短編
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「…善逸…?」
「え?」
「やっぱり!善逸なのね!!
髪色も違うし背も伸びているから一瞬分からなかったわ!
あぁ…また貴方に会えるなんて思っていなくて…あの時の事、ずっと謝りたかったの…ごめんなさい…」
突然善逸さんのそばに走り寄ってきて、口早に謝罪を述べる女性…
率直な感想は…なんだこの人…だった。
善逸さんの方をチラリと見上げると、その顔色は若干青ざめていて…無意識に触れた手の甲は…震えていた。
…あぁ…この人が善逸さんを振って借金を背負わせた女性か…。
私は善逸さんの前に歩み出てその人を見つめる。
「っ[花]…」
少し掠れて怯えを含んだ声色…
彼が女性相手にこんな風になるなんて珍しいな…なんて思いながらも目の前の女性に声をかけた。
「申し訳ありませんが、今は仕事から戻って上に報告しなければいけないので急いでいるんです。
立ち話をする余裕も無い程に。」
女性は今初めて私の存在を認識したように眉を寄せ、忌々しそうに見下ろしてきた。
「…貴女は?」
「私は…彼の仕事仲間です。」
「そう仕事の…
なら、私達の会話に割って入ってこないでくれないかしら。
私達は今大切な話をしているの。
邪魔をしないで。」
いや、邪魔しているのはどちらだ。
会話など成り立っていないではないか。
一方的に彼女が喋っているだけの其れは会話とは呼ばない。
善逸さんは一言も返事を返していないのだから。
「…、ぁ…」
彼が何か言おうとしたけど、目の前の女の喧しい喜色を帯びた声にかき消された。
「ねぇ善逸、私…貴方ともう一度やり直したいの!
今の貴方はあの頃のような貧相な子供ではないわ!
貴方が望むなら、私貴方と一緒になってあげてもいいのよ?
だから、また…あの頃みたいに…」
「いい加減にしてください!!」
本当に、なんなんだこの女
いきなり現れたかと思ったら耳障りな甲高い声で一方的にまくし立ててきて…
彼が何か言おうとしても聞こうともしないで…
挙句の果てにやり直したい?
貧相な子供だの…
一緒になってあげてもいいだの…
完全に上から目線じゃないか
巫山戯るな
「…行きましょう善逸さん。
こんな人と関わってる時間が勿体ないです。」
「待って!お願い…貴方が好きなの…私と一緒になって!
貴方となら今度こそ幸せになれるわ!!だから」
…この女…本当に黙ってくれないだろうか
さっき彼に暴言を吐いたその舌の根も乾かぬうちに…
よくもまぁ好きだなんて言えるな…
神経どうかしてるんじゃなかろうか
まぁ…この女は暴言なんて思っていないから先程の言葉がするりと出てきたのだろうけど
もう、怒りを通り越して呆れてくる
私が口を開こうとして、今度は善逸さんが其れを遮った。
「…ごめんね…俺は…君と一緒になる事は出来ない。
共に生きたいと思う子を見つけたから。
俺はもう…その子しか大切に出来ないんだ…。
だから、せめて…君が幸せになれるように祈っているよ。
ごめんね…さようなら。」
そう言って、彼は私の手を引こうとしたけれど…この先にある藤の花の家紋の家に行ってて欲しい。と言うと、わかった。と小さく言って走り去った。
…その声は隠しきれない涙声になっていて、今すぐにでも追いかけて慰めたい衝動に駆られる。
…それもこれも全部目の前の…この女のせいだ。
好きだと言われ、尽くしてくれたであろう善逸さんを騙して利用して挙句の果てに借金まで抱えさせてゴミ屑のように捨てた女…
向き合っているだけでも、その化粧で整った顔を引っぱたいてやりたくなる。
…けれど彼女はまた善逸さんの前に現れようとするだろう。
そんな気が起きなくなるくらいに…心を挫かなくてはならない。
もう二度と彼の前に現れないように。
「私、貴女に一つだけお礼を言わなくてはいけません。
我妻善逸さんを捨ててくださってありがとうございます」
私がそう言って頭を下げると、彼女の顔は面白いくらいに歪んだ。
「何を…私は…」
「貴女が彼を捨ててくれたから彼は借金を肩代わりしてくれた師範に出会えた。
彼を慕う仲間に出会えた。
彼と私も出会うことができた。
貴女の見る目が無かったおかげで。」
ヒュッと息を吸う音が聞こえた。
その顔は真っ青で、彼女はペタリとその場に膝をついた。
今度は私が彼女を見下ろす番。
「二度と善逸さんの名を呼ぶな。
二度と善逸さんに近付くな。
貴女の思惑は分かりやすいくらいに明け透けなんですよ。
目の前に昔捨てた子供が驚くほど逞しく成長して現れたものだから好機と思ったんでしょう?
いい金づるだと思ったんでしょう?
自分にあんなに尽くして好きだと言い続けてくれた善逸さんなら、また騙して掌の上で転がせると思いましたか?
残念でした。他を当たってください。
もう永遠に会わない事を心から願っています。さようなら。」
言いたい事を言えて大分スッキリした私は名前も知らない、覚える必要も無い女をその場に残して、今頃泣きわめいているであろう彼の元へとゆっくりと歩き出したのでした。
([花]!大丈夫?何も言われなかった?)
(大丈夫です。穏便に平和的にお話してきただけですから)
(そっか…ぐすっ…)
(…もう、本当に泣き虫ですね…善逸さんは(なでなで))
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