2話
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城ヶ崎 新(じょうがさき あらた)
*****
ハルヒや双子と同じく1-Aクラス。
基本的に自己評価が低めのネガティブお嬢様。
ハルヒが一番の親友であり、何事もハルヒ優先で考えがち。
目が隠れるほどの前髪と重めの三つ編みを装備した野暮ったい外見。
兄が1人いる。両親は基本的に海外で不在。
親族関係の名前は固定です。
兄:進矢
義姉:結花
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「―――ということで、改めてご挨拶を……あれ?何でハルヒの後ろに?」
「とりあえず新の半径3m以内に近づかないでくださいね」
「ひどいっ!?」
金髪長身の男が近付こうとしていたが、ハルヒが庇うように目の前に立ってくれている。……恐ろしい場所に来てしまった。いつの間にやら先ほどのセットは片付けられてるし、お茶やら菓子やらが既に用意されているし、どんなスピードで処理されているんだろうか。この空間だけ進む時間が違うのだろうか、などと意識を別方面に集中させていると、見覚えのある双子―――常陸院兄弟が、私を見て声を上げた。
「「あ、見たことある」」
「あるに決まってるでしょ、同じクラス!」
「そういえば」
「そうだっけ?」
本当におぼろげにしか認識されていなかったらしい。ハルヒは怒ってくれているが、正直今までの態度からして覚えているわけがないと思っていたので別にどうでもいい。というか、この2人もホスト部だったのか。私も知ろうとしなかった辺り、所謂五十歩百歩というやつだろう。
「もう、とにかく新は自分のお客様なんだから、邪魔はしないでよね!」
ハルヒが双子やら金髪長身の男を追いやっているのを遠い目で眺めていると、不意に横から黒髪眼鏡の男に声をかけられた。
「騒がしくて申し訳ありません。ひとまずこちらにどうぞ」
「へ、あ、ど、どうも……?」
促されるままにソファへと座る。すごい、ふかふかだ。いらぬところに感動をしつつも、何やら大変な笑顔でこちらを見られているのが気になって仕方がない。私がやや怯えているのも気にせず、眼鏡の男に挨拶をされた。
「ホスト部の副部長兼店長の、鳳鏡夜と申します。……宜しければ、お名前をお伺いしても?」
―――鳳。鳳と言ったのだろうか、この眼鏡の男は。流石に社交界に疎い私でも分かるレベルの公爵家では……?そんなとんでもお坊ちゃんがこんな所で一体何をしているというのだろうか……?突然右ストレートを喰らった気分になりながら、何とか表面上だけでも平静を保つ。こういう時は顔が見えなくて良かったと心底思う。
「……城ヶ崎、新です」
「ふむ。城ヶ崎と言えば、インテリアデザインや美容関係で名を挙げている……?」
「そう、ですね。父はデザイナー、母は美容関係の会社を営んでいます」
「なるほど、やはり。……お兄様はご息災でいらっしゃいますか?」
「……ええ、まあ。私と違って忙しい人ですし、あまり話すこともないので何とも言えませんが」
「おや、そうだったのですね。これは大変失礼いたしました」
……怖い。すごく笑顔なのに怖い。ものすごく探りを入れられている気しかしない。ひとまず満足したのか、「それではごゆっくり」と私の席を離れて先ほどの双子たちへと向かっていった。何かファイルのようなものを持っていたような気がするが、あれは一体……。張りつめた空気から脱し、一息吐く。と、今度は目の前にぴょこん、とかわいらしいウサギが現れた。
「こんにちはっ、ハルちゃんのお友達さん!」
ウサギが喋った……わけではなく、ウサギのぬいぐるみを持った金髪の少年がにぱっと笑顔で声をかけてきたのだ。驚いた。ここは高等部のはずだが、初等部の子も所属出来るものなのか。
「こ、こんにちは。えっと、城ヶ崎新、です」
「ならあーちゃんかな!僕は埴之塚光邦!こっちは従弟の銛之塚崇!よろしくね~」
こっちは、と促された先に、いつの間にか別の黒髪長身の男が立っていた。全く気付かず、思わずびくっと肩を震わせてしまったが、そっと深呼吸をして気持ちを落ち着けた。なんと凄まじい身長差だろうか、と隠れているのを良いことに交互にこっそり見やってしまった。
「今日はハルちゃんのお客様だからダメって言われてるから、代わりにうさちゃん置いておくね!次に来たときは一緒にケーキ食べようね~!」
ぽすっと先ほどのウサギのぬいぐるみを私の膝に置いて、そのまま2人で去って行った。無邪気だな……としれっと見送ってしまったが、ふと、またとんでもない名前を聞いたことに気付いた。埴之塚と銛之塚……!?常陸院双子も当然ながら有名な家だが、この部は超上流階級の塊にも程があるのでは!?戦々恐々としていると、2人と入れ替わる形でハルヒがこちらへ戻ってきた。
「ご、ごめんね、ほんとなかなか手が付けられない人たちで……」
「…………既に頭が追い付いていないです」
「もうあの人たちは無視していいよ、疲れるだけだから」
「……あの金髪で背の高い人は?」
そういえば1人だけ名前を聞いていない。一応聞いておかなければ、もしかしたらまたとんでもない大物が出てきてしまうかもしれないし―――
「え、ああ……あの人は須王環先輩。ホスト部の部長だよ」
「…………す、おう」
―――言わんこっちゃない、一番恐ろしい名前じゃないか!異世界なのは演出だけじゃない、あの人たちそのものが異世界なんだからそりゃおかしいに決まってる!完全にキャパオーバーした頭を押さえ、情報を整理しようとする。
「だ、大丈夫?ホントに無理しなくていいよ?」
「……ハルヒはこの異世界でしばらく過ごしてきたんだよね」
「そ、そうだね。もう慣れたというか、まともに取り合っても仕方ないなとは思ってるけど」
強い、強すぎる。しかしこれも全てハルヒに貢献する為だ、私もせめて動揺しない程度にはなれないといけないだろう。何とか心を強く保とう。それから須王さんと鳳さんは2年生であることや、そしてまさかの埴之塚さんが3年で年上だったという衝撃の事実に打ちのめされたりした。ここだけ時間の進みがおかしい説がいよいよ現実味を帯びてきてしまった。と、そんなことも話しつつ、私にとっては最も重要である疑問が1つ。
「……そういえば、何をしたらハルヒの借金返済に繋がるの?」
「あ、えーっと、一応自分の借金が800万なんだけど、指名で100人取れたらチャラだって……」
「はっ……ぴゃく……を……ひゃくにん……」
こんなことでいちいち驚いてはいけないと心では理解しても、頭がそうさせてくれない。ハルヒの為にと思って来たははずなのに、まさか人数がノルマだったとは……!お金なら少しずつでも貢献出来たというのに!
「私が100人いたら良かったのに……」
「き、気持ちは嬉しいけど、それは流石に怖いかな……」
「複数回指名でもカウントしてくれるなら、良いんだけど」
「……そういえば、どうなんだろう」
ハルヒもその辺りは把握していないらしく、ちらりと眼鏡の……鳳先輩の方を伺う、が。大変素敵な笑顔をするだけで疑問には答えてくれなそうだった。これはダメかもしれない。ともすれば、こうしてハルヒの時間を取ってしまうのは逆に邪魔をしているだけじゃないか。どうにもならなそうな状況に肩を落としていると、先ほどの笑顔のままで鳳先輩が再びこちらへやってきた。
「失礼。話を聞くに君はハルヒの借金返済の手伝いをするために、こちらに?」
「そう、そうです!どうやってお手伝いすればいいのか分からなくて、とにかく一度来てみたら何か分かるかなって……思ったんですけど……」
ノルマが人数だと思わず……と更に肩を落とすが、鳳先輩は先ほどとはまた違った、妙に楽し気な様子で笑っていた。そして―――
「―――君にとってはまさに一石二鳥の、とてもいい話があるんだが、聞く気はあるか?」
「……え」
「ちょっと鏡夜先輩!?」
「何だ、これはお前にとっても俺にとってもメリットのある話だ。まさにwin-winの素晴らしい取引だと思うが?」
「だからって、新を自分の事情に巻き込めません!」
―――なるほど、これがこの人の素なのか。理解した瞬間から、存外私の頭は冷静になった。元より利用されるくらいの覚悟は持ってここに来ている。この状況で向こうから提示してくるというなら、本当にメリットのある話であろうのだろう……ならば。
「何をすれば、良いんですか」
「新!」
「どうせ早く家に帰っても何もないし。それならハルヒの為に出来ることをやる方が、良い」
「小心者のように見えたが、存外肝が据わっているようだな」
「いえ、正直未だにめちゃくちゃ怖いですけど、それはそれ、これはこれです」
「結構なことだ。先ほどあいつらとも少し話をしたんだが―――」
私の前に、1枚の紙を差し出してくる。恐る恐る受け取り、内容を確認する。
「……これは、入部届……?」
「その通り。ということで、ウチで働いてみる気は無いか?」
にっこりとほほ笑む鳳先輩とは対照的に、さっと顔を青くしたハルヒが大慌てで私から入部届を取り上げる。
「何言ってるんですか、新は女の子なんですよ!?」
「いや、お前も女子ではあるだろう……というのはさておき。何も接客をしろとは言わないさ」
「じゃあ何だって言うんですか!?」
「事務だよ、事務。要は俺のサポートとでも言えばいいか」
事務。そうか、確か鳳先輩が店長と言っていたか。部のあれこれを取りまとめるのも彼。他の部員もノータッチではないにしろ、基本的な運営は全て彼に任されているのだろう、と見た。つまりこの話をまとめると―――
「……私とハルヒはお互いに同じ部に所属することで、少なくとも現状よりは共に過ごす時間が増える。私は間接的に部の運営をサポートすることで、結果としてハルヒのノルマ達成に貢献が出来る。その分ハルヒは負担が軽くなる。鳳先輩は自分の役割を多少でも私へ投げることで、更に別の事へ意識を向ける余裕が生まれる」
「理解が早くて助かる。どうだ、素晴らしい取引だろう?」
全て言い切った後、ハルヒはどう言えば良いのかと困惑している様子だった。しかしこれほどのメリットを提示されてしまえば、私としては断る理由は何一つない。が、懸念事項もある。
「……事務、は良いのですが。まさか接客している中で大っぴらに仕事をするわけではありませんよね?」
「まあ、それもそうだな。流石に正規の女子部員がいると知れたら大なり小なり問題にもなりかねない」
ふむ、と思案した後、鳳先輩は隣の音楽準備室を指さした。
「今はほぼ倉庫と化しているが、あそこなら事務室として利用するには十分だろう。どうだ?」
きちんと仕事場も個室として存在している。ハルヒと同じ部に入れる。ハルヒの借金返済の手伝いが出来る。ここまで来れば、答えは決まったも同然だ。
「……やってみます」
「もう、新まで無理することないって……!」
「ごめん、でも本当に私としてはありがたい提案だし。ハルヒが迷惑だって言うなら、止めるけど……」
「う、め、迷惑じゃないけど、そうじゃないけど……!」
じっとハルヒの方へと顔を向け、そのままするりと入部届を取り返す。そして鳳先輩は待っていたと言わんばかりに、ボールペンと朱肉を渡して来た。わざわざ拇印までさせるというのか、随分と徹底している。まあ確かにどこの馬の骨とも分からない女を入れると言うのだから、警戒しておくのも当然ではあるだろう。大人しく必要事項を記入し、印を押す。
「どうぞ」
「取引成立だな、これで今日から君はホスト部の一員だ」
「ほ、ほんとに書いちゃったの……」
「うん、任せてハルヒ。私も頑張るから」
ぐっと握りこぶしを見せる私を見て、ハルヒは複雑そうな表情で頭を抱えていた。すると、しばらく遠巻きに見ていた他の部員たちがわらわらとこちらへと寄ってきた。
「うわー、マジで入れちゃったんだ」
「ホントに大丈夫なのー?」
「おや。俺の目が節穴とでも言いたいのか?」
「「そうは言わないけどサー……」」
ホスト部という性質上女性関係では色々あるのだろう。不審に思うのも分かるが、生憎は私はハルヒ以上に優先するものが何もない。口で説明しても納得はされなそうなので、今は適当にスルーしておくことにした。こういうのは不言実行が最も有効な手段だろう。と、今度は私の入部届を見た須王先輩が、涙ながらに私の手を握ってきた。なんで泣いてるんだろうか……?
「あの、何か……?」
「素晴らしい、己の身を挺して友人を救おうとする君の心意気!俺は感動した!」
「は、はあ……」
「今日から君は俺たちの仲間だ、分からないことがあったらこのホスト部の部長であり『キング』である俺に何でも聞くと良い!」
貴方のその勢いが一番分からないですと言いたくて仕方ないが、初対面の人に申し上げる勇気もなかったのでそっと心の奥にしまっておいた。というか近い。怖い。パーソナルスペースと言うものを知らないのだろうか。須王先輩を遠のけるように、咄嗟に膝に置いていたウサギのぬいぐるみを顔に押し付けてしまった。
「むぐっ」
「…………私はもう客ではないので、そういうのはちょっと……」
「「アハハ殿嫌われてるー☆」」
「僕のうさちゃん、役に立ったねぇ~」
「あっ、ご、ごめんなさい!人様のものを勝手に使って……」
「気にしないで。あーちゃんのこと守れたんだから、うさちゃんも嬉しいと思うな~!」
私はすすすっと須王先輩から離れ、埴之塚先輩にぬいぐるみを返した。ぬいぐるみが無かったら本を押し付けていたであろうと思うと、勝手に借りていて良かったのかもしれない。すると、ぬいぐるみを受け取った埴之塚先輩が、何やらじーっと私の顔を見つめていた。
「ねえねえ、あーちゃんはお顔は見せてくれないの~?」
「―――そう、それだ!」
避けられたことでやや傷心だった須王先輩が、再び先ほどの勢いを取り戻した。
「まさか君もハルヒと同じ理由だとは思わないが、やはり麗しの姫君の表情が拝見出来ないというのは非常に悲しい!というか勿体ない!」
「何の面白味も無い凡以下の女なのでこれで良いんですよ……放っておいてください……」
「イヤ流石にこれは重過ぎっしょ」
「せめて前髪くらい切って―――」
「!待って、光、馨!」
「ひっ……!」
双子に髪を触れられそうになった瞬間、恐怖で思い切り後ずさった。……予想外の反応だったのだろう。ハルヒの制止が入ったことも相まって、双子も須王先輩も呆気に取られている様子だった。私は勢いでそのままバランスを崩し倒れそうになる、が、近くにいた銛之塚先輩に受け止められ、何とか事なきを得た。
「ご、めん、なさい」
「問題ない。……無理強いをするものではないのだろう」
銛之塚先輩の言葉は効力があるのか、先ほどまで騒いでいた須王先輩や近づいてきた双子もばつの悪そうな表情になっていた。最初の発言者である埴之塚先輩も、泣きそうな様子で私に抱きついてきた。この人もパーソナルスペースが無いのか……と思いつつも、見た目の愛らしさの所為か何となく許してしまった。負けた。
「あーちゃんごめんねぇ~!」
「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまってすいません……。出来れば、髪型についてはあまり触れない方向で、お願いできると幸いです……」
「う、うむ。何やら事情がありそうだしな、何より怖がらせるのは本意ではない」
「光と馨も、分かった?」
「「……ハーイ」」