一進一退HR!:SS
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「ね、新って僕らのこと見分けられてると思う?」
事の発端は、光の発した何気ない疑問から。
「それは髪型での判別は無しで、って意味で?」
「そーそー」
僕らは基本的に髪型で判別してもらってるから、意図的に変えようと思わない限りはいつも通りが正解だ。まあ気まぐれで入れ替わってみたりもするけど、それで僕が光の名を呼ばれようが別に構わない。どうせただのお遊びなんだし、そういう共通認識があるっていうのは別に悪いことではないと思う。
「流石に無理じゃないの?僕らがやってるゲームことだって知らないだろうし」
「……あれ、そういえば新がいる時に入れ替わったり髪型変えたことってあったっけ?」
「……無い気がする」
となると、尚更髪型以外で判別しろというのは無理な話だろう。頑張るとは言っていたけれど、一朝一夕で出来るようなことではないと僕らが一番分かっている。何かあれば僕が気を付けてあげればいいだけの話だし。なので新の言葉にはあまり期待はせずに、いつかそうなったら良いなー程度でしか取っていないのだ。
「1回くらいは試してみたくない?むしろこれが修行だと思ってさ!」
「まあいじめようと思ってやってるわけじゃないし、怒られたり泣かれたりすることは無い……」
「……よね?」
「なんか、逆に新の限界を見極めるゲームみたいになってきてる気がするんだけど」
「な、ナルホド確かに……!」
こうして恒例の『どっちが光くんでしょうかゲーム』を新へと試すことになった。……ちゃんとハルヒにも言って、怪訝な顔はされつつ却下はされなかったし!ということで、早速翌日髪型を全く同じものにして行くことにした。
*****
「「オハヨー新☆」」
「おは……………よう、ございます」
僕らが新に声をかけると、案の定振り返った瞬間に固まった。そりゃびっくりするよね、今日は前髪を分けてすらいないし。隣でハルヒが呆れたような視線を向けているけど気にしない。
「……全く同じ髪型というのも珍しいですね。何かイベント事でも?」
「「まあそんな所ー!」」
「そうですか、お疲れ様です」
新はそう言うと、何事も無かったかのように目の前の資料の山へと意識を向けた。知ってたけど、ハルヒに負けず劣らずのノリの悪さよ。しかしそんなことでめげる僕らではない。僕は新の手にした資料をさっと取り上げ、再びこちらへと向き直らせた。
「……何のつもりでしょうか」
「ふっふっふ、これは新に向けたイベント、というかちょっとしたお遊びなのだ!」
「……私に?」
「その通り!お客さんたちにもいつもやってるゲームなんだけど……ズバリ!」
「「どっちが光くんでしょうかゲーム☆」」
にぱーっと2人揃って新に笑顔を向ける。が、僕らとは対照的に新は明らかに引いてるというか、顔が見えなくても分かるレベルで嫌そうなオーラ全開だった。
「……自己申告制でどうぞ」
「「イヤそれじゃ意味ないじゃん!」」
「一番平和的な解決法ですよ、合っていようが間違えていようが申告された名前でしか呼びませんから」
「まあまあ、別に合ってるかどうかが重要なわけじゃないんだよこれは」
「そう言われましても……」
「新にちょっとでも僕らのことを知ってもらえたら良いなーって思ってさ!」
「…………」
それらしい言葉を並べて新の説得を試みる。全くの嘘というわけでもないんだし、まだハルヒのストップもかかってないからオッケーオッケー。新はしばらく考え込んでいたようだったが、今度は何やらがたがたと震えだした。流石に心配になったハルヒが新の様子を伺った。
「だ、大丈夫?面倒だし、適当に断っていいよこんなの」
「……私にとっては」
「……え?」
「私にとっては今後の生死を決めるようなものだというのに!そんな軽く振られても!」
「「流石に飛躍しすぎじゃない!!??」」
……と驚いてはみたけど実際死活問題だと言ってたし、本当に生死に関わりかねないレベルだもんなぁと思った。とりあえず今は顔に出さないように、光と同じような反応をしておく。一瞬ハルヒがこちらを見たような気がしたけど、それにも気付かないふりをしておく。今すぐ逃げ出してしまいそうな雰囲気だったので、その前に光がすぐさま新を確保した。
「ホントに怒ったりしないし、平気平気!」
「でもきっと回数制限付きでしょう!?それ以上間違えたら死っ……」
「なない、死なないって!制限とかもない!ちょっとずつ慣れてくれたら良いから!」
「結局最終的なゴールは当てる所に落ち着くじゃないですか!それでいくらやっても分からなかったら、私はいつまでも2人に失礼な行為を働き続けなければならないし、そうなったら本当に死ぬしかない……!」
「安心して。この2人は常に周りに失礼だから、こっちが失礼を働いても全く気にすることないよ」
「「フォローの仕方おかしくないですかねハルヒさん」」
ハルヒの辛辣なお言葉はさておき、相変わらずの手強さと思考のぶっとび具合である。流石にここまで来ると、試すような真似をするのは可哀そうな気がしてきた。そろそろ諦めて大人しく引き下がるか……と光に声をかけようとした瞬間。
「―――もう、とにかく無理なものは無理です!離して下さい”光くん”!」
「「え」」
「……おお?」
―――驚いた、咄嗟に出た名前が当たっている。光も、ハルヒでさえも驚いている。新自身も何が起きたのかよく分からない様子だったが、すぐさま自分の発言を思い出して頭を抱え出した。
「……ああああごめんなさいごめんなさい間違えましたよね!絶対言わないって思ってたのに…!」
「新、新」
未だに驚く僕らの代わりに、ハルヒがくすくすと笑いながら新をつついて起こす。
「う、え」
「合ってるよ。あの2人見て、驚いてるから」
「……ほんとに?」
ハルヒに促され、そろりと交互に僕らの顔を見る。その視線でハッと我に返り、2人で勢いよく頷いて『○』のマークを作って見せた。新はそこでようやく安堵の溜息を吐き、落ち着いてくれたようだった。
「よ、良かった……合ってたんだ……」
「びっくりしたー。何で分かったの?」
「半分くらいは勘のようなものなんですけど……」
「でも言わないって思ってただけで、新の中である程度の判別材料があったわけデショ?」
「え、まあ……声とか、喋り方で……そうかなって……」
「「マジか」」
光と顔を見合わせ、声?とお互いに首を傾げてしまった。未だかつてない方法で見分けられているのでは、と改めて2人で驚いてしまった。しかし、そうなると疑問が一つ。
「……もしかして、最初から分かってた?」
「分かっ……ていた、というか、そうかなと思っていた程度なので、本当に自信が無かったんですよ……」
「なるほど声か。確かに完全に一緒ってわけでもないけど、それをちゃんと聞き分けられるのはすごいよ」
すごいすごい、とハルヒに褒められ、新もどことなく嬉しそうな様子だった。しかし言われてみると、基本的に新の視界はあの前髪に覆われているわけだし、最も重要な感覚が音声であるのは納得かもしれない。思わぬ伏兵がいたもんだ……というか、端から当てられないだろうと思っていたのが逆に申し訳なくなってくる。ひとまず本来の目的も達成したので、前髪はいつものように直しておく。と、それを見ていた新から一言。
「……やっぱり心臓に悪いので、出来ればそのままでいてくれると助かります」
「「すいませんでした」」