ルチスパの話

「毒花」

ランプにぼんやりと照らされた部屋の中央にその男はいた。小さな木製の部屋には最低限の家具しか置かれておらず、生活感は感じられない。隣の部屋では白い鳩が籠の中ですやすやと眠っていた。

黒いベストを着た男がフィルムカメラで何か撮っている。カウチに仰向けに寝そべっていたルッチがその背中をぼんやりと見ていると、カシャ、と音がしてそいつが自分の写真を撮った。諜報員なのに?でもこの男には今更な話かもしれない…何故ここに居る?
男が一枚の写真をコルクボードに貼った。ここからは(一部)顔から下しか見えないが、子供の頃のルッチと男が二人で写っている様だーーそれを視認した瞬間、ぎゅっと瞼を閉じて視界を遮断した。
しかし、聞こえる耳障りな声に目を開けたルッチがふと目の動きだけで部屋を見渡した。ルッチの体の下、カウチの足元、扉の前まで…足の踏み場もない。
男の髪に似た薄紫色の花に部屋中が埋め尽くされていた。

仕事の合間にこの部屋に閉じ籠もっていると、ルッチは必ずスパンダムの幻覚を見る。司令長官のスパンダム。主管時代のスパンダムやもっと昔の…出会った頃のスパンダム。その全員が、敗北したルッチを知らない。ここに来るのは決まって任務終わりだった。幻覚のスパンダムはルッチの知る『スパンダム』と同じ話をする。くだらない自慢話(〜)、そしてその話が終わるまでルッチは薄紫色の花の海に横たわりじっとその声を聞く。耳から追い出そうとしても無理だった。彼と同じテノールが紡ぐ言葉が、麻薬のようにルッチの思考を奪っていった。
この『スパンダム』も何やらルッチに話し掛けている。会話をすれば最後、自分はいよいよ本格的におかしくなるだろうと分かっていたので、ルッチはこれまでも一度も返事をしたことはなかった。

ルッチと同じCP-0のスパンダムは、CP内では既に死んだ者として扱われていた。ルッチの手元で差し止めているだけで、通例通りであればなんの滞りもなく死亡処理が完了している。
スパンダムは荒波に攫われて海に落ちた。ルッチも同船していたが、海の中に助けに行くことはできなかった。足を滑らせたスパンダムは本当に遭難して本当に死にかけていた。
絶対に生きていると確信があるのに少しずつ憔悴していくルッチ。CP0として充てられた部屋とは違う、聖地内に個人的に賃りている部屋でも良いかもしれない。  

気付くとスパンダムがルッチのすぐ側に立っていた。顔が近付いてキスされそうになり、寸前で咄嗟に顔を背けるとそのまま頬にキスが落とされる。腕を振りかぶると腕が顔をすり抜けて、スパンダムは煙のように消える。

そしてルッチの元に帰って来る(会いに来る)スパンダム。扉の前では平然としてる。ルッチを見て驚くか…真顔で冷静なままか…。
最初は普通のノックの音が段々と叩きつけるような音に変わる。それこそルッチが、いつもスパンダムの部屋を訪ねる時のノックみたいに。 
扉を開けて部屋の外に出る。このスパンダムも触れたら消えるんじゃないかって触れないし声を掛けられない。 部屋の外で幻覚を見た事はない。冷静な自分はこれを『本物』だと言っている。だがスパンダムに関しの今の自分の判断は到底信用ならなかった。

まともに食事も睡眠も取らずに悪くなった顔色。より凶悪になった目つき。若干怯みながら、ダンナ?って声掛けるけど反応を返さない。
「ダンナ、聞こえてますか?」
「…ルッチ?」
聞こえてない。お前の心配なんかしてない。報告なら電伝虫で良いだろう。なんで来たんだ。本物かどうかだって分からない、生きてたのか、
掠れた声で「何故来た」と言ってしまうロブ・ルッチ

そんなルッチの手首を掴んで中に入るスパンダム。強烈な甘い匂いに顔を顰める
ドクンドクン…って脈が早い どっちの脈が早いんだろうね
スパの生身に触れてルッチの頭が晴れる、扉の外の空気を吸ったのも要因だろう 気が触れてたのはスパンダムに関してのみ
部屋を埋めていたのは薄紫の花じゃなくてスパンダムの私物だった いや、ガチの花
 
カウチではなくソファに二人並んで座ってルッチの肩にもたれかかるスパンダ
足元でぐしゃりと花が潰れた
このスパンダムは全部分かってて帰ってきた つまり無意識に 自覚があってもいい

二人の会話 

スリ…ってスパンダムの頬(か指の腹)を撫でてくれルッチ それ以上は壊れ物を扱うみたいに 何かを恐れてるみたいに
この 会話を経てスパンダムはルッチを一人の人間として対等に思うし、ルッチはやっとか、てなるし、スパンダムは…ルッチの想い自体は実は受け入れてた 拒絶する気は無かったのかもしれない 応える気も無かったけど ルッチは答えがほしかった、でも答えたら関係にも答えが出ちゃうから それで終わりになるのだけは避けたかった

月歩で闇夜の散歩、吹っ切れて笑うスパンダム…
ここでルッチもやっと笑う 吹っ切れるのはルッチの方じゃない? 
喉元を噛み千切って声を奪いたかった。いつか心臓の音が止まる前に自分で音を奪ってしまえば良い。でもこの男の声が聞けなくなったらどうにかなってしまいそうだ! 
スパンダムの笑い声が静かな夜の海に響いて ああ、ってルッチが思う 
やはりこの男の声はまるで麻薬だ。頭を痺れさせて思考を奪う 他の何も考えられない、
前は目玉の一つでも喰ってしまおうか?て思ったけど逆にスパンダムに許可されるときっと気が萎える。


スパンダムの来訪から二日が経った。二人は現在、海上を月歩で進み聖地マリージョアへと向かっていた。

ルッチの腕に抱いていたスパンダムから甘い匂いが漂ってくる。それが花の香りなのか、スパンダム自身の匂いなのかルッチにも判別はできなかった。
あの『花』は二日前に灰になった。部屋で過ごした時間の中で、鼻の奥にこびりつく様な甘ったるい香りと、その薄紫に埋もれている間だけは、思考を放棄し頭を空っぽにできた。見た目で選んだつもりだったが、どうやら幻覚作用があったらしい。過去のスパンダムが現れたのもこの花を部屋に入れてからだったからだ。
スパンダムの首筋に鼻を埋めて深く息を吸い込む。スパンダムは腕の中でぎく、と身を硬くした後、なにやらモゾモゾと動いてルッチの首に腕を回してきた。

最後、マリージョアの敷地(?)の一室設定を思い付く前に書いたので矛盾してます 
チョコが無い…甘いチョコがない、を捩じ込めたら良いな〜〜!!(泣)まだこねこねします
1/1ページ
    スキ