流転する願い
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そして数日後、何故か私と我妻くんは買い出しに来ている。
何故こうなったかと言うと…
お砂糖やお醤油等の調味料を届けてくれるお店が急用で来れなくなってしまい、自身で取りに行くという事になり…
お年寄りのひささんに行かせる訳にも行かず…
私が行きますと挙手した所、なんと竈門くんが「善逸を一緒に連れていくといい!」とにこやかに言い放ったのだ。
竈門くんは、ひささんのお手伝い兼お掃除を買って出て、嘴平くんは近くの山に探索に出てしまい…
縁側に座って大福を頬張っていた我妻くんに白羽の矢が立ったのでした。
最初我妻くんは、なんで俺が…と渋っていましたが、竈門くんに「善逸が一番軽傷なんだぞ!お世話になってるんだから出来る事は手伝ってあげるべきだ!!」と云う言葉にぐうの音も出なくなってしまったようで…
着物の上に羽織を着てブツブツと文句を言いながらも着いてきてくれた。
「…あとは、お醤油か…あの…じゃあ俺が買ってくるから…ここで待ってて」
「はい」
駆けていく背中を見送りながら、私は小さくため息をつく。
…なんだか、我妻くんがよそよそしいというか…避けられている気がする…。
もしかすると、私が気付いていないだけで何かやらかしてしまったのかな…?
何となく隣のお店に目をやると、そこは駄菓子屋さんで色々なお菓子が並んでいた。
あ…そういえば我妻くんは甘いものが好きだよね…。
今日付き合ってもらったお礼に何かあげたら喜んでくれるかな…。
ふと目にとまったのは有名な缶に入ったドロップ
これなら色々な味があるから飽きずに食べられるかも。
日持ちもするし…
…私の手持ちでも十分買える!
実はひささんから何か要る物があったら買いなさいと、お給金…というかお小遣い程度のお金を頂いている。
今まで使う事がなかったのでコツコツと貯めていたのだけど…
「…最初に買うものは…我妻くんに贈るものがいいな」
少しでも喜んでくれますように
買い物が終わり、厨に買ったものを置いて…
それじゃあ…と立ち去ろうとする我妻くんを呼び止める。
「…っ…な、なに?」
「あ、あの…これ…今日一緒に来て頂いたお礼です」
「えっ…あ…ありが、とう…」
良かった…受け取ってくれた…!
頬を染めて嬉しそうに笑う我妻くんを見て…
私は自然に言葉がこぼれた
「貴方が好きです」
「…え、」
我妻くんは顔を青ざめさせて、パシン!と自身の耳を両手で塞いで…
そこで私は我に返り、血の気が引いていくのを感じた。
「あっ…す、すみませ…」
「お、俺は!禰豆子ちゃんが好きだから!!」
バタバタと走り去る彼を呆然と見つめていると…
廊下の角からひょっこり現れた竈門くんに声をかけられる。
「あ、貴女は…ええと…莉緒、さん?
お買い物ご苦労様でした!
こっちも今掃除が終わった所で……、どうかしましたか?」
「竈門…さん…」
私の感情の匂いを感じ取ったのか、眉を下げて傍まで来てくれたけど…
私は大丈夫です。ありがとうございます。
と、愛想笑いをして家事をする為にひささんの所に向かった。
お布団を取り込んだり浴槽を洗ったりしている内に辺りはとっぷりと暗くなり、もうすぐ夕餉の時間になる…けれど…
ひささんは何かを察してくれて、私に休むようにすすめてくれた。
縁側に腰掛けてぼんやりと先程の事を考える。
何かに怯えたような我妻くんの表情…
そして、叫ぶように言われた言葉…
知っていたはずだ…彼が誰を一途に思い続けるか…
それなのに勝手に好きになって、勝手に告白した挙句彼の気持ちを揺さぶって、そして勝手に傷付いて…
私は…なんて、自分勝手なんだろう。
じわりと涙腺が緩む
泣くなんて…卑怯だ
気持ちを切り替えなくては
…切り替えなくては、いけないのに…
「っ…ぅ…」
ポロポロ、と零れていくそれは中々止まってはくれなくて…
思わず両手で顔を覆った。
そっと触れた温かい温もり…
パッ!と顔を上げると紅梅色の瞳を潤ませて心配そうに覗き込む可愛らしい女の子がいた。
禰豆子、ちゃん
「…莉緒さん…」
竈門くんも心配そうに隣に座ってくれて…
禰豆子ちゃんは私の頭を抱え込んで優しく撫でてくれる…。
竈門兄妹…なんて優しいんだ…
尊い…
「ありがとう、ございます…すみません…ありがとうございます」
暫くは禰豆子ちゃんが撫でていてくれたけど、もう大丈夫ですよ。と微笑むと禰豆子ちゃんもにっこり笑って暗い庭をふよふよと漂う光につられて行った。
「わぁ…蛍です!私初めて見ました…綺麗ですねぇ」
黄色い光を眺めていると、竈門くんは安心したように笑って言った。
「良かった…実はこの蛍…伊之助が山で捕まえてきたみたいで…他にも沢山取ってきたらしく、色々なものを見せてくれました」
「そうなんですか…あ、危ない!」
蛍を追いかけるのに夢中になっていた禰豆子ちゃんは石に躓いて顔から倒れ込んでしまい、竈門くんと一緒に慌てて駆け寄った。
「大丈夫か、禰豆子」
「厶…ウゥ…」
竈門さんが禰豆子ちゃんを抱き起こすと彼女の顔が泥で汚れてしまっていて、私は手ぬぐいで拭いてあげた。
「あ、口枷も汚れてしまいましたね…ちょっとごめんなさい」
「あ、」
「?…はい。綺麗になりましたよ。」
竈門くんが何か言いたそうにしていたけれど、私は禰豆子ちゃんの頭をそっと撫でる。
「ムゥー!」
禰豆子ちゃんは嬉しそうにぎゅっと私にしがみついてきて…もう、可愛すぎるこの子…
撫でる手が止まらなくなっちゃう。
「竈門さん…ありがとうございます。
ご心配をおかけしてすみませんでした。
でも、竈門さんと禰豆子ちゃんのおかげで元気が出ました」
「…いえ。こちらこそありがとうございます。
…実は…禰豆子は鬼なんです。
だから荻坂さんが禰豆子と普通に接してくれて凄く嬉しかったんです」
「…どんな事情があったとしても、禰豆子ちゃんはとても思いやりがあって、優しくて…可愛らしい女の子です。
ついさっき、実際に慰めていただきましたから」
こんな可愛い女の子なら我妻くんじゃなくても好きになっちゃうよね。
…私はもう、大丈夫。
だけど…貴方が誰を好きでも、私はやっぱり…貴方が好きです。
どうかそれだけは許してください。