約束はまもるために
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目を開けるとそこは…賑わっている街の中でした。
即座に自身を確認したよね。
手は小さくてふくふく。
子供特有の手だ。
目の端に映る髪は黒く短い。
ほっぺたはプニプニだし身体もそこまで痩せこけてはいない。
子供の頃の善逸くんの身体だ。
11〜2歳くらい?なのかな?
とりあえず善逸くんを探したいけど…
誰に成っているのか分からないし…。
これからどうしよう…と考えていると、いきなり視界がグン!と上がった。
何事!?と顔を上げて確認すると、大男に着物の襟首を掴んで持ち上げられてた。
…あっ!原作で善逸くんの事踏んずけてた借金取り!!
あれ?女の子と駆け落ちする男の人だっけ?
…どっちでもいいけど、なんで私捕まってるの?
借金なんてありませんけど!?
私の疑問が顔に出ていたのか、男はニヤニヤしながら教えてくれた。
「なんで自分が捕まったか分からねぇって顔だなぁ…
お前はな、売られたんだよ。今まで育ててくれた親にな!」
売られ、た…?
でも善逸くんに両親は居ないはずだ。
だっておくるみに包まれて赤ん坊の時に捨てられたって…
………!育ての親か!!
年端も行かない赤ん坊が自力で生きていけるはずもないし、拾って育ててくれた人がいるはず…。
でもここは私が住んでいた平和な時代じゃない。
まだまだ人攫いとか人身売買とかも頻繁にあった時代…。
その日生きられるかどうかも分からない過酷なご時世だ。
子供の売り買いなんてきっと珍しくもなんともない。
寧ろ自分の子供じゃないから簡単に手放せるし、金にもなって厄介払いが出来ると手放しで喜ぶだろう。
…最悪だ…。
善逸くんに会う前に売られるなんて…。
逃げなきゃ。
幸い顔を見合わせる感じで襟首を掴まれていた為、男をキッ!と睨み、思いっきり無防備な顎を蹴り飛ばす。
子供の脚力だから気絶はしないだろうけど、まさか反撃されるとは思わなかったのか男の手が緩み、掴まれていた着物がその手から離れた。
そして地面に着地したと同時に走った。
流石は善逸くん
子供の頃から足が早かったんだね!
後ろから待て!だのクソガキ!!だのと聞こえてくる。
捕まったら次は無い。
いくら善逸くんの足が早いからと言って大人と子供では体格の関係で歩幅も違う。
気を抜いたら追い付かれてしまう。
逃げるだけじゃダメだ。
高い木に登って暫くやり過ごそう。
流石は善逸くん(2回目)
逃げに関してはスキルレベルMAXなんじゃないかな。
木登り早い。すごく早い。
ヒョイヒョイ登れる。
枝や葉っぱで地面が見えないくらい高くに登った。
多分下からでもちょっと見上げたくらいじゃ葉っぱに隠れて子供が登ってるなんて分からないと思う。
両手を広げ、木に抱きつくように捕まり…目を閉じて耳を澄ませる。
地面を踏みしめるうるさい足音がだんだん近づいて来る。
さっきの男だ。
「くっそ…!あのガキどこ行きやがった!!
見つけたらただじゃおかねぇ!!」
完全に悪役の台詞じゃないですかヤダー。
早くどっか行ってどうぞ。
暫く周りをうろついていた男は諦めたのか来た時と同じようにドシドシと足音をたてながら走っていった。
はあぁ〜…何とか見つからずにすんだ…。
でもまだ安心は出来ない。
あの男は近くを探しているから、無闇矢鱈に歩き回れないし…。
…落っこちないか心配だけど、このまま一晩木の上で過ごすしかないかな…
…にしても、善逸くん…聴覚凄いなぁ…。
普通なら聴こえない距離からの足音や話し声…
どれくらい先に何人くらい居るのかも分かってしまう。
意識すれば心音や血の流れる音も本当に聴こえる。
便利といえば便利だけど、聴きたくないような声や音も聴こえてしまうから、万能では無い。
聞き分けるなんて難しい事できる訳もないし、音がやけに大きく聞こえる事もあるから…善逸くんの異様な怖がりはこれも関係してるんじゃないだろうか…。
そんな事を考えていたらいつの間にか寝てました。
気付いたら朝だったよね。
近くに人は居ないみたいだし…またあの男が戻って来る前に逃げちゃおう。
…行く宛とかお金とか正直無いけど、捕まって売られるよりいいよね。
…………と、そんな事を考えてる時期が私にもありました。
「待てやゴラアアァァァーーー!!!」
「いやああああぁぁぁーーーー!!!」
現在借金取りの男に追われてます。
町に戻ったのがいけなかった。
そこで見つかって追いかけっこ真っ最中。
…運悪すぎない?私。
「いい加減に…しやがれ!!!」
ちょっ…この男、子供に石投げつけてきたよ!!
それは足首にかすり、私はバランスを崩して地面に倒れた。
「あぐっ…!!」
倒れた背中に思いっきり足を乗せられて逃げられないように体重をかけられる。
苦しくて…息が、出来ない…!
背中からはミシミシと嫌な音が聴こえる。
もう少し力を入れられたら背骨折れるんじゃないかってくらい痛い。
結局、捕まってしまった…
もう無理なの?
諦めるしかないの?
善逸くんに会いたかったのにな…。
痛みや恐怖から涙がじわりと溢れる。
一筋零れたソレは堰を切ったようにボロボロと零れていく。
怖い。恐い。
所詮自分は平和な時代に生まれた暴力も恐怖もろくに知らないか弱い子供だ。
画面越しに見てるだけなら、紙面で読んでるだけなら、ただはしゃいで感動してそれだけで居られた。
でもこの痛みも地面の感触も街の空気も人の声もこの目で見た風景も…全て…
総て、本物だ。
「ふっ、うぁっ…」
けど…人間は、いつの時代でも同じなんだなって思う。
子供が大の男に追いかけられていても踏みつけにされて売られそうになっていても、誰もが見て見ぬふり。
素知らぬ顔か五月蝿いと顔を顰めているかのどちらかだ。
誰も、助けてなんて…くれないんだ…。
「その子から足を退けろ。」
ザワザワと、どよめいていた町の音をかき消すように聴こえた、少し高めの男の子の声。
辺りはシンと静まり、此方に向かって歩いてくる一人分の足音だけがやけに大きく響いた。
…だれ…?
足元しか見えないから顔を確認出来ない…。
「なんだぁ?手前は。このガキはな、商品のくせに逃げようとしやがったんだ。
だから逃げられないようにこうして捕まえてるのさ!
関係ねぇヤツはすっこんでな!!」
「じゃあその子は俺が買わせてもらおう。ほら、代金だ。」
そう言って、その子はお金を辺りにバラ撒いた。
チャラチャラ…と周りに散らばる銭を男はポカンと眺めていたが、ハッとなって他の人に拾われないように必死にかき集める。
私はやっと踏み付けられていた圧迫感から解放され
ケホケホと咳き込む。
男の子はそんな私を優しく抱き上げてくれて、顔を覗き込んできた。
やっと見ることが出来たその子の顔を見て驚愕する
幼い顔立ちだけど、間違える筈が無い。
だってその子は…善逸くんの兄弟子…
獪岳だったのだから。