花魁坂京夜
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花魁坂さんが好きだ。
患者の手当てをしている時の手つきや、安心させる為に話しかけている時の声音。軟派な見た目や言動をしているが、いざその時が来たら誰よりも真剣な目をしている彼が。
「花魁坂さん。先日の戦闘の負傷者のリストの経過観察の書類です」
「瑞希ちゃんありがと~」
会話終了。私がもっとコミュニケーションが上手ければここで何かの話題で花魁坂さんに話しかけ、そこから会話を広げる事ができるのだろう。
でも、いざ彼を前にすると脳内でいくらシュミレーションしても頭が真っ白になってしまい、口からでるのは仕事関係の話ばかり。
ほんと、自分が嫌になる。
花魁坂さんと別れた後しょぼくれている私の姿に、同僚は「またぁ?」と呆れた声で言った。
「だって……」
「だっても何もないでしょ。話しかけなきゃ何も始まらないわよ」
「うっ」
私の恋心を知っている彼女はグサリと言葉の刃で斬りかかってくる。唇を尖らせて「だってぇ」て言い訳をする私にため息ひとつを零した。
「はあ。まったくこの子は」
「そんなはっきり言わないでよ……」
肩を落として下唇を噛みしめる。
そんな私の姿に哀れに思ったのか、彼女は私の肩に手を置くと「アンタの為に一肌脱いで上げる」と言った。
「花魁坂先生が酔うとキス魔になるのは知ってる?」
「え、なにそれ知らない」
私はお酒が強い訳ではないので、飲み会に誘われても断る事が多い。くわえて飲み会特有の空気がどうも苦手で、一度も参加した事がなかった。
まさか花魁坂さんにそんな一面があったとは。
「まずあたしが飲み会を開く。で、花魁坂先生を酔わせてアンタにキスさせる。次の日アンタはキスされた件で責任を取れって迫る」
「最低だよ!!」
友人の作戦に思わず叫んでしまう。
「こうでもしなきゃ進めないでしょ。じゃ、飲み会は明後日やるから」
すたすたと振り向きもせず去っていく背中を、明後日行われる飲み会への不安と期待を抱え見つめた。
──明後日夜。
がやがやと居酒屋特有の騒がしさと、店内に漂うアルコールや食欲をそそる匂いに包まれながら、私は隣に座る花魁坂さんに緊張で身を固くしていた。
「瑞希ちゃんが飲み会に来るの珍しいね〜」
アルコールによって頬を赤く染めて、そう言った花魁坂さんに私は軽く笑ってごまかした。
(あなたとキスをする為に来ました。なんて、絶対に言えない……)
それから数十分後。見事に出来上がった花魁坂さんは顔を真っ赤にして、もう半杯目かも分からない、ビールをコップに注いで飲み干した。
「花魁坂さん飲みすぎですよ」
(大丈夫なのかな……)
心配しながら花魁坂さんを見つめていると、横を向いた彼と目が合う。
「瑞希ちゃん……」
私の名前を呼んだ花魁坂さんの目は潤み、頬は赤く染まっていた。その姿は酷く艶めかしくて、心臓が大きく跳ねる。
ゆっくりと顔を近づけてくる花魁坂さんに、耳元でなっているのではないかと思えるほど、鼓動がバクバクと鳴る。
目と鼻の先にまで迫ってきている顔に
(あ、キスされる)
ギュッと目を瞑った次の瞬間──「げぇっ」と嘔吐する声と胸元が濡れる感覚、それと酸っぱい臭いがツンと鼻を突く。
目を開いてみるとさっきまで赤かった顔を青くして、口元を嘔吐物で汚した花魁坂さんがいた。
「瑞希ちゃ、ごめ……」
謝罪を口にして、花魁坂さんはパタリと崩れ落ちるように倒れた。
「ぎゃー花魁坂さん!」
「すいませーん!」
叫びを上げる者。店員を呼ぶ者。居酒屋の一室が混乱に陥る。
私は花魁坂さんが嘔吐物で喉を詰まらせてしまわないように、体を横向きにする。
お絞りで口元を拭きながら、花魁坂さんの名前を呼べば「ゔゔぅ゙」うめき声が帰って来る。眉間に皺を寄せて気持ち悪そうな彼の背中を擦る。
視界の端ではこの飲み会の主催者である、友人が顔を片手で覆いため息をついていた。
翌日の休憩時間。昼食を同僚達と食べていると、後ろから「瑞希ちゃん…」とか細い声で名前を呼ばれた。
振り向くと、そこには背中を丸め、眉尻を下げた表情の花魁坂さんがいた。
「ちょっと話せない?」
「いいですけど……」
友人に目を向けると、彼女は「行ってきな」と言った。
患者の手当てをしている時の手つきや、安心させる為に話しかけている時の声音。軟派な見た目や言動をしているが、いざその時が来たら誰よりも真剣な目をしている彼が。
「花魁坂さん。先日の戦闘の負傷者のリストの経過観察の書類です」
「瑞希ちゃんありがと~」
会話終了。私がもっとコミュニケーションが上手ければここで何かの話題で花魁坂さんに話しかけ、そこから会話を広げる事ができるのだろう。
でも、いざ彼を前にすると脳内でいくらシュミレーションしても頭が真っ白になってしまい、口からでるのは仕事関係の話ばかり。
ほんと、自分が嫌になる。
花魁坂さんと別れた後しょぼくれている私の姿に、同僚は「またぁ?」と呆れた声で言った。
「だって……」
「だっても何もないでしょ。話しかけなきゃ何も始まらないわよ」
「うっ」
私の恋心を知っている彼女はグサリと言葉の刃で斬りかかってくる。唇を尖らせて「だってぇ」て言い訳をする私にため息ひとつを零した。
「はあ。まったくこの子は」
「そんなはっきり言わないでよ……」
肩を落として下唇を噛みしめる。
そんな私の姿に哀れに思ったのか、彼女は私の肩に手を置くと「アンタの為に一肌脱いで上げる」と言った。
「花魁坂先生が酔うとキス魔になるのは知ってる?」
「え、なにそれ知らない」
私はお酒が強い訳ではないので、飲み会に誘われても断る事が多い。くわえて飲み会特有の空気がどうも苦手で、一度も参加した事がなかった。
まさか花魁坂さんにそんな一面があったとは。
「まずあたしが飲み会を開く。で、花魁坂先生を酔わせてアンタにキスさせる。次の日アンタはキスされた件で責任を取れって迫る」
「最低だよ!!」
友人の作戦に思わず叫んでしまう。
「こうでもしなきゃ進めないでしょ。じゃ、飲み会は明後日やるから」
すたすたと振り向きもせず去っていく背中を、明後日行われる飲み会への不安と期待を抱え見つめた。
──明後日夜。
がやがやと居酒屋特有の騒がしさと、店内に漂うアルコールや食欲をそそる匂いに包まれながら、私は隣に座る花魁坂さんに緊張で身を固くしていた。
「瑞希ちゃんが飲み会に来るの珍しいね〜」
アルコールによって頬を赤く染めて、そう言った花魁坂さんに私は軽く笑ってごまかした。
(あなたとキスをする為に来ました。なんて、絶対に言えない……)
それから数十分後。見事に出来上がった花魁坂さんは顔を真っ赤にして、もう半杯目かも分からない、ビールをコップに注いで飲み干した。
「花魁坂さん飲みすぎですよ」
(大丈夫なのかな……)
心配しながら花魁坂さんを見つめていると、横を向いた彼と目が合う。
「瑞希ちゃん……」
私の名前を呼んだ花魁坂さんの目は潤み、頬は赤く染まっていた。その姿は酷く艶めかしくて、心臓が大きく跳ねる。
ゆっくりと顔を近づけてくる花魁坂さんに、耳元でなっているのではないかと思えるほど、鼓動がバクバクと鳴る。
目と鼻の先にまで迫ってきている顔に
(あ、キスされる)
ギュッと目を瞑った次の瞬間──「げぇっ」と嘔吐する声と胸元が濡れる感覚、それと酸っぱい臭いがツンと鼻を突く。
目を開いてみるとさっきまで赤かった顔を青くして、口元を嘔吐物で汚した花魁坂さんがいた。
「瑞希ちゃ、ごめ……」
謝罪を口にして、花魁坂さんはパタリと崩れ落ちるように倒れた。
「ぎゃー花魁坂さん!」
「すいませーん!」
叫びを上げる者。店員を呼ぶ者。居酒屋の一室が混乱に陥る。
私は花魁坂さんが嘔吐物で喉を詰まらせてしまわないように、体を横向きにする。
お絞りで口元を拭きながら、花魁坂さんの名前を呼べば「ゔゔぅ゙」うめき声が帰って来る。眉間に皺を寄せて気持ち悪そうな彼の背中を擦る。
視界の端ではこの飲み会の主催者である、友人が顔を片手で覆いため息をついていた。
翌日の休憩時間。昼食を同僚達と食べていると、後ろから「瑞希ちゃん…」とか細い声で名前を呼ばれた。
振り向くと、そこには背中を丸め、眉尻を下げた表情の花魁坂さんがいた。
「ちょっと話せない?」
「いいですけど……」
友人に目を向けると、彼女は「行ってきな」と言った。
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