5話
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城ヶ崎 新(じょうがさき あらた)
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ハルヒや双子と同じく1-Aクラス。
基本的に自己評価が低めのネガティブお嬢様。
ハルヒが一番の親友であり、何事もハルヒ優先で考えがち。
目が隠れるほどの前髪と重めの三つ編みを装備した野暮ったい外見。
兄が1人いる。両親は基本的に海外で不在。
親族関係の名前は固定です。
兄:進矢
義姉:結花
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私はミーティングという名の駄弁り場から離脱してから、いつものようにパソコンの画面や資料と睨めっこしていた。しばらくすると、誰かが準備室のドアを容赦なく開き入ってきた。いや、こんな入り方する人は1人しかいないんだけれど。
「入るぞ」
「もう入ってます……」
もはやノックすらしない上司―――もとい鳳先輩は私の隣に座り、机に積まれた資料を手に取り軽く目を通していく。せめてノックくらいしてはどうかと問うても、「自分の仕事場にわざわざノックして入る必要が?」と笑顔で返されそうなので、とりあえずスルーしておくことにした。
「ふむ、まあこんな所か。ちなみに発注先の選定理由は?」
「過去の履歴から見て、どこも確実で信頼できる所を。新規企業もある程度目を通しましたが……皆さんのご両親が来ることも考えると、わざわざこのタイミングで冒険する必要も無いでしょう。発注先から見ても、桜蘭の文化祭で仕事を請け負うことで今後の経歴に箔がつきますし、結果的に双方にメリットのあるのではないかと思います」
「良いだろう、合格だ。一応新規企業もリストだけは残しておけ、後で使えるかもしれんからな」
「分かりました」
指示通りに新規企業のリストを別のファイルへと移行させる。何だかこのやり取りにもだいぶ慣れたような気がする。取引先について知っておくのは悪いことではないし、将来的にも役立つときが来る可能性があると考えると、今のこの仕事も捨てたものではないだろう。
「―――で?お前の兄の何が問題だと?」
「……ちゃんと聞いてくれるつもりだったんですね」
「どうにかしてやるとは言っていないがな」
てっきり完全にスルーされるのかと思っていたが、一応私にも欠片程度の優しさは残してくれているらしい。しかしこの人の場合、本当に聞くだけ聞いて「そうか、まあ頑張れよ」と投げられるだけでは……と思わないでもない。
「ええと……先輩は、私がパーティーなどに全く顔を出さないことをご存じですよね」
「そうだな」
「実はそれ、兄の意向も少々関係しておりまして……」
「……?」
怪訝な表情をする鳳先輩に、以前馨くんにも話した我が家の奇妙な事情を伝えた。先輩は私の話を聞きながらしばらく考え込んでいた様子だったが、ややあって何やら合点がいったような素振りを見せた。
「なるほど、思い当たる節はあるが……後で良いだろう。それで?」
「え、あ、はい。兄も文化祭に来て挨拶回りをするらしいのですが、今回は避けられないだろうと、とうとう私も、ついていくことに……」
「……それは確かに大事だな。流石に”それ”は取って行くんだろうが、大丈夫なのか?」
「わ、分かりません。が、とりあえずその時だけ、耐えれば良いので……何とか、何とかします……」
そう、私はこのウィッグを学内でしか使用していない。家で使っていても仕方ない……というより、一度だけ使っている所を兄に見つかり怒られたのだ。兄が何を考えているのか全く分からないけれど、とにかく今回は兄にウィッグを被っていることをばれないように、且つ生徒たちには可能な限り素の状態が見つからないように動かなければならなくなったのだ。
「だからさっさと無い方に慣れろと言っただろう」
「だ、だって、黙っていれば来ないと思ってたんです……それならまだどうにかなるかなって……」
「見込みが甘すぎるな」
「おっしゃる通りで……」
完全にハードモードと化した私を見て、先輩はため息を小さく吐いた。が、すぐに手帳を開いて何かを書き込んでいく。
「……まあいい、どの道お前の兄にはきちんと挨拶すべきだとは思っていた。ついでに俺の推測が当たっているかの確認もしておくか。新、お前が挨拶回りに行くタイミングで連絡を寄越せ」
「へあ!?わ、分かりました……?」
何だか更に妙な展開になってきた。そもそも私は兄にホスト部に所属していることはおろか、ホスト部の存在すら伝えていないけれど大丈夫なのだろうか。
「どうとでも言いようはある。お前は適当に話を合わせておけばいい」
「ヒエッ、だから何で考えていることが分かるんですか……!?」
「お前が分かりやすいだけだ」
先輩は事も無げに言い放つと、今度は謎のファイルから何通かの封筒を取り出し私に差し出してきた。
「……これは?」
「別件だ。見ればわかる」
言われるがままに差し出された封筒を開くと、そこには新聞の切り抜きで出来たいかにもと言った脅迫状が出てきた。内容は近々開催される中央サロン争奪戦についてだった。本当にこんなことする人がいるのかと少々感動すら覚えてしまったけれど、そんな呑気なことを言っている場合ではない。
「何で落ち着いてるんですか!?脅迫状ですよねこれ!?」
「そうだな」
「そうだな、って、そんなしれっと……!」
「別に大した問題ではない。どうせ犯人も分かりきっている」
「えっ、だったら今すぐに止めてもらえば良いのでは……」
ちらりと先輩の方を伺うと、素晴らしいほどの爽やかな笑顔をいただいた。常連のお客さんなら大喜びだろうが、私にとっては(申し訳ないけど)鬼か悪魔のようしか見えない。この人はもしや―――
「お前は、俺がそうすると思うか?」
「……イエ、全く」
「犯人は泳がせておく。環たちにもタイミングを見て焚き付ける予定だ」
「須王先輩たちにも黙っているつもりなんですか……?」
「―――ふ、こうしてお膳立てしてもらったんだ。最大限に利用して盛り上げてやるのが筋というものだろう?」
―――やはりと言うべきか。『敵を欺くには、まず味方から』を実行しようとしている人物が、今目の前にいるわけだ。どこまで末恐ろしい性格をしているのか、この鳳鏡夜という男は。
「……でも、何で私には教えてくれたんですか?」
「お前からあいつらに漏れることはないだろうからな。これでも信用はしている」
「それはどうも……」
「ついでにお前はこの一件で、状況に応じて強かに生きる術を学んでおくことだな」
「……流石に鳳先輩からは高度すぎて学べない気がしますが」
「褒め言葉として取っておこう。なに、たまには高みの見物も良いだろう?」
ね?と楽しげに笑う先輩を見て、この人が敵で無くて良かったと思うと同時に、下手に逆らうまいと心に誓ったのだった。
「ああ、それと」
「?」
「お前にも後で裏取りをしてもらう予定だから、そのつもりでな」
完全に予想外の言葉に思わずぴたりと静止した。直後、今までの話の流れからすべてを察し、脅迫状から先輩へと勢いよく視線を移して叫んだ。
「……話が唐突だと思ったら、そっちが本音ですね!?」
「よくお分かりで。まずはあいつらに隠れて動くことだ、文化祭前の良い予行練習になるだろう?」
「そ、そういう方向での手助けはいらなかった……!」
「可愛い子には旅をさせよと言うじゃないか。どうせ99%を100%にする程度のものだ、やれるだけやったら骨くらいは拾ってやる」
「1%の為だけに子供を骨にさせるのは、果たして本当に可愛いと思っているんでしょうかね……」
「ははは、勿論思っているに決まってるじゃないか」
「もう良いです……」
確かに争奪戦では私が手伝える部分が少なすぎるので、これくらいが妥当な役割だろうか……とは思う。もはや何を言っても無駄だろうと諦め、大人しくこの恐ろしい上司の手駒として使われることにした。そして最後に思い出したように部長の意向を伝えられたけれど、いつものように丁重にお断りしておいた。