ユディゆひ

「な、なにこれ?」
「同人誌だヨ。」
俺は妹である遊歩に突然呼び出された。
一緒にラッシュデュエルの特訓をしていたユウディアスに断って抜けさせて貰い、そして遊歩の部屋まで連れ込まれて俺とユウディアスの奇妙な恋愛本を見せられた。
「はぁ?!誰がこんな漫画描いたんだ!?」
「私が描いたんだヨ!」
「・・・はい?」
「いや、だから私が描いたの!」
「遊歩が!?」
「うん」
俺は驚きのあまり開いた口が塞がらなくなった。
だってあのお兄ちゃん大好きっ子である妹が同人誌を描くなんて・・・絶望。
「妹が・・・なんてモノを・・・作っちまったんだ・・・」
「遊飛、誤解しないで。これは大チャンスなんだヨ」
「こんなイロモノにチャンスも何もあるかぁ!」
俺は遊歩が描いた同人誌を床に叩き付けながら叫んだ。
「こんなんユウディアスに見られたらどうするんだよ!」
「それは大丈夫。ちゃんとユウディアスの目の届かない所に保管しておくから。」
「あ・・・そうか・・・じゃねーよ!こんなの作って何するつもりだよ!」 
「よくぞ聞いてくれましたな、兄よ。」
「なんだよ、妹の遊歩さんや」
「いきなりで説明不足だったもんネ。じゃあ今から説明するヨ。」
遊歩が言うには遊飛がユウディアスと付き合い初めてからは、他の宇宙人や地球人たちの間でこの、【ユウディアス×遊飛】というカップリングがブームになっているのだ。
この二人の同人誌を作って売り出せばさらにブームを加速させられるし金儲けもできる・・・そういう算段だそうで。
「何その商売魂・・・俺の妹やべー・・・」
「まあそう言わずにさ、これを2週間後に地下宇宙人居住区でやる宇宙コミケで出したらきっと沢山売れると思うんだヨ。どうかナ遊飛!」
「宇宙コミケうんぬんよりも、俺らに断りもなくそんなもん出すな。」
「えー!そしたら儲けた分だけ遊飛とユウディアスにも分け前をお給料として出してあげようと思ったんだけどナー」
「いや意味わかんねーし当たり前だろが(当たり前でもない)」
「なら、私と一緒に売ってくれる?これ全部」
遊歩はニヤリと笑って俺に聞いてきた。
俺はその笑みに背筋に冷たいものが走った。
「お前まさか・・・」
「これはUTS社長の私、王道遊歩からの業務命令だヨ。ユウディアスにバレたくないなら、協力しない手はないよネ。」
「くっ・・・お前も俺の弱みを握りやがって・・・」
「持つべきものは兄の弱味、デショ?」
それから俺は遊歩の同人誌の販売に付き合わされるハメになった。
妹と二人して恋人とのイロモノ本(全年齢)を出すなんてこんな恥辱プレイ、Mでもなけりゃ無理だ。
しかもそれがユウディアスにバレたらどうなるんだよ・・・考えただけで死にたくなる。
ああ早く当日が過ぎればいいんだ!そしたら俺(とユウディアス)はあの馬鹿妹から解放されるんだ!頼むよ神様!!


そんなこんなで・・・
同人誌を増刷した俺らは地下のイベントスペースにやってきた。
ユウディアスにだけは見つかりたくないため、朝早くから家を出ていて、本人には宇宙コミケに参加することは伝えていない。
というか、教える訳にはいかない。
そのユウディアスからデートのお誘いがあったが社長からの視線が痛くて断ってしまった。
その時の恋人はキリッとした眉をハの字に下げていて可哀想だった。
あぁ・・・ユウディアス、寂しそうな顔してたなぁ・・・ごめん・・・
「さてと、スペース設営に取り掛かるヨ」
「ああ・・・わかってる・・・」
俺は遊歩と一緒に箱から本を取り出しそれをテーブルの上に丁寧に並べながら最後の確認をする。俺は本をざっとパラパラめくってみた。
「・・・なぁ遊歩、流して読んでみたんだけどさ、」
「何?」
「俺とユウディアス、ここまで進んではいないんだけど・・・その・・・ハグならともかく、き、キスとかは、まだ・・・」
「まぁ、一部はフィクションで描いてるからネ。けど、」
遊歩はぐいっと遊飛の耳元に近づいて囁く。
「『ある程度のこと』は、起こってるみたいだヨ?」
「はあ!?」
遊飛はガタッと立ち上がってしまった。
周りにいた宇宙人達がびくりとしてこちらを見ていた。
慌てて遊歩と一緒にペコペコと頭を下げる。「そ、それどーゆう意味だよ」
「気になるなら自分で確認してネ」
そう言って俺の腕を無理矢理引いてスペース設営の続きを始める遊歩。
俺はユウディアスに知らないうちにキスとかされてんのか?いや、でも・・・確かに恋人だし・・・でもまだキスもしたことないのにそれ以上なんて、いやでも俺が知らないだけでユウディアスはそれ以上のことを求めてるのか?いや、でも・・・ 頭の中が混乱してクラクラしてきた。
「遊飛、大丈夫?」
「あ、ああ・・・」
「まあ確かにいきなりあんなモノ出されたらビックリするよね」
遊歩はしゃがみ込んで本を並べながら話す。
「それはごめんネ」
「・・・もういいよ、過ぎたことだし。それより早く準備しようぜ。スペース設営終わったら他のサークルも見て回りたいしさ。」
「うん!」
それから俺らは設営を終えて他のサークルを色々と見て回ることにした。


一方その頃・・・
朝起きたら愛おしい恋人の姿が見えず、またその恋人が大切にしている妹までいないので、ユウディアスはしょげ返っていた。
「どうして朝起きたら遊飛と遊歩がいないのだ・・・田崎たちに聞いても教えて貰えないし・・・ソレガシが何かしてしまったのだろうか・・・はぁ・・・」
ユウディアスは溜め息を吐きながらおつかいの帰路についているところだった。
「ん?ユウディアスどうしたんだ?」
通りかかったのは黒髪の少年、MIKの支部長の蒼月マナブだ。ユウディアスは彼に事情を説明しながら尋ねることにした。
「遊飛と遊歩が朝から姿を消してしまったのだ、何処に行ったか知らないか?」
「そういえば・・・」
遡ること8時間前、マナブは朝の散歩の途中、地下宇宙人居住区に繋がる地下鉄の方へ歩いて行く遊飛と遊歩の姿を見かけた。
二人の手には紙袋がぶら下がっている。
(こんな朝早くに地下に何の用だろう・・・あ、あれか。地下でイベントをやるって話を聞いたことがあるぞ。二人はそれに参加するのか)
マナブはそんな事を考えながら二人の後ろを素通りした。
「あの二人なら地下の居住区でやってるイベントに参加しているみたいだぞ」
「何!?そうなのか!?」
ユウディアスは驚きのあまり目を見開いた。まさか遊飛がそんな場所で開かれているイベント会場にいるとは・・・それにしてもなぜ自分に教えたりもせず遊飛はそこにいるのだろうか。きっと、何か事情があるのだろう。
「ユウディアス?」
「ああ、すまない。あの二人が地下居住区でイベントをしているというのはわかったのだが、ソレガシには何も言っていなくてだな・・・いや、実は昨日から遊飛の様子がおかしくて、ソレガシが何かしでかしたかと思い詰めておったのだ」
マナブはユウディアスがここまで落ち込む姿を初めて見たので思わず笑ってしまった。
「ははっ、そんなに心配なら実際に会場に行ってみたらいいんじゃないか?」
「・・・そうだな」
ユウディアスは頭を軽く振って踵を返す。
「礼を言うぞ、マナブ!」
「ああ。」
マナブと別れた後、ユウディアスは急いで会場へと向かった。
(遊飛・・・今、お前の隣にいるのは誰だ?お前の隣に別の誰かがいるのか?ソレガシの側に居てくれぬのなら・・・いっそのこと奪ってしまいたい)
そんな仄暗い感情を胸にしまいながら・・・

そして時は戻り現在に戻る。
俺らはサークルを一通り見て回った後、自分達のスペースに戻って同人誌の販売にいそしんでいた。
(結構お客さん来てくれてるなぁ。・・・自分達が作った物を喜んで買ってくれるのって、なんかいいな。)
気づけば残り部数が一桁になっている。
あと少しで完売だ。
「やっぱり【ユディゆひ】は覇権CPだから飛ぶように売れますナァ~」 
「なんだよそのCP名・・・」
「だってユウディアスと遊飛のカップリングなんだもん」
「はぁ・・・」
俺は溜め息を吐きながら椅子に座って頬杖をつく。
「にしても、こんなに沢山売れていいのか?」
「いいってコトヨ☆」
「語尾に☆をつけるなよ」


「遊飛、私ちょっとトイレ行ってくるネ」
「おー」
俺は気だるげに手を振ると、遊歩はスペースを後にした。
ぼんやりと周りを眺めていると、
「遊飛」
俺の名を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえた。え、まさか、
「ユウディアス!?」
声の聞こえた方へ顔を向ければそこには恋人の姿があって、俺は椅子から勢い良く立ち上がってしまった。
「ど、どうしてここに・・・」
顔面蒼白の俺に向かってユウディアスは、
「遊飛、心配したのだぞ!朝からお前も遊歩もいないから探しに来たのだ!マナブから二人が地下に向かうのを見たと教えてくれたおかげでようやく見つけた・・・!」
マナブがなんで知ってんだよ!
そんでチクったのかよ、よりによってユウディアスに!
アイツ今度会ったら制裁だ!! 
と、マナブへの恨み事を考えていたせいで、不意にユウディアスの視線が机の上にある本に移った事に反応が遅れた。 
「この本は?」 
「あ」
ユウディアスがついに・・・本を手に取ってしまった。 
(ヤバイ、終わった、)
本を開くユウディアス。
開いた先には終始甘いムードを垂れ流すページの中のユウディアスと自分。
ちょっと過激なキスシーン。
遊歩、ホントにこれ全年齢本なの?
目の前でユウディアスが矢継ぎ早に何か言っているのが聞こえるが、この上ない恥ずかしさと絶望で言ってる内容が頭に入ってこない。
顔は紅潮し、全身の穴という穴からどっと水分が抜けていくのを感じる。 
「何と・・・!漫画の中のソレガシと遊飛はもう既に・・・!この漫画の作者は誰だ?!遊飛か?!」
興奮して大きな声で喋るユウディアスが本から視線を目の前の遊飛に戻すと、
「~~~~~~~!!!!」
頬を赤く染め、キャラメル色の大きな瞳から大粒の涙をこぼしているではないか。
「ゆ、遊飛っ!?どうした!何処か痛いのか?!具合が悪いのか!?、」
ユウディアスは突然の事にパニックになりながら遊飛に近寄った。
すると遊飛はユウディアスの手の中の本を奪い取り、
「み、見んなよバカヤロウ!!」
そう叫んだ後、スペースを飛び出して行った。
「ゆ・・・ゆうひ?何処へいくんだ!?遊飛ーっ!」
ユウディアスは、取り残されたまま遊飛の去った方を見つめるしかなかった。
「おまたせ~、あれっユウディアス?」
トイレから遊歩が戻ってきた。
「ゆ、ゆあむ・・・」 
「あー・・・」 
遊歩は遊飛が恐れていた事態が起きてしまった事を察した。
そして今にも泣きそうなユウディアスから事の顛末を聞いた。
「ソレガシは遊飛を怒らせてしまった・・・ソレガシが軽率な行動をしてしまったばかりに・・・」
「そうだネ。目の前で本の内容を大声で読み上げられるのは誰だって恥ずかしいヨ。」
「すまない、遊歩・・・」
「けど、私も悪い。だって二人に内緒でこんな本作っちゃったんだから。」
「そうだったのか、全然知らなかったぞ・・・」
「で、その遊飛は逃げられたって事で良い?」
頷くユウディアス。
「ユウディアスに見つからないように、気をつけていたもんネ、遊飛。その理由は単純に恥ずかしいってのもあるんだけど・・・」
「・・・?他に何かあるのか?」
ユウディアスは遊歩から何やら耳打ちを受けた。
そして、全てを理解したユウディアスは遊飛を探しに駆けだしたのだった。  


遊飛は止めどなく溢れてくる涙を必死に袖で拭いながらとぼとぼ歩いていた。
「遊飛!待ってくれ!」
ユウディアスが後ろから走って追いかけてきた。
「・・・!来んな!」
「何故なのだ?なぜ逃げるのだ?」
ユウディアスは遊飛の肩を掴んだ。振りほどこうとしても力の差がありすぎて振り払えない。俺は唇を嚙み締めて俯くしかなかった。
「・・・・・・」
恥ずかしいから逃げ出したなんて口が裂けても言えないし、それは俺のプライドが許さない。
だって、あの本の中の俺と、ユウディアスはキスを交わしていて、現実の俺達ときたらハグはしていてもキスはしていない。
俺の中ではキスをするのが恋人らしい行動だと思っていても、ハグとかじゃあ普通に友達とか家族とかとしても不思議じゃないから。
あんな本で、恥ずかしさと悔しさを感じながら走って逃げたなんて知られたら、それこそもうどんな顔でユウディアスと向き合えばいいのか分からなくなってしまう。
「遊飛、こっちを見てくれ」
ユウディアスが両手で俺の肩を掴む。
俺は黙ったまま首を左右に振った。
するとユウディアスは俺の顎に手を添えて無理矢理顔を自分に向けさせた。
「遊飛」
「・・・ッ」
ユウディアスの鋭い視線が俺を射抜く。
この眼で見られると、俺はもう抵抗が出来なくなる。そして、ユウディアスの顔が近づいてきたかと思うと唇が重なり合っていて、何度も何度も角度を変えながらキスをしていた。
「ゆ・・・うひ・・・」
唇が離れると俺は呼吸を荒げながら名前を呼んだ。ユウディアスは俺の頬を撫でる。
その優しい手つきが心地よくて思わず擦り寄った。
「遊飛、すまなかった」
「なんで謝るんだよ」
「・・・遊飛の気持ちを察せず、不快な思いをさせてしまった・・・恋人失格だ」
「そうじゃないだろ、ユウディアスは悪くない。俺が悪いんだ。勝手に(遊歩が)本のネタにしちゃったし、それに・・・勝手にいなくなったりして」
あんな内容が載ってる本をユウディアスに見られたんだから・・・ああもう!自分で言ってて恥ずかしい!
俺は恥ずかしくなってまた泣きたくなった。
「遊飛」
呼ばれて顔を上げると今度はさっきよりも深く口づけされる。
くちゅくちゅと舌が絡み合う音が耳に届く。
「ん・・・ふ、ぅ」
ユウディアスのキスは優しくて、でも少し強引で、俺はその緩急にいつも翻弄されてしまう。「ゆ・・・うひ・・・」
唇が離れると俺はユウディアスに抱きついた。そしてそのまま肩に顔を埋める。
「遊飛?」
「俺さ、あの本みたいにユウディアスとキスしたいし、もっとくっついたりとかしたいんだよ」「・・・ああ」
「でも、俺あんな本みたいな事なんてしたことないし、どうしたらいいかなんて全然わからないし」
「大丈夫だ。ソレガシが遊飛のペースに合わせるから、だから・・・」
ユウディアスは俺を抱き締めたまま耳元で囁く。「ソレガシをお前の恋人のままで居させてくれ。遊飛と色んな事を経験していきたいのだ」
「・・・うん」
俺は嬉しくてまた涙が零れた。
でも今度は嬉し涙だ。
「遊飛、好きだ」
「・・・俺もだよ」
ユウディアスの腕に力が籠るのを感じた。
・・・その様子を遊歩は物陰からしばらく見つめていたが、やがて二人に背を向け、スペースの片付けに戻っていった。


こうして、宇宙コミケは無事閉幕。
お客さんも沢山来てくれて、沢山の差し入れや感謝の言葉を貰った。
もちろん俺達のサークルも一応完売で、大成功を収めたのだった。
次の日、俺と遊歩、ユウディアスは今回のイベントの売り上げを数えていた。
「ねぇ二人とも、イベントの感想は?」 
「とても楽しかったぞ!」
「え?いや、べ、別に・・・」
「なに照れてんのサ、遊飛は」
「照れてねーし!(だってユウディアスが妙に距離近いから、俺は緊張してそれどころじゃねーんだよ!)」
「ソレガシは遊飛の可愛い所が沢山見れてとても良かったぞ。」
「かわ・・・って、ば、バカヤロ!恥ずかしいコト言うんじゃねーよ!」
俺はユウディアスの言葉に耳まで真っ赤にした。
するとユウディアスは俺に手を伸ばしてきて俺の唇を親指でなぞった。
「ああ、やはり遊飛には笑顔が似合う」
「・・・っ!」
そんな俺らを見て遊歩が一言。
「お熱いですナァ~これは次のコミケが楽しみだネ☆」
「「え?」」
遊歩は味を占めたようである。
終わり♡
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