流転する願い
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朝起きて庭に出るとしのぶさんがお花に水をあげていて…
色々とお話させてもらった。
そして、しのぶさんの計らいで私は藤の花の家紋の家で働かせてもらえることになった。
朝食を頂いた後、しのぶさんに何度も頭を下げ扉の前で待ってくれていた冨岡さんの隣に立つ。
「お待たせしました、冨岡さん。
よろしくお願い致します」
「…あぁ……着いてこい」
そう言って冨岡さんは足早に進んで行ってしまって…
は、早い…小走りでないと追いつけない…!
私が焦っていると、後ろからしのぶさんの声が聞こえてきた。
「冨岡さん!貴方はそれでゆっくり歩いてるつもりでも、一般の女の子にとっては走ってるのと同じですからね!
もっとちゃんと気を使ってあげてください!
…まったく…気遣いもできないなんて…
そんなだから貴方は嫌われてしまうんですよ〜?」
「…!!」
しのぶさん…最後まで私を気遣ってくれるなんて…
…と感動していたけれど、冨岡さんの方を見るとハッとしたように立ち止まってしまい…
しのぶさんの最後の言葉にピシリ、と固まってしまった。
そして耳を済ませないと聞こえないくらい小さな声で「…俺は嫌われていない…」と呟きました。
わぁ…伝説のやり取りを傍で拝見できるなんて…
…あ、感動している場合じゃないよね
私は若干しょんぼりしている冨岡さんの裾をちょいちょいと引っ張ります。
「冨岡さん、冨岡さん。しのぶさんはとても素敵な方でした。
突然やってきたにも関わらず、私を一晩泊めてくださって…感謝の気持ちでいっぱいです」
「…そうか」
「でも、私が一番感謝しているのは…冨岡さんなんです。
だって、貴方が助けて下さらなければ…私は鬼に殺されていました。
もう聞き飽きたかとは思いますが…
改めて…本当にありがとうございました。
あの、何が言いたいかといいますと…私は感謝こそすれ貴方を嫌ったりなどしません」
「……、…そうか」
私が力説すると富岡さんは目を細めて、行くぞと歩きだした。
その歩調は最初と比べると、とてもゆったりしたもので…
少し離れた所に居るしのぶさんに会釈し、今度こそ私も冨岡さんに習って隣を歩き出した。
「…やれやれですね…冨岡さんでは少々不安もありますが…多分大丈夫でしょう。
…貴女の会いたい方に会えるといいですね…莉緒さん」
それは、朝方…縁側で聞いた話
ささやかな彼女の夢
「そういえば、貴女は森の中に居たと、富岡さんから聞きましたが…何故か伺っても?」
「…会いたい人が、居るんです。
私はその人を探している途中でして…
夜は危ないと存じてました…ですが、どうしても会いたくて…
その人に会うのが私の唯一の…夢なんです」
そう言って語る彼女の横顔はキラキラと輝いて見えた。
…………ーーー
暫く歩き…間に小休憩、昼食を挟んではまた歩くを繰り返し…
冨岡さんがポツリと「あと少しだ」と声をかけてくれました。
その間、私の息が上がってきたら飲み物を渡してくれたり…
歩く距離が離れてしまったら立ち止まって私が追いつくのを待っていてくれる。
富岡さんは、私が無理をしていると分かると茶屋で休憩しようと促してくれて…。
私がお金を持ち合わせていない旨を伝えると「気にするな」とお団子とお茶を注文してくれた。
…お世話になりっぱなしで居た堪れない…
現時点で私が出来る事は、これ以上富岡さんの迷惑にならないよう少しでも早く歩いて目的地に着く事なのだが…
蝶屋敷を出てから私は迷惑しか掛けていないような気が…
折角のお休みの日に私という一般人のお守り
そしてお昼ご飯やら、お八つやらの無駄な出費
…すみません…ごめんなさい…
私が湯呑みを持ったまま俯いていると、富岡さんはジッと私を見つめてきた。
「…甘味…」
「え…あ、はい好きです。
このお団子もとても美味しいです」
「…昼餉…」
「とても美味しかったです!
富岡さんのオススメの鮭大根も絶品でした!」
このお団子、もちもちで現代のものと違って自然な甘みがたまらない…
苦めのお茶とみたらしのあまじょっぱさがとてもよく合う…
お昼ご飯の鮭大根定食もとても美味しく、富岡さんの好物というのも納得できた。
「そうか」とだけ零しお茶を飲み干す富岡さんをチラリと盗み見る
何だか、彼の周りがホワホワしているような…
美味しいものを食べると嬉しくなって纏う空気も柔らかくなるからかな?
ともあれ、ほんの少しでも富岡さんが安らげたのなら良かった。
疲れた時は甘いものだよねぇ…
そうして、彼の宣言通り
暫く歩いた先に覚えのある家紋が描かれた大きなお家が見えてきた。