happy happy



目を開けると、そこは現代とは違った昔の街並みが広がっていた


「………え?」


びっくりしすぎて、言葉が出てこない

いくら辺りを見回しても知ってる風景なんか見当たらなくて…
更に頭がこんがらがる。


「…いたい」


ベタだが、頬をつねってみても当たり前のように痛みは感じる。

痛い夢はあるとは思う…でも、けど…これはあまりにも鮮明すぎる。

「人の声も…風景も匂いも…ハッキリし過ぎてる…

これは夢じゃ、ない…」


だとしたら、ここは一体何処なのだろうか?

夢じゃないにしても、私は何故こんな所に居るのだろう…

よくある死んで転生…とかそう云うアレなのか?


思い出そうと目を閉じて思考してみる。
私は学生、だったはず。
下校していた…んだと思う。

だけど、その先を思い出そうとしても、まるでテレビの電源を無理やり消したようにブツン…と暗転して思い出せない。


「…私、いつの間に死んじゃったの?」


車に跳ねられたのか…誰かに殺されたのか…自然災害…
…自殺…は無いはず…


「…とりあえず、今私が何処にいるのか…それを調べないと」



「あの」
「退いた退いた!!邪魔だよ!嬢ちゃん!!」

「すみません」
「忙しいんだ!後にしとくれ!!」


…取り尽くしまもない…
道行く人、皆忙しなく動いている…

ハキハキ、キビキビ

時に声を張り上げて客を呼び込み
あるいは道を駆けずり回って品物を運び…

「すごい…」

自分が生きてきた現代社会とはえらい違いだ。
ここが何時だかは分からない…
でもまだ車なんか無いような時代なのだろう
移動手段はもっぱら自分の足で行く…
自転車なんかも探せばあるのだろうけど、見当たらない。


「…はぁ…これから…どうしよう」




はぁ、とため息をついてふと横を見ると…
路地裏の人が通らないような狭い場所に膝を抱えて蹲る幼い子供を見つけた。

泣いているのだろうか…その肩は小さく跳ねて震えている。
傍に歩み寄ると、小さな嗚咽も聞こえてきた。


「ひっ…うえぇ…なんでぇ…?俺の何がいけなかったのぉ…全部、ぜんぶ…言う通りに、したのにぃ…!グスっ…!!」


「あの…大丈夫?」

「ひぃぇ!!?」


声をかけると男の子は飛び跳ねる勢いで驚き、ばっ!と顔を上げた。


残バラだけど真っ直ぐな黒髪
涙に濡れた大きな蜂蜜色の瞳
特徴的な眉…

自分は、知っている…この子を…

そして、確信した
ここが何処なのかを


ここは…世界中が熱狂し、自分もハマった漫画…





鬼滅の刃の世界だ







……………__。



「…落ち着いた?
ごめんなさい…脅かしちゃったみたいで…」

「あ、俺の方こそ、ごめんなさい!あの…」

「私は小鳥遊のあ…君は?」

「…俺は…善逸、です」


…ん?苗字は??


「…苗字は無いの?」

「…うん。」


…ふむ。なら我妻って苗字はじいちゃんこと、桑島慈悟郎さんが付けてくれたのかな?


「そっか…じゃあ善逸くんって呼んでもいい?」

「う、うん!…あ、あの!俺も…のあさんって呼んでも…」


モジモジしてる善逸くん可愛すぎる
もうなんて呼ばれてもいいわ!!


「うん。もちろん。仲良くしてね。善逸くん」


そう言って手を差し出すと、パァ!っと顔を明るくさせ、ニコニコと私の手を握ってくれた。


ンンン!!天使!!!!


「…善逸くんは甘いもの好き?」

「え?うん、好き!」


そうかそうか。
ならばお姉さんが取っておきのお菓子をあげようではないか。

…と言っても、現代では安く買えるサイコロキャラメルなんだが。
この時代ではまだ高級品だったはず。

「善逸くん…あーんってしてごらん?」

「うぇっ…!?…あ、あーん…」


…自分で言っておいてなんだが…無防備過ぎないかこの子…

警戒心どこいった


まぁ、こちらとしては好都合なので可愛らしく開けられたお口に包装紙を剥がした其れを放り込んだ。


「ング!?…んんっ…!!」


最初は目を白黒させて驚いていたけど、甘いものだと分かると一生懸命口をモゴモゴと動かしその甘さを堪能しているようだった。


「…美味しい?」

「〜〜〜っ!!」

口に物が入っているから喋れないのか、必死に首を縦にブンブンと振る善逸くんかわいい

…もうさっきからかわいいしか出てこない
語彙力仕事して



「…あの…すっごく美味しかったけど…これ、キヤラメルだよね?
た、高いんじゃ…」

「ん?いや、そうでもないよ?1箱に2つ入ってて10円くらいだから…」

「!!??じゅ…!!!??」


…ん?善逸くん固まっちゃった。
なんで………あっ、この時代と私の時代の価格って違うんだっけ!


「善逸くん、ごめんね…冗談だから。
一銭、一銭くらい」

確か、一銭=100〜200円くらいだったはず。
そう考えると1円はこの時代では1〜2万円…
10円は約10〜20万…ひぇ…

一粒20万のキャラメルなんて食べたくない。


「だ、だよね…びっくりしたぁ…」

「ごめんね…私、お金の数え方とかよく分からなくて…」


本当…生まれも育ちも平成なんもんで…

一銭なんて金額最早存在しないし…
1円単位で買えるものなんて5円チョコくらいしか知らない。
フーセンガム一粒だって10円とかだったんだから。


…この時代での買い物は善逸くんと一緒に行って会計は彼に任せよう…。

また変な事口走らないようにしないと…。

とりあえず、お金を稼ぐ方法と…
住める所を探そうかな…。

え?順応性が高い?
楽天的??

これが夢じゃないと分かった事ですし…
衣はともかく…食と住の確保は大切でしょ。


とりあえず、鞄の中のお菓子たちは大切に食べよう。
溶けないチョコレートは大切な非常食だ!



「あの…のあさん!また俺と会ってくれる…?」

「うん。もちろん」

そんなの私の方からお願いしたいくらいだよ。

だって、善逸くんと話をするの凄く楽しいんだもの。
むしろ一緒に居られるだけで私は満足だ。

この子に頼りっぱなしはいけないかもしれないけど…
よくよく考えたら善逸くんはかまぼこ隊の中で一番の常識人だったし。
知識も豊富なのだろう。
皆が知らなかった列車の事や遊郭の事も知っていたのだから。


善逸くんは何れ鬼殺隊になるだろう。
せめて、善逸くんが師匠さんに出会うまでは…共に過ごしたい。


…欲を言えば…この子と…ずっと一緒に居られたらいいなぁって思うけれど…。

私は戦って鬼を斬るなんてこと出来ないもの。
所詮は戦いどころか暴力だって経験のない平和な時代で生きてきた人間だ。

鬼を斬れと強要されて、そんなに簡単に行動に移す勇気は私には無い。


だから、お別れするその時までは…一緒にいさせてください。





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