できるのは美朱自身だと、他でもない彼女が一番分かっている。

美朱の容態の対処法を打ち合わせしようと、星宿、鬼宿が部屋から出ようとしたところ、

「唯ちゃん、ハーゲンダッツ食べたい……」
「あんたねぇ……食べ物のことを思い浮かべる暇があったら、少しは自分が治る方法を考えなさいよっ」

軽蔑の眼差しで柳宿はそう吐き捨てると、未だに食べ物の名前らしき言葉を発する巫女を置いて、皇帝の執務室へと向かった。

「取りあえず、美朱に何か食事を作ってまいれ」

巫女の部屋を後にする時、星宿は美朱の空腹の欲求を微かに耳にした。

料理名など勿論分からないが、食べるという動詞は少なからず分かる。
柳宿はこの巫女がどれだけの量を食するかを知っており、星宿、鬼宿もまた知っていた。
取り急ぎ臣下に作らせようとしている食事など、取るに足らないだろう。

「美朱のやつ、ちゃんと見張ってねぇと必要以上に食っちまうぞ」

先ほど厨房の作業を見に行ってきた鬼宿は、柳宿にそっと耳打ちした。

「だ、大丈夫よ~。美朱はきっと平気だから、二人の愛の部屋に戻りましょう」
「……いや、でも心配だしなぁ。あいつの体調よりも食い気の方が気になっちまう……」

鬼宿は星宿と側近二人を一瞥し、唇を軽く噛んだ。
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