毎日北くん!/HQ!!
夢小説設定
この小説の夢小説設定▼’デフォルト設定
立花 耀(たちばな あかる)
*****
北さんと大耳さんと同じクラス。
いつも楽し気な美術部員。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、北くんおはよう!」
「ん、おはよう」
朝練を終えて来たのであろう隣の北くんに、いつものように挨拶をする。そうすると彼もいつものようにきちんとこちらを見て、淡々と挨拶を返してくれる。特になんて事の無いやり取りだが、何だかんだこれを続けて3年目なのである。彼とは不思議とご縁があるようで、実は3年間ずっとクラスが同じなのだ。初めの頃はそりゃロクに話もしなかったわけだけど、きっかけは1年の時の最初の席替えで隣同士になったことだろう。私がうっかり教科書を忘れてしまったことがあって、彼にお願いして見せてもらったことがあった。忘れたことについてものすごい真顔でちょいとつつかれたけど、そこから少しずつ挨拶なり雑談なりをするようになった。
そんなこんなで3年間。当然席が離れることだってあったけれど、何となしに挨拶だけは必ず交わすようになっていた。きっとそれがお互いに当たり前で、日常習慣の一部となっているのかもしれない。だからどんな時でも必ず声をかける。私にはその距離感が何となく心地よかった。そして今日も今日とて隣の彼に挨拶をするのだ。そうして彼は荷物を下ろし席に座ってから、ひょっこりと私のスケッチブックを覗いてくる。これもいつもと同じ光景だ。
「今日は何描いてるん?」
「んっふふ、今日はこれやで」
これまたいつもと変わらぬ北くんの問いに、にんまりとした笑顔で机の上の一部を指さす。―――お昼のデザートにする予定のプリンである。私は元々絵を描くのが好きで、部活も美術部に所属している。美術部に朝練というものは存在しないが、私はある種朝練のように毎日登校してからHRまでの時間で軽くスケッチをしている。長い付き合いである彼も当然それを知っているので、毎日挨拶した後に何を描いているのか聞いてくる。そして大体そこから適当に雑談をすることが多いのだ。
「ああ、今日のデザート」
「せやねん!なんか無性に食べたくなってしもてなぁ」
「そういうもんか」
ふむ、とプリンをまじまじと見つめ考える北くん。確かに北くんはあんまり甘いものを食べてるの見たことないもんなぁ。ふわっと彼が市販のプリンを食している所を想像して、何となく微笑ましい気持ちになった。が、どうやらその気持ちが表情に出ていたのか、北くんに不思議そうな顔をされてしまった。
「何笑とんのや」
「あ、顔に出とった?北くんとプリンの取り合わせはかわええなぁと思って」
「いや、俺もプリンくらい普通に食うわ」
「ほんまに!?ちょお今度買ってくるから一緒に食べよ!?」
「別にええけど、その食いつきっぷりは何なん」
3年間一緒に過ごしても知らないことはあるものだ!貴重な図が見られるかもしれないと思わずテンションが上がったが、北くんはそんな私を見て若干引いている気がする。良いんだ、大体なんかやらかしたときはちょっと引かれてるからこのくらい気にしないぞ。
「へへ、北くんがプリン食べてるとこちゃんと絵に納めとこ」
「おもろいんかそれ」
「おもろいっちゅーか、貴重やん!」
「どこがや、別に……」
ぐっと拳を握って力説する私に、北くんは言おうとしてから少し考え込む。それから何か合点がいったように、ぽんと手を叩いた。
「誰かが食うてるとこ描くなら、ウチの治がええと思うで」
「ん?……ああ、たまに言うてる双子の!」
「せや。あいつは何食うてても幸せそうな顔しよるから、描き甲斐あるんちゃうか」
「ぐう、なんやそう言われるとめっちゃモデルお願いしたくなるやん!」
「せやろ」
さりげなく自分をモデルにするのを避けつつ、きっちり代替案を出してくるあたりしっかりしている。まあそれでさりげなく後輩を犠牲(というのも我ながら語弊があるが)にする辺り、何気に北くんも容赦ないなと思うけども。確かにウチに学校のバレー部は超有名で、特に双子の宮兄弟はスポーツに疎い私でも多少なりとも認識している程度にはその名が知れている……と言っても、私はどちらかというと北くん伝いで話を聞くことがほとんどだった。何にせよ、そんな子をモデルにするというのは私としても申し分ない所か、一度くらいこちらからきちんとモデルをお願いしてみたいものだ。が、それはそれとして。
「その子もいつか描いてみたいけど、やっぱ北くんも描きたいやん」
「何でや。飯でもプリンでも変わらんやろ」
「変わるて!私のモチベーションが!プリンやでプリン!」
「全く分からん」
北くんはこれまたいつものように、真顔でバッサリと一言で切り捨ててくる。くそう、このかわいさが伝わらないのか。いやかわいいと言われる張本人に伝えても無意味だろうなとは思うけども。
忌憚なく申し上げてしまうと、私は北くんの顔がとても好きだ。面食いかと言われてしまうと強く否定は出来ないのだが、彼はそもそも纏っている雰囲気が少し変わっているように思う。彼からは神様やら妖怪やらといった、所謂”人ならざる者”の空気を感じるのだ。私が勝手にそう思っているだけなので、流石にこればかりは本人に言ったことは無い。実際に話してるとものすごい(良い意味で)普通だと思うし。ともかく、そう言った雰囲気も込みで彼がとても好きなのである。何となくファンタジーに片足突っ込んだような気持ちになれるのがとても良い。
……などと私が考えていることを知ってか知らずか(いや知られてたらまずい気がするけど!)、北くんをモデルにしようとする時は少々怪訝な顔をしつつも了承してくれることが多い。むしろ徹頭徹尾ダメだと言われたことが無い。何だかんだ言いつつモデルをやってくれる辺り、やはり北くんは優しいなと思う。そして今回も。
「……まあ、好きにしぃや」
「やった、流石北くんやで!何プリンがええの?やっぱ抹茶?黒ごまとか?」
「何でちょっと変化球持ってくるんや。普通のでええやろ普通ので」
「和風っぽいのが好きかと思て!あっ、でも敢えてキャラメルとかでもアリやな……」
「……もう何でもええわ」
やや諦め気味の北くんを他所に、私は彼に何味のプリンを食べさせようか今から悩むのであった。いっそちょっとお高めのものでも買ってこようかな。そうしたらきっとまた少し怪訝な顔をするのだろうなぁなんて想像しながら、私は本日の日課を終えてパタンとスケッチブックを閉じた。