3話
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城ヶ崎 新(じょうがさき あらた)
*****
ハルヒや双子と同じく1-Aクラス。
基本的に自己評価が低めのネガティブお嬢様。
ハルヒが一番の親友であり、何事もハルヒ優先で考えがち。
目が隠れるほどの前髪と重めの三つ編みを装備した野暮ったい外見。
兄が1人いる。両親は基本的に海外で不在。
親族関係の名前は固定です。
兄:進矢
義姉:結花
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鞄が池に投げ込まれた事件の翌日。どうやら綾小路先輩がとうとう部内で騒ぎだし、思い切り制裁を喰らったらしい。―――らしいと言うのも、基本的に私は準備室に籠りきりで接客中の出来事については感知しておらず、業務連絡で来た鳳先輩から聞いてようやく事の顛末を知ったのだ。初任務を無事に終えてからというもの、私は取引先やら常連客やらの情報を頭に叩き込まなければならなかった。ちなみにただの倉庫とされていたこの準備室は、本当に1日で見事な事務室兼書斎へと変貌を遂げていた。もはや何も言うまい。
「―――しかし、予想よりも随分とスムーズにこなすものだ。お前の前世は忍者か何かか?」
「知りませんよ……」
「そう不貞腐れるな。お前の手に入れた証拠写真が決定打となり、ハルヒは無事に魔の手から解放されたわけだ。喜ばしいことじゃないか」
「それは、そうですけど……」
私には、先輩たちのように直接ハルヒを助ける力が無い。だからこそこうして裏でこそこそと動く他ないと分かってはいるのだけど。資料を捲る手を止めてじわじわと落ち込んでいると、鳳先輩は何やら思い出したように自前のファイルを開いた。
「テストはこれで合格とするとして……新、12月の予定は?」
「……ノーコメントとします。12月に何か?」
「ウチで主催するクリスマスパーティーがあるんだよ」
「へえ、それはすごいですね……」
流石異世界の住人達だ、きっとかなり大規模なパーティーを催す気なのだろう。完全に他人事と思い、再び資料へと意識を戻した。
「それで、予定の程は」
「無理です」
「……即答とは良い度胸だな」
「そんな人の多いキラキラした場所に行ったら私は蒸発して死にます」
「……」
露骨に「何言ってんだこいつ」的な表情をされているけど、事実なんだから仕方ない。地味に生きていきたい私とは無縁の場所だし、そもそも私はパーティーというものに行ったことがほとんどない。一介の事務員に過ぎない私にとっては密偵以上に荷が重いのだ。
「……分かった、条件付きなら欠席を認めてやろう」
「な、何でしょう……」
「今すぐその鬱陶しい髪をどうにかしろ」
「無理です!」
「だからと言って、今後ずっとそのままでいるわけにはいかないだろう?」
「大丈夫です、私なんぞが公の場に出る機会なんてないので」
「馬鹿なことを。お前だって城ヶ崎の―――……」
そこで突然鳳先輩の言葉が途切れた。何やら思案している様子だったが、小さくため息を吐き、再び口を開いた。
「……出る機会が無いというならこちらで作るまで。次回からは明確な理由の無い欠席は認めん。大っぴらに参加しなくともせめて現場には来い」
「む、むごい……」
「別にそのままでも構わない、初めのうちはな。とにかく今はそれが無い状態に慣れろ」
「……!」
どうやら、鳳先輩にも気づかれていたらしい。ハルヒといい先輩といい、妙に鋭い人が身近にいるものだ。だからと言って、私の返す言葉は何も変わらないのだけど。
「無理です」
「何故?」
「顔を見られるのが嫌だからです!」
「……どういうことだ」
「言葉通りですよ。ちょっと過去に色々とありまして……。可能な限り誰にも見られたくありませんが、特に男の人に見られるのが一番無理です。死にます」
「お前は極端な思考しか出来ないのか?」
「うう、放っておいて下さ、ギャア!!」
私の訴えも空しく、実力行使と言わんばかりに思い切り頭を掴まれた。一切容赦をしない上司は、まるで般若か魔王かと言った様相である。あまりの迫力に完全に怖気づいてしまった。
「―――仮にお前が己の面の美醜を気にしているというのであれば、先に言っておく。俺はそんなものは一切興味はない。使えるか使えないかだけが全てだ。ここでハルヒの為に働きたいと言うのであれば、公の場にも出てもらう。外野を欺く為にお前の外見も利用する。その覚悟を決めろと言っているんだ」
「…………」
「後、百歩譲って髪型は許すとしても、前髪だけは見ていて心底鬱陶しい」
「そっちが本音ですよね!?」
「返 事 は ?」
「……………ちょ、ちょっとだけ待って下さい……心の準備というものが……」
「1分」
「ヒエ……」
鳳先輩は私の頭から手を離すと、腕を組んで返答を待つ姿勢になった。まずい、本当にここで私の面を晒してしまって良いのか!?いくら先輩が気にしないと言ったって、きっと見たことを後悔するに違いない…!突然の危機に脳が追いつけず、大混乱の末に行きついた結論は―――
「(……先輩の記憶を消すしかない!!)」
バッと振り向き適度に記憶が飛ばせそうなものを探そうとしたが、何かを手にする前に即座に察したらしい鳳先輩に腕を掴まれてしまった。
「……おい、何をするつもりだ?」
「だだだだ大丈夫ですちょっと先輩の記憶をスコンと飛ばすだけですいける!」
「どこでいけると判断したんだ、堂々と傷害未遂を告白するんじゃない!」
「いける!だめだったら飛び降りるしかない!!」
「警 察 沙 汰 を 起 こ す な と 言 っ て い る ん だ が ?」
「だって他に思いつかな―――」
「―――ハルヒの借金1/3カット」
……ぴたり、と抵抗を止める。そろりと鳳先輩の方へと視線を向けると、思い切りため息を吐かれた。流石にここで私も冷静になって、己のしでかそうとしたことの恐ろしさに冷や汗をかいた。
「……あ、あの、今のは……ちょっと魔が差したというか……」
「……ハァ。で、どうするんだ?」
むしろ今のは解雇案件だったのでは……と思ったのだが、今後得られるメリットと被るであろうデメリットを比較してギリギリでメリットが勝ったのではないか、と推測した。ここで切らないと言う事は、恐らく私の能力を多少なりとも買ってくれている、のだろう。多分。分からないけど。何よりもハルヒの借金カットという点が見逃せなかった。私はしばらく考えながら深呼吸をして……三つ編みの片方を掴み、ぐっと引っ張った。
―――視界が開け、頭が軽くなる。ばさりとウィッグを近くの机へ置き、少し乱れた本来の……目が見える程度に切り揃えられた前髪と、隠していたセミロングの髪を整える。その様子を見ていたであろう鳳先輩は、特に驚いているわけではなさそうだった。が、どちらかというとやや怪訝な表情で私を見ていた。
「分からんな、別段隠す程の要素があるとは思えないが?」
「この顔そのものですよ……」
「……まあいい、とにかく今後はここにいる時はウィッグを外すこと。他の奴らは……反応が読めん。元よりこちらに来る用は滅多に無いだろうが、しばらくは立ち入り禁止にしておくか。また暴れられても困るしな?」
「……ソウデスネ」
―――どうやらこの人は本当に見た目を気にしないらしい。そのくらいでいてくれた方がこちらも気が楽ではあるけれど。あまり深く追及されなかったことに安堵し、私はここでようやく深く息を吐いた……のだが。
「さて、落ち着いたところで次の仕事の話をするか」
「容赦ない……」
「まさか、パーティーに参加しないからと言って事前準備まで放棄するわけではないだろう?」
「が、頑張らせていただきます」
「結構」
資料の山に、更に企画書が追加で積み上げられた。自分が出ない企画に尽力するというのもなかなか空しい気がするけれど、ハルヒが行くのだと思えば私の努力も報われるというものだ。気を取り直して、資料を叩き込む作業に戻る、前に一言。
「せめて眼鏡くらいは許してもらえませんかね」
「……好きにしろ」