桃角桜介
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物が叩き付けられる音や荒々しく大きな声に、ゆっくりと意識が浮上する。
(…この声、桜介君?)
テレビで格闘技の試合を観ている時の興奮しきった声とは違う、我を忘れた様な慟哭が絶えず聞こえてくる。
彼がこんな声を出すなんて、一体なにがあったのだろうか。
夢現でぼんやりした思考の中、彼の傍に行かなければと思った私は体を動かした。が、思ったように動かなかった。
何かに引っかかっているような感覚に、重たい瞼を開いた。暗い視界の中、目の前には寝室の白い壁が広がっていた。どうやら寝ている間にベッドから転がり落ちて、横向きに壁とベッドの隙間にはまってしまったらしい。
のっそりと隙間から体を起こすと、体のあちこちの関節からぱきぱきと音が鳴る。
サイドテーブルに置いてあるデジタル時計に視線を向けると、暗闇の中で滲んでいる光は二十三時を表示していた。記憶は曖昧だが昼寝をしようと思いベッドに入ったのは、十五時頃だったような気がする。随分と寝てしまっていたらしい。
私はあくびを一つして「よいしょ」と隙間から這い出ると、音の発生源であるリビングへ向かった。
半開きの扉を開けると、リビングは酷い有様だった。床には叩き壊された食器の破片がいくつも散らばっており、一歩でも足を踏み入れれば無事ではすまないだろう。壁のあちこちにはいくつもの拳大の穴が空き、テレビや家具はなぎ倒され台風でも来たのかと言いたくなる程だ。
その惨状の中心では私を監禁している主であり、夫の桃角桜介が背を向けて蹲っていた。
彼は私の存在に気がついていないのか、ぶつぶつと呟き続けている。
「桜介君」
名前を呼ぶが、彼は聞こえていない様で、まだ呟き続けている。仕方なく今度は大きな声で「桜介君!」と名前を呼んだ。
「……瑞希?」
おそるおそるといった様子で顔を上げて振り向いた桜介君は、リビングと寝室の入口に立つ私の姿に目を見開き名前を呼んだ。
「ねえこれなにが──え、ちょっ?!」
ザクッ、ジャリッ。桜介君は割れた食器の破片の散らばる床の上を歩いて、ずんずんとこちらへ近づいてくる。
彼が破片を踏みしめる度に、じわじわと白の靴下を染める赤に心配の声がもれる。
通った後に赤い足跡を残しながら近づいてきた彼は、その逞しい腕の中に私を閉じ込めた。ぎゅうと、体が痛いほど抱きしめながら「どこにいたんだ」と尋ねてきた。
「ベッドと壁の隙間に挟まってた」
そう言うと、桜介君は「はあ」と大きく息を吐き出すと、腕の力を更に強めた。私も彼の背中に腕を回して、ぎゅうと抱きしめると、少しだけ締め付ける力が緩んだ。
「お前が……」
「うん」
「いなくなったと……」
「私が桜介君置いてどっかに行くわけないじゃん。第一に、こんな状態じゃ逃げられないよ」
私は左足にはめられている、足枷と鎖へ視線を落とした。鎖を辿れば、寝室の奥の壁へとつづいている。
半年前、鬼の暴走に巻き込まれた私は怪我を負い、数日間の昏睡状態に陥った。幸い、間一髪のところで助かり傷跡は残ってしまったものの、後遺症は片足を少し引きずる程度のものだった。
昏睡状態から目覚めた日、病室に駆け込んできた桜介君の姿を今でも鮮明に覚えている。
きっと連絡を受け、急いで来てくれたのだろう。額に玉の汗を浮かべ、息を切らしながら駆け込んできた彼はベッドの上で上体を起こしている私の姿を見ると、病室の入口で「よかった」と呟いて座り込んだ。
「退院後の面倒は俺がみる」
その言葉に甘えて桜介君の家に着いたその日。リビングのソファーに座ってゆっくり休んでいると、眠気に襲われた私はそのまま身を委ねた。
目が覚めると私の左足には足枷が嵌められており、こうして監禁生活がスタートした。
そしていつの間にか私の苗字は“桃角”になっていた。
すぐそばに落ちていた、壁にぶつけられて角がひしゃげてしまった救急箱を拾う。
「ほら、足の傷の手当てしよ」
「ああ…」
じゃらりと、足枷の鎖が鳴った。
(…この声、桜介君?)
テレビで格闘技の試合を観ている時の興奮しきった声とは違う、我を忘れた様な慟哭が絶えず聞こえてくる。
彼がこんな声を出すなんて、一体なにがあったのだろうか。
夢現でぼんやりした思考の中、彼の傍に行かなければと思った私は体を動かした。が、思ったように動かなかった。
何かに引っかかっているような感覚に、重たい瞼を開いた。暗い視界の中、目の前には寝室の白い壁が広がっていた。どうやら寝ている間にベッドから転がり落ちて、横向きに壁とベッドの隙間にはまってしまったらしい。
のっそりと隙間から体を起こすと、体のあちこちの関節からぱきぱきと音が鳴る。
サイドテーブルに置いてあるデジタル時計に視線を向けると、暗闇の中で滲んでいる光は二十三時を表示していた。記憶は曖昧だが昼寝をしようと思いベッドに入ったのは、十五時頃だったような気がする。随分と寝てしまっていたらしい。
私はあくびを一つして「よいしょ」と隙間から這い出ると、音の発生源であるリビングへ向かった。
半開きの扉を開けると、リビングは酷い有様だった。床には叩き壊された食器の破片がいくつも散らばっており、一歩でも足を踏み入れれば無事ではすまないだろう。壁のあちこちにはいくつもの拳大の穴が空き、テレビや家具はなぎ倒され台風でも来たのかと言いたくなる程だ。
その惨状の中心では私を監禁している主であり、夫の桃角桜介が背を向けて蹲っていた。
彼は私の存在に気がついていないのか、ぶつぶつと呟き続けている。
「桜介君」
名前を呼ぶが、彼は聞こえていない様で、まだ呟き続けている。仕方なく今度は大きな声で「桜介君!」と名前を呼んだ。
「……瑞希?」
おそるおそるといった様子で顔を上げて振り向いた桜介君は、リビングと寝室の入口に立つ私の姿に目を見開き名前を呼んだ。
「ねえこれなにが──え、ちょっ?!」
ザクッ、ジャリッ。桜介君は割れた食器の破片の散らばる床の上を歩いて、ずんずんとこちらへ近づいてくる。
彼が破片を踏みしめる度に、じわじわと白の靴下を染める赤に心配の声がもれる。
通った後に赤い足跡を残しながら近づいてきた彼は、その逞しい腕の中に私を閉じ込めた。ぎゅうと、体が痛いほど抱きしめながら「どこにいたんだ」と尋ねてきた。
「ベッドと壁の隙間に挟まってた」
そう言うと、桜介君は「はあ」と大きく息を吐き出すと、腕の力を更に強めた。私も彼の背中に腕を回して、ぎゅうと抱きしめると、少しだけ締め付ける力が緩んだ。
「お前が……」
「うん」
「いなくなったと……」
「私が桜介君置いてどっかに行くわけないじゃん。第一に、こんな状態じゃ逃げられないよ」
私は左足にはめられている、足枷と鎖へ視線を落とした。鎖を辿れば、寝室の奥の壁へとつづいている。
半年前、鬼の暴走に巻き込まれた私は怪我を負い、数日間の昏睡状態に陥った。幸い、間一髪のところで助かり傷跡は残ってしまったものの、後遺症は片足を少し引きずる程度のものだった。
昏睡状態から目覚めた日、病室に駆け込んできた桜介君の姿を今でも鮮明に覚えている。
きっと連絡を受け、急いで来てくれたのだろう。額に玉の汗を浮かべ、息を切らしながら駆け込んできた彼はベッドの上で上体を起こしている私の姿を見ると、病室の入口で「よかった」と呟いて座り込んだ。
「退院後の面倒は俺がみる」
その言葉に甘えて桜介君の家に着いたその日。リビングのソファーに座ってゆっくり休んでいると、眠気に襲われた私はそのまま身を委ねた。
目が覚めると私の左足には足枷が嵌められており、こうして監禁生活がスタートした。
そしていつの間にか私の苗字は“桃角”になっていた。
すぐそばに落ちていた、壁にぶつけられて角がひしゃげてしまった救急箱を拾う。
「ほら、足の傷の手当てしよ」
「ああ…」
じゃらりと、足枷の鎖が鳴った。