淀川真澄
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庶務課に届ける書類を持って椅子から立ち上がると、先輩に声をかけられた。
「書類を持っていくついでに担当の奴らに渡しといてくれ」
差し出されたビニール袋を受け取って中をのぞくと、パンや飲み物といった軽食が入っていた。
「昨日捕まえた奴がまだ吐かなくてな」
「え、まだ吐いてなかったんですか」
時計を見ると現在の時刻は十四時過ぎ、鬼が生け捕りにされたのは昨日のお昼。つまり丸一日経っているのである。大抵の鬼は半日で音を上げるが、今回の鬼は随分としぶとい様だ。
「しぶといやつだよ。さっさと吐けば楽になるのにな」
「わかりました。アタシもうお昼休憩終わったので交代してきますね」
「頼んだ」
拷問に一日耐えるとは、一体どんな鬼なのだろうか。今までとは違う鬼に少し興味が芽生えた。
書類を届け終わり、一旦休憩室へ行き、共用の冷蔵庫にパンと飲み物を入れてから拷問用の部屋がある階へ向かう。
使用中のランプがついている部屋をノックしてドアを開けて「おつかれ様でーす」と中にいた数人に声をかける。
「あとは全部やっとくんで休憩どうぞ。休憩室に軽食置いてあるんで食べてください」
「まじ?サンキュー!」
「やっと昼メシ食えるわー」
簡単な引き継ぎをして、お礼を言いながら隊員達は出ていく。最後の一人を見送り、部屋の中にいるのは男鬼と私だけとなった。
衣服を全て脱がされ、部屋の中央にある椅子に縛り付けられた状態で動き一つせずに俯いている鬼へと近づく。体には切り傷や刺した跡、肉をむしり取ったものもある。両手両足の爪は全て剥がされていて、当然ながら手当などされておらず、血が椅子を中心に周りの床を汚していた。
(さてさて、どんなツラしてんのかな)
私が前に立つと、鬼は顔を上げた。その顔を見た瞬間、心臓が握りしめられたみたいにギュンとなり、今までに感じたことのない高揚感が体を駆け巡る。
「ちょータイプ♡」
黒目がちで大きな瞳、薄い唇、顔立ち。全てがストライクゾーンど真ん中を撃ち抜いている。顔が締まらず、だらしなく緩んでしまっているのが自分でも分かる。
蕩けた表情の私に、男鬼は表情を変えずに何いってんだコイツと言わんばかりの視線をぶつけてくる。
マジでタイプど真ん中の顔をしている、ここで死なすのは惜しい
「ねぇ、逃がしてあげようか?」
私がそう言うと鬼の表情は相変わらず変わらないが、困惑しているのが分かる。まあ、いきなり敵が「お前の事がタイプです。逃がしてあげましょうか」とか言われたら罠を疑うよな。なにか言いたそうな視線を無視して背後に周り首に腕を回して裸絞めで気絶させる。拘束具を解いて運搬台車に乗せ、その上からシートを被せて部屋を出た。
この瞬間ほど部屋にカメラがついていないのに感謝した日はないだろう。聞き間違いやボイスレコーダーの電源のつけ忘れ、記録係の字が汚くて清書する際になんて書いてあるか分からずボイスレコーダーで確認しようにもなんて言っているかわからないなんて事が度々起こっている。何度もカメラをつけろと言っても「ハイハイ」で流していた上司を拝む日が来ようとは。
途中ひやりとする場面があったが、目的地である鬼を燃やすための焼却施設に続く渡り廊下前に着いた。焼却施設は建物の外、別館として建てられており一階からの出入りも可能だが拷問部屋の階が三階にあり、殆どの人間が二階にある渡り廊下を利用している。逃がすのなら一階に降りたほうがいいが、怪しまれる可能性がある。
「ねえ」
小声で鬼に話しかける。つい数分前にシートが動く音が聞こえたので気がついたのは確認済みだ。
「廊下の先に非常階段がある。中から外へはカードキーは要らないから楽に出れるよ」
「……なんで助ける」
「言ったじゃん。タイプだって」
非常階段の入り口を通り過ぎた瞬間、シートがつぶれぺたぺたと鳴る音が非常階段から聞こえた。
(なるほど、姿が消せるタイプの能力ね〜)
何事もなかったように通り過ぎ、カメラに映っても怪しまれない様に捨てる動作して、台車をその辺に置いてもと来た道を戻る。
それにしても、
「声もタイプ〜♡」
(デスクに戻ったら書類の改竄をしないと)
スキップしそうなくらい軽い足取りで、私は自分の部署へと戻ったのだった。