屋上で一人、風に前髪を遊ばれながらフェンスに寄り掛かり目を閉じている夏油へ足音が近付く


「なに、黄昏れ中？」
「まぁそんなところかな
硝子こそ、わざわざ屋上に何のようだい？」
「気分だよ気分」


夏油から少し離れた場所に同じ様にフェンスに寄り掛かり煙草に火を付けた
揺れる煙を横目で見ていると家入がこちらを見ずに口を開く


「アンタ、巫月の事好きだったんだろ」
「…どうしてそう思うんだい？」
「私の勘」


ふぅ、と煙を吐き出す家入から目を逸して少し自傷気味に笑う


「あぁ、好きだったよ
悟が羨ましいくらいにね」
「…アンタなら自分に向かせる事くらい出来たんじゃ無いの」
「いや、それは無理だな」


目を閉じれば今まで過ごしてきた巫月との思い出が思い浮かぶ


「本人は自覚してないけど、結構早い段階で悟に惚れてたみたいだからね」
「マジか」
「だから私には付け入る空きなんて無かったし、それに」


『っ、ごめん、俺…』と決意したような真っ直ぐな巫月の表情を見てしまえば誰が奪えると言うのか


「クロの隣にはアイツが似合う」
「、傷心中の夏油くんよ、特別に一本どうだい？」


ん、と差し出された煙草を受け取って咥えてみた煙草は思ったよりも苦くて、そのお陰か胸の痛みが少し和らいだ気がした。