神様の言う通り/HQ!!
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佐倉 要(さくら かなめ)
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治くんと角名くんと同じクラス。
ざっくり系女子。
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「腹減った……」
学年が上がり、1度目の席替えを迎えてからの初日。授業中に度々後ろの席から聞こえてくる呟きを、私は何食わぬ顔で無視し続けていた。だって彼は運動部で朝練もあるし、流石に何かしら詰めてから行くはず。そして食に並々ならぬこだわりがあるらしい彼のことだから、朝練が終わってからもきっと時間がなくとも何かしら食べていると思うんだけど。それでも足りないというのか、胃袋ブラックホールかよ。怖いな。
心の中で割と失礼な事を吐きながら、板書と先生の話を頭に叩き込む作業をする。まだ二限なんだけど、まさかお昼までずっとこの調子なんだろうか。流石にそれは喧しいにも程がある。正直あまり関わりたくはないと思っていたのだが、私の日常生活に支障が出かねないのだから致し方あるまい。
*****
二限終了のチャイムが鳴り先生が教室を出た瞬間、私は勢いよく振り返る。後ろの席の彼―――宮治は、イマイチ何を考えているのか分からない眠たげな表情でこちらを見た。まさか寝てたなこいつ、と思ったがそれはどうでもいい。私は鞄を漁ってその中からポッキーの箱を取り出し、無言で彼の机の上にぽいっと投げた。1袋だけ分けてやるかと思ったけど、どう考えても足りない気がして面倒なってしまった。好きなだけ食えよちきしょうと半ばキレながら前に向き直ろうとしたら、ぐいっとカーディガンの腕の部分を引っ張られた。
なんだポッキーでは不満か!と思いながら彼の方を見ると、先ほどまで眠たげだった目が大きく見開いていた。お前そんな顔も出来るのか……などとちょっと思いつつ、渋々彼の方を向いた。
「何でしょう」
「これ……」
「あげるから授業中に呟くのは止めてください」
「んえ、そんなに言うてた?」
自覚無いのかよ、などと面と向かって暴言を吐く自信はさすがに無いので、とりあえず深く頷いてやった。そっかぁ、と呟きながらそのまま彼はポッキーの方に意識が移ったようだったので、一息ついて私は改めて前に向き直った。良かった、私のおやつは無くなったが代わりに私の平穏は守られた。強いて言うならその後の休み時間に「治くんとなんか話してなかった!?」と友人に聞かれた位だ。別に楽しく談笑していた訳でもないので、いや特には……とだけ返しておいた。それ以外は何事もなく、このまま平和に一日を終える―――はずだった。
*****
学校帰り。私は友人と別れた後に本屋へと寄った。そういえば今日は新刊の発売日だったなと途中でふと思い出し、お目当ての物を購入してきたところだ。余計なものに目移りしてしまった所為で少し遅くなってしまったけど、ウチは特に門限に煩いわけでもないので一言だけ連絡しておけばそれで問題ない。ついでにコンビニにでも寄って行くか、と歩きながら慣れた手つきでスマホの画面に指を滑らせる。
……これがいけなかった。コンビニの入り口付近まで来た所で打ち終わり、送信ボタンを押すと同時に顔を上げて一歩踏み出した瞬間。
「あ、治。前……」
「あん?何や急に―――」
―――ガンッ、と鈍い音を立てて開くドアに激突してしまった。めっちゃ痛い。痛いのは痛いけど、ドアが開いたということは、出てきた客に見られたということだ。正直そっちの方が辛い。アホか!と自分に対する怒りと激突した顔面の痛みに震えながら蹲った。すると、ドアを開けたらしい男が慌てた様子で私の前にしゃがみ込んだ。
「うっわすんません!めっちゃぶつかりましたよね!?怪我とかしてません!?」
「だから前って言ったじゃん」
「遅いわ!止めんならもうちょい気合い入れて止めろや!」
「理不尽なんだけど。ちゃんと前見てない治が悪いんじゃん」
……なんかものすごい聞き覚えがある声がする。強打した鼻を押さえつつ、ちらりと目の前にしゃがみ込んだ男の顔を確認する。
「ホンマすんません……って……」
「あれ、佐倉さんだ」
―――目の前にいたのは、案の定宮くんだった。そしてその後ろには角名くん。何故よりにもよって同じクラスの連中に遭遇しなければならないのか。別の学年とか別のクラスとかならどうとでもなるのに!怒りと羞恥で絶望する私を余所に、宮くんはかなり驚いているようだった。
「ポッキーの子!」
「え、何それ」
「腹減ったなー思てたら休み時間にポッキーくれたんや、1箱!」
「うっわお前、恩を仇で返すとはまさにこのこと……」
「喧しいわ!あー、ほんまにごめんな」
「……ダイジョウブデス」
もはやコンビニに寄る気も失せてしまったので、一刻も早く家へ帰ろうと決意した。……が、鼻を押さえていた手を離すと、何か様子がおかしい。手がちょっと赤いんだけど。何だこれはとイマイチ上手く回っていない頭で眺めていると、目の前の2人の顔が突然強張ったように見えた。え、何だ。
「だっ……いじょうぶなわけあるか!」
「ちょっと待って、予備のタオル……あった。とりあえずこれで押さえて」
「ん、え、何……?」
「何、じゃなくて」
「鼻血出とるんやって!」
……あ、これ血だったかぁ。と酷く他人事のように赤くなった自分の手を眺めた。本当に最悪だ、おやつは無くなるし、ドアに激突するし、鼻血出るし、それで人様のタオルを汚してしまったし。半分以上今起きたことなんだけど。そもそも全部自分の所為なのに2人に心配させているのが一番嫌だ。だんだん虚しさのあまりに泣けてきてしまった。
「……!!」
「……佐倉さん歩ける?店の前じゃなんだし、あっちのベンチに移動しよう」
「だ、大丈夫です、もう良いんでこのまま帰りま―――ギャッ!?」
私が立ち上がり歩き出す……よりも早く、私の身体が若干の浮遊感に襲われた。つまり、問答無用でお姫様抱っこ状態である。
「ヒュウ、やるじゃん治」
「うっさ、このくらい余裕やし」
「あ、俺ちょっと侑達に声かけてくるわ」
角名くんはそう言うとひょいと私の荷物を持って、出てきたばかりのコンビニへ再び入って行った。バレー部の皆さんが全員ではないと思いたいのだが、もう片方の宮くんと銀島くんあたりがいるのだろう容易に推測出来た。ネタにされるのだけは嫌だなと思いつつ、角名くんから渡されたタオルに顔を埋める。
一体私はどこで選択を誤ったのだろうか。もしや最初からか、ポッキーをあげた所から間違っていたというのか。今更嘆いてもどうにもならないのだが、結果的に私はこうして色々やらかした挙句無言で運ばれてしまっている。後が怖すぎる。そうこうしている内に目的地に着いたらしく、私はゆっくりとベンチに下された。宮くんもこちらの様子を伺いつつ、私の隣に座った。
「す、すいません。重かったでしょうに……」
「余裕やって言うたやろ」
「はぁ、それはどうも……」
「……」
「……」
無言。この空気で愉快な話題提供をしろと言うわけではないが、流石に何かしら適当に返してくれても良いのではないか。いや私もさっさと帰りたすぎて雑に返してしまったのも悪いけれど。あまりにも気まずいので何か話を、と顔を上げようとしたらちょっと驚かれてしまった。
「ちょお待ち、鼻血出たときは下向くんやで下」
「……あれ、そうなんです?」
残念ながら日常的に鼻血が出るような生活は送ってこなかったので、鼻血の止め方などしみじみ考えたこと無かったなと思った。とりあえず話題提供を諦め、大人しく言われた通りに下を向くことにした。
「上向くと血ぃ飲むことになるやろ」
「あ、確かにそっすね。それは嫌だな……」
「鼻摘んでちょいと下向いて、10分くらいそのまんまな」
「へい」
幸いぶつかってからあまり上を向いていないので、血が流れ込んでくる感じは特にない。いやありがたいな、放っておいたらうっかり飲み込んでしまう所だった。そっと心の中で感謝をしていると、角名くんがコンビニから出てこちらへ歩いてくるのがちらりと見えた。
「うはは、治ってば女の子泣かしてやんの」
「ちゃうわボケ。……いやちゃうくないかもしれんけど今は止血中や」
「はいはい。荷物横に置いておくね。あ、佐倉さん紅茶は好き?」
「え、お、おっす。好きです」
「だよね。良かったら貰って」
荷物を置いた角名くんから、はい、とペットボトルを手渡された。だよねってどういうことだ。あまりにも自然な流れで差し出してくるものだからそのまま受け取ってしまった、が。
「いや待って、何で?」
「違うのが良かった?」
「そうではなく!」
「ほんまやで角名。何でお前が買ってきとんねん、俺が奢るとこやろ」
「うっはまじか、ウケる。こいつが奢るとか超レアだから何でも好きなの頼むと良いよ」
「そ、そうでもなく!何故私が奢られる立場に!」
思わず顔を上げて抗議をしたら、2人に何言ってんだこいつ的な顔をされてしまった。ついでに宮くんに「下」と頭を押さえつけられた。ぐぬぬと唸りつつイマイチ納得がいかないので視線だけちらりと向ける。
「私が前見てなかったのが悪いですし。むしろ奢らねばならないのは私では」
「真面目か!怪我したんはそっちなんやから大人しく奢られときゃええのに」
「そーそー。泣くほど痛かったんでしょ?」
「いやあれは、己の不甲斐なさに腹が立ったというか……」
「真面目か!何やねんそれ!」
何やねんと言われても、そんなにおかしいことを言ったつもりが無いのでむしろそっちが何やねんという気持ちなのだが。角名くんはなんか笑ってるし。いつも無表情だから表情筋死んでるのか?と思わないでもなかったけど、想像よりはちゃんと生きててちょっと安心した。若干失礼なことを考えつつ、そろそろ10分経っただろうかと様子を見てみる。……よし、多分止まってる。多分。
「お、止まったか」
「っぽいです。すいません、タオルは後日新品のものをお返しします」
「そこまでしなくていいのに」
「イヤ、洗濯するとしてもこれをお返しするのはちょっと―――」
「何や治ぅ、女の子泣かしたんやって!?」