6話
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城ヶ崎 新(じょうがさき あらた)
*****
ハルヒや双子と同じく1-Aクラス。
基本的に自己評価が低めのネガティブお嬢様。
ハルヒが一番の親友であり、何事もハルヒ優先で考えがち。
目が隠れるほどの前髪と重めの三つ編みを装備した野暮ったい外見。
兄が1人いる。両親は基本的に海外で不在。
親族関係の名前は固定です。
兄:進矢
義姉:結花
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「……ん?」
企画発表も終わり、部の皆と適当に広間で雑談していると、鏡夜先輩から電話がかかってきた。もしかして終わったのかな。何だかんだ連絡くれる辺り優しいよなー。と、そんなことを軽く思いながら電話に出る。
「ハイハーイ、馨ですけどー」
『ああ、良かった。暇か?』
「えっ、まあ暇だけど……」
『よし、30秒以内で東側へ来い。緊急事態だ』
「……ハァ!?何それ、ちょっと待っ―――」
僕の返事も聞かずにそのまま通話が切れる。30秒って、んな無茶な…!
「え、誰から?」
「鏡夜先輩!ごめんちょっと行ってくる!」
「カオちゃんいってらっしゃ~い?」
光たちに謝りつつ、大急ぎで東へと……いや東ってアバウトすぎない!?広間の来賓達を上手いこと避けつつ、鏡夜先輩の姿を探す。と、ようやくそれらしい人物を見つけ、慌てて駆け寄った。
「お疲れ様、ぴったり30秒だな。褒めてやろう」
「っはー……ちょっと無茶振り止めてよ、っていうか緊急事態って何!?」
「これだが」
鏡夜先輩が指さす先には、支えられて何とか立っている状態の、青白い顔で震えている新がいた。まさか本当にヤバい状態で呼ばれるとは思わなかったんだけど…!
「マジで死にそうになってるじゃん!大丈夫!?じゃないよね!?」
「想定外の事態が起きてしまってな。完全に止めになったようだ」
「んな呑気なこと言ってる場合じゃ」
「ということで、任せたぞ」
「え」
そう言って、支えていた新をそのまま僕の方へとパスした。
「うわ、っと……ちょっと、任せたって……」
「暇なんだろう?俺はまだやることがあるからな」
よろしく頼むぞ、と僕にそのまま丸投げして鏡夜先輩は去ってしまった。人を呼び付けておいて詳細も説明無しってどうなの!?……とは憤りはしたが、今は新の方が心配だ。見た感じ、立ってるのもギリギリって感じ。一体何があったのか気にはなるけど……。
「……緊急事態だから許してね!」
返事を聞く前に着ていた上着を被せ、新の体を抱き上げる。ちょっとだけ周りの注目を浴びてしまったけど、顔は隠したから許されたい!そのまま僕は大急ぎで広間を出て、新を保健室へと連れて行った。
*****
―――ひとまず無事に保健室へとたどり着いた。先生に許可を取り新をベッドへと運んで、ようやくそこで一息吐く。ちょっと新のドレスが見られたらいいかなーなんて軽い気持ちでいたら、とんでもないことになってしまった。新はここに着いた時点で既に意識を失っていたので、何があったのか聞くにも聞けない。
「……やっぱり一緒に行った方が良かったかなー」
あの時断ったのを少しだけ後悔した。よく考えたら新のお兄さんだって、鏡夜先輩だったら上手いこと言いくるめられるだろうし、そんなに怖がらなくても大丈夫だったのかもしれない……なんて、今言っても仕方ないことなんだけど。ぼんやりと目覚めるのを待っていてふと、本来の目的である新のドレスをしみじみ見ていないことに気付いた。もう布団被せちゃったし。とりあえず暇なので、軽く頬をつついてみた。相変わらず綺麗な顔をしてらっしゃる。
「新ー起きてー、暇ー」
と、特に期待もせずに呟いていると。
「…………起きてます」
―――思いがけず返事が来て、ちょっと後ずさってしまった。新はゆっくりと体を起こし、まだ焦点の合わない瞳できょろりと周囲を見渡した後、僕の方を向いて深々と頭を下げた。
「……ご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありません」
「え、いや良いって!ヤバくなったら助けに来るって言ったしさ」
「呼ぶつもりはなかったんですけど……」
やっぱりか。どうやら鏡夜先輩に頼んでおいて正解だったようだ。あの状況だと頼まなくても呼ばれたような気はするけど、それはそれとしてだ。
「新はもうちょっと僕らのこと頼ってくれても良いと思うんだよねー」
「えっ、十分に頼ってますよ……?」
「僕のこと呼ぶつもりなかったのに?」
「う、それは、出来れば皆さんのお手を煩わせることはしたくない、というか……」
「……なーんかそういうトコばっかりハルヒと似てるんだから」
ハルヒとはまたちょっと系統は違うけど、誰かに頼るのがものすごーく下手なのはよく似ている。……そんなの似てても困るんだけさ。新の顔を少しだけ覗き込み、その表情を伺いながら話を続ける。
「あのね、僕らは別に迷惑だとか全然思ってないから。むしろ知らない間に倒れられる方がよっぽど困るし、ちゃんと言ってくれないと分かんないよ。……僕とか光は特にさ」
「……ごめんなさい」
「反省してる?」
「……してます」
「ほんとに?」
「……た、多分」
「多分って……まあ、今はそれで良いか」
真剣な表情から一変、にっこりと笑って新の頭を撫でる。もっと怒られるものだと思っていたのか、新はきょとんとした様子で僕を見ていた。まあ怒るのは僕の役目じゃないからネ。
「でも緊急事態って聞いたからびっくりしたよ。何があったの?」
「えーっと……兄さんと鳳先輩がお話をして」
「うん」
「私が鳳先輩のお父さんとご挨拶して」
「……うん」
「うっかり須王先輩ともご挨拶しました」
「…………うん!?何で!?」
「イエ、その、本当にうっかり……」
……そうか、まあ鏡夜先輩のお父さんはまだ流れとしてはおかしくないけど、殿に見つかるのまでは想定出来ないよな。ただでさえギリギリの状態で立っていただろうに、これでは更に追い打ちをかけられたようなものだ。殿が悪いとは言わないけど、話しかけたタイミングが最悪だった。しかし、それでも挨拶をしたということは……。
「つまり殿にもばれたってこと?」
「いえ、そこは鳳先輩の友人のアリシアという体で通しました。なんで信じるんでしょうかね。騙しておいてなんですけど、ちょっと心配になりましたよ」
「……アホだからじゃないかな」
「そ、そうまでは言いませんが……もう少し疑うことを知った方が良いのでは、と思わなくもないです」
新はどこか複雑な表情で視線を落とした。多分、殿に嘘を吐いたことへの罪悪感があるんだろう。でもそれは今回だけじゃなく、常日頃から抱いているものなんじゃないかと思う。そんな顔をして苦しむくらいなら、正直に話してしまえばいいのに。……と言えたら良かったんだけど、まだ新の中でその段階までには至っていないと見た。ならばかける言葉は1つだ。
「逆に新は、もっと他人のことを信じることを覚えるべきじゃない?」
「……それは」
「さっきも言ったけど、僕らはそれが迷惑だとか絶対思わないからね」
僕と光も今はこうして皆と楽しくやれているけど、昔は誰も信じてなんかいなかった。それでも僕には光が、光には僕がいた。でも新はそうじゃない、今までずっと1人だったんだ。その心境を推し量ることは、今の僕には出来ないけれど。
「―――せめて1人くらいは、絶対に信じられる人がいた方が良いでしょ?」
「……」
新は視線を落としてずっと考え込んでいる様子だったけど、しばらくして静かに口を開いた。
「……それなら」
「うん」
「ハルヒが」
「……そうだよねーーー!知ってた!」
結構僕には色々話してくれてるから、ちょっとだけ期待をしてしまった。本当にちょっとだけ。いやまあ、ハルヒなら信頼できるというのも気持ちは分かるだけにものすごく複雑なんだけどさ!微妙に肩を落としつつ、1人でもいるならまだ大丈夫かな……と思っていると。
「あと、馨くんにも、いつもこうしてお話を聞いていただいているので……とても、ありがたい、です」
―――ちょっとだけ期待していたものが返ってきた。まさか聞き間違いじゃないだろうな!?思わず前のめりになると、それに驚いた新と視線が合った。
「……ほんと?僕、ちゃんと信用されてる?」
「こ、こんな時に嘘なんか言いませんよ……」
その言葉を聞いて僕は、嬉しさと安堵で表情を緩めた。
「へへ、そっか。良かった、頑張った甲斐があったわけだ」
「その努力は別の所へ向けた方が良いとは思うのですが……」
「いーの、僕は好きでやってるのだから!」
「そうですか……」
やや納得いかない、といった様子だけれどそんなことはお構いなしだ。と、ここでようやく本来の目的を思い出した。
「ねえ新、もう立てそう?」
「え、た、多分……気分もだいぶ落ち着きましたし、大丈夫かなとは……」
「ヨシ、じゃあここでちょっとだけ撮影会しよう!」
「嫌です」
「何でー!?僕ここまで頑張ったから、その報酬として!2、3枚でいいから!」
「もうちょっとマシな報酬を要求することをお勧めします」
「じゃあ今度ウチの新作モデルを」
「……………」
悩んでる悩んでる、これはあと一押しでいけるかな?今こそ”あの技”を使うべき時!
「……ダメ?」
下から覗き込むように、上目遣いでかわいらしくお願いする。もちろん表情は少し申し訳なさそうな感じで、断られることも想定している雰囲気も醸しつつ。これでどうだ!と効果のほどを確認すると、視線を泳がせてものすごく悩んでいるのは分かるけど……効いているのかはちょっと謎だなこれ。次はもうちょっと別の方法を考えるか……と思いつつ、新の返答を待った。すると程無くして。
「………………今回だけですよ」
と、苦渋の決断と言わんばかりの声色で許可が下りた。つまり!
「……勝ったーーーー!!!」
思い切りガッツポーズをした。意外と効くのかもしれないな、これ。まあこういうのはやりすぎると効果が薄れてしまうので、忘れた頃に最終手段として使うのがちょうどいいだろう。思わぬ勝利をしみじみ噛み締めていると、新は観念したようにベッドから降りようとしていた。
「あ、待って待って新」
「……何ですか」
どうせなら、と。僕は新の前に跪いてパンプスを手に取った。
「姫様、どうぞ?」
「…………私はお客さんじゃありません」
にこやかに微笑む僕と対照的に、大変不服そうな様子ではあるが……言っても無駄だと察して大人しく付き合ってくれた。パンプスを履き終えると、ゆっくりとその場に立ち上がる。……僕はここで、ようやく今日の衣装をしみじみと眺めることが出来た。
「ふんふん、なーるほど、なるほどね?」
新をくるりと1回転させつつ、ドレスや髪を軽く整えていく。どうやら抵抗するのは諦めたらしい。潔くて大変宜しい。さて、一通り確認し終わった感想としては……。
「うん、かわいいね!」
「ソレハドウモ」
「あっはっは、棒読み~☆と、それはそれとして、もしかして普段より派手めなの選んでたりしない?」
僕の問いに驚いたのか、新は不思議そうな表情で首を傾げていた。
「……何故そう思ったんですか?」
「ん、だって新の性格的にあんまり選びそうにないデザインだなって。お兄さんと並ぶのを考慮した結果、って感じ?」
「……その通り、です。よく、分かりましたね」
派手、と言っても悪目立ちするようなものではなく、あくまで周囲に見劣りしないくらいの華やかさ、という程度だ。目立たず埋もれずといった良いバランスで、十分に似合っている。のだけど。
「……んーーー」
「変ですよね」
「いやいやそうじゃなくってさぁ、今でもかわいいけど……新ならもっと上を目指せる!」
ぐっと拳を握って力説するも、新はさして気にも留めない様子で「はぁ」と答えるだけだった。
「反応うっすいなぁ」
「目指してどうなると言うんですか……」
「え、僕が楽しい」
「……ソウデスカ」
「とりあえず写真写真!はいそこ立ってねー」
いくつか軽く指示を出し、ポーズを取らせる。意外にもと言うべきか予想通りと言うべきか、どんなポーズと取らせても非常に様になる。もしやモデルとしてなかなかの逸材なのでは……?なんて思いつつ、持って来ていたカメラにその姿を収めた。2、3枚と言ったけれど、何もそれだけしか撮らないとは言っていない。一通り取り終え、いくつか写真を厳選するためデータを確認する。
「……」
「……あの、終わりで良いですかね」
本人は自分の写真を見る気はないらしく、一刻も早く着替えたいといった様子だった。本当にもったいないことをするものだ。残念に思いつつも当初の目的はひとまず達成した。これ以上長引かせて困らせることも無いだろう。
「うん、ありがと。良いものが見られた」
「そうですか。なら今度からモデルの件はハルヒに―――」
「え、何言ってんの。それはまた別に決まってるデショ」
「……何故!?」
どうやら今回引き受ければ大人しく引き下がるとでも思ったのだろう。が、そうは問屋が卸さないというやつだ。
「僕の目的は『頭からつま先まで全部コーディネートしてモデルをさせること』だし。これは方針を固めるための前準備みたいなもんだよ」
「ほ、本当に諦めませんね!?」
「当然。この写真見てやる気湧いたし、後でお母さんにも掛け合ってみようっと」
「ご家族まで巻き込まないで下さい……」
この写真を見たら、お母さんもきっとノリノリで衣装を見繕ってくれるだろう。うんうん、今から楽しみだなぁ。隣で呆れ顔をする新を余所に、きっとそう遠くはない未来を想像してわくわくするのであった。