約束はまもるために
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぬるま湯の中をプカプカ浮かんでいるような…暖かな空中をふわふわ漂ってるような…気持ちのいい気分だった。
耳に届く音や声はあるけれど曖昧で、どれもハッキリとは聴こえなくて…。
だけどとても心地よくていつまでもこうしていたい…そんな気持ちでいた。
けれど、そんな気分は一つの産声で吹き飛んだ。
「ほぎゃぁ!!ほぎゃあぁ!!」
「…え、えぇ!?赤ん坊!!?なんで!!!?
何コレ!!?どうなってんの!!!??」
そりゃもう混乱した。
目の前に突然赤ん坊が居て、しかも俺ふわふわ浮いてるし。
透けてますし。
えっ…俺…死んだの?
ついに死んじゃったの??
鬼になった兄貴…獪岳の頸を切って一緒に真っ逆さまに落ちたところでプッツリ記憶が無い。
でも、こうして身体が透けてるんだから幽霊ってヤツになったのだろう。
死んだら地獄か天国に行くんじゃないんだ。
「…てか、ここ何処よ??」
周りを見渡しても、見覚えなんて全く無い。
訳の分からないカラクリや不思議な音がする箱…
目に痛いくらい眩しい照明…
そして見たことも無い洋服を着てバタバタと忙しない大人達。
その辺の物に触れてみようとしたけど、当然のようにすり抜ける。
話しかけてみても当たり前だが返事は返ってこない。
無視されてる訳じゃないと分かっていても辛い。
「おめでとうございます!女の子ですよ!」
「…やっと会えたわね…生まれてきてくれて…ありがとう。」
「なんて名前にしようか…楽しみだな」
暖かな声
穏やかな心音
優しい笑顔
(嗚呼…人間は…こんな風に生まれてくるんだ…)
傍に居るのは両親だろう。
産まれたての赤ん坊をとても愛おしそうに腕に抱いて、優しく頭を撫でている。
この子は望まれて生まれてこれたんだ。
「よかった…よかったねぇ…」
涙が溢れた。
自分の子供でもないのに…嬉しかった。
それから彼女はスクスク成長していき、女の子から女性と呼ばれる年齢になるまではあっという間だった。
この子…名前も今年で16…
生きていた頃の俺と同じ歳だなぁ…。
…アッ待って?じゃあ俺…少なくとも精神年齢30は過ぎてるってこと!?
嘘でしょ!!?
彼女も居ない、結婚もできないまま死んで…
幽霊みたいにフワフワ存在してて…
誰にも気づいて貰えないとか…
寂しすぎる!!!
あ、でもこの子は赤ん坊の時には俺が見えてたっぽいし声も聴こえていたみたいだったな。
バチリと目が合ったし、名前ちゃ〜ん。と手を振ったら、きゃらきゃら笑ってぶんぶん振り返してくれた。
控えめに言って天使だった。
「じぇ、いちゅ…じぇんいちゅ!」
ほんの出来心で名前を教えたら覚えてしまった。
名前ちゃん天才かよ。
普通だったら最初に覚えるのはお母さん、次にお父さんなのにね…。
見えてないけど、ご両親には土下座で謝っておいた。
申し訳ない。
すみませんでした。
俺が遠い目で回想に浸っていると、彼女はいそいそと本棚から一冊の単行本を取り出してニコニコと読み始める。
「はああぁぁ〜…善逸くん…今日もかっこかわいいなぁー…」
この子が今ハマっている…‘ 鬼滅の刃’という本…
最初はそれを見て死ぬほど驚いた。
週刊誌の表紙が炭治郎なのに驚いたし…
それの内容に驚いた。
最初はまさか…と思ったけど…
よく見知った顔に名前…
竈門炭治郎…竈門禰豆子…
最早疑いようが無い…。
そして泣いた。
身体中の水分無くなるんじゃないかってくらい泣いた。
だって悲惨すぎる…!!
俺みたいに孤児で家族なんて最初から居なければまだいいよ!?
でも幸せな家庭で育って…優しいお母さんや可愛い妹や弟が居て、これからも変わることなく家族一緒に過ごして行くんだろうな…
あれ、でも炭治郎はどうやって鬼殺隊に入ったんだっけ??なんて思ってた矢先に一家惨殺だ。
泣くしかないだろ。
おのれ鬼舞辻無惨…おのれ鬼舞辻無惨!!!
今なら殺れる。
あ、でも今俺日輪刀持ってなかったや。
って本気で思った。
…まぁ、それはさておき…
彼女が今度はテレビを付け、1枚のディスクをデッキに入れる。
「やっぱり何回みても格好良いなぁ…善逸くんの戦闘シーン!!」
…お分かり頂けるだろうか…
今この子が見ているのは例の鼓屋敷の話…
もっと細かく言うと俺と正一くんが鬼に襲われた場面だ。
これ初見では幻覚かなんかだと思ったから。
いや、ホント。
ごめんよ炭治郎…お前の言ったこと全否定して。
なんなら頭おかしいんじゃねーかコイツとか思っててマジごめん。
でも何回みても意味わかんない。
意識ない時…気絶してる時は強いって…おかしいよね。
でも俺…獪岳と戦った時は意識あったよ??
どゆこと???
…それはそうと、この子は同じシーン何回見るんだ。
かれこれ10回は見てるぞ。
飽きないのかな?
まぁ、…飽きないから見るんだろうなぁ…。
え?俺は恥ずかしくないのかって?
…だってさ、俺幽霊だし…物に触れられないから止めようが無いし…
最初は羞恥心で死にそうになったよ?
耳塞いでも聞こえてくるしさ…。
でも流石に慣れたよね。
そしてひとしきりアニメを見て満足した彼女はテレビと電気を消してベッドに入る。
次の日…
その日は朝から胸騒ぎがして落ち着かない。
もうすぐ彼女は学校に行く時間だ。
いつもなら俺はこの場所で待っているのだけれど、今日はついて行かなければいけない気がした。
これが虫の知らせと云うヤツなのだろうか。
何故か俺はここからあまり離れられない。
移動出来ても近場のアニメショップか駅くらいまでだ。
それ以上越えようとすると途端に身体が重くなる。
でも今回はそうも言ってられない。
きっと今日何か起こるんだろう。
俺が側に居なければいけない何かが。
…これはヤバい…
身体が重い…息が苦しい…
彼女は駅のホーム…1番前に立ち電車を待っていた。
電車が来る事を伝えるアナウンスが流れる。
彼女の隣には母親と手を繋いだ小さな男の子が居て、その子が不意に手に持っていた人形を落としてしまい拾おうと屈んで…その拍子に母親と繋いでいた手がすっぽ抜ける。
その反動で男の子がホームに落ちそうになり、それを隣に居た彼女が押しとどめる。
けれど、代わりに彼女が足を踏み外してホームに落ちた。
「っ名前!!」
それを見た瞬間、俺は走った。
身体の重怠さや呼吸の苦しさなんて無視して
触れられないと分かっていても彼女に覆い被さる
そんな事をしても無駄だと分かっていても。
電車は目と鼻の先
ブチブチと肉が潰れる音…
バキバキと骨が折れ、コリゴリ砕かれる音…
びちゃびちゃと飛び散る血飛沫の音…
大勢の叫び声…
ブレーキの音…
色んな音が聞こえて頭が可笑しくなりそうだった。
けれど最後にハッキリと聴こえた、君の声を…言葉を…
俺は決して忘れない
「次があるなら…叶うなら、善逸くんにあいたい…な…」
嗚呼…神様が居るなら…どうか…
名前の願いを聞き届けてはくれないだろうか。
俺なんかで良ければいくらでも一緒に居てやる。約束するから。
今度こそ‘お前’を…ずっと守ってやるからな
‘ 次 ’はずっと一緒だ
「…って事があったんだ」
「」