俺がその話を聴いたのは、偶然だった。



｢獪岳さんて素敵よね！
この前品出しの荷物が重くて持ち上がらなかった所を手助けしてくれたのよ！
無表情で近寄りがたかったけれど思い切って話してみると、とっても優しいの！｣

｢あ、私も！酔っ払いに絡まれてるところを助けて貰っちゃった！
凄いのよあの子！
自分より大きな男が殴りかかってきてもヒョイヒョイ避けて、終いには縛り上げちゃうんだから！｣


｢私は先日橋から財布を落としてしまって…周りは諦めた方がいいって言って誰も助けてくれなくてね…
でも獪岳さんだけは川に入って拾ってきてくれたの。｣

｢え！？この寒い時期に！？｣


｢勿論何度もお礼を言ったし家にも招いたのだけれど、足早に帰ってしまって…アレから一度も見かけないし…大丈夫かしら…。｣

｢それは心配ね…風邪なんか引いてないといいけれど…。｣

｢やっぱり獪岳さんて素敵よねぇ…無表情なのに優しい所がたまらないわ…｣

｢笑った顔なんてきっと見とれてしまうくらいなんでしょうね…。｣


｢獪岳さんはどんな表情でもいい男じゃない！中身が優しくて素敵なんだから顔なんて気にならないわよ！｣

｢そうよね！見た目が怖いからって近付かない人も多いみたいだけれど…｣


｢ちょっと話してみればあの子がどれだけいい子かなんて直ぐに分かるのにねぇ…。｣




｢……………。｣



え、まって…兄ちゃん人気すぎじゃない？
嘘でしょ？？

困ってる人を助けてあげたなんて聞いたことないんだけど！？

…や、そんなん自慢げに話すような兄ちゃんじゃないけどさ…

けど、なんか…面白くない。


てか、昨日ずぶ濡れで帰ってきたのはその所為か！！





ーガラ…ー



｢お、善逸…おかえ…ぶっ！？｣


｢兄ちゃん…街に行く時はずっとそれ被ってて。｣


｢ぶはっ…何だ急に…、…狐の面？｣




えっ…、俺ってそんな見るに堪えない様な顔面してるのか？
面で隠さないといけないほど不細工なの？

…いや、獪岳普通にイケメンだろ……ん？
この時代では整った顔って不細工なんだっけ？？
いやいや、でも音柱さんとかいい男って言われてなかった？？

…じゃあ、この子は何がしたいの？？




なんかブツブツ言ってるけど、気にしない。


｢なんで…

何で兄ちゃんは女の子から噂されるくらいモテてんのに俺はモテないわけ！！？

兄ちゃんの女たらし！！｣



｢は？いや、何言ってるの善逸…俺は別にたらしてないからな？

そも、お前がモテないのは出会い頭、開口一番に結婚して！とか言ってる所為だぞ？

付き合ってもいない…寧ろ出会って一刻も経ってない男から告白すっ飛ばして結婚申し込まれても普通に引くからな？｣


｢うぐっ…｣



正論で返された…
返す言葉もございません…。



｢お前だって黙っていれば良い男なんだから、先ずは人助けでもしてみたらどうだ？
善逸は元からいい子なんだし、分かる人にはお前の良さは伝わるものだよ。｣




……説教混じりに励まされた…。
ついでに頭撫でられた…。



そういうところだぞ兄ちゃん！！