桃太郎成り代わり




最初に感じたのは息苦しさ


泳げもしない癖に考え無しに川に飛び込んで、溺れている子供を助けようとして…

川の表面に突き出ている岩に子供を捕まらせて…油断していた

ホッとしたのも束の間…
岩の表面に生えた苔で滑り、流されるなんて…

更に、それが原因で溺れ死ぬとか…

…馬鹿すぎる…



…まぁ、そんな感じで自分の人生は幕を閉じた訳だ。






真っ暗な闇のなか…
前後左右の感覚も…
今自分が目を開けているのか閉じているのかさえも分からない…

ユラユラと、フワフワと…
たゆたう様な気持ち良さだけが感じられる…


そして突然…
上からザク、と…
まるで包丁で何かを切り裂く音が聞こえてきて…


次に感じたのは眩しい光だった…


ダン!
と目の前に落ちてきた銀色のソレは…

まさしく鋭く研がれた包丁でした。



「おぎゃああぁぁ!!!」


突然の刃物に驚き、まるで赤ん坊の様な声が出てしまった…


「こりゃ、たまげた…桃の中に赤ん坊が入っとるとは…」

「本当にねぇ…」



不思議そうに覗きこんでくる老人達…




…え…?
どう云う状況なの…コレ…

ん…?
ってか…今赤ん坊って言った…!?
しかも、桃の中に!?
…これはアレですか…
私はもしや、有名な昔話の…
鬼退治の英雄さんに成っちゃったって事ですかね…ι

コレが俗に云う輪廻転生ってヤツか…


私がポカン、と口を開けて呆然としているのを他所に…
お爺さんとお婆さんはお構い無しに話を進めていく。

「しかし、ほんに可愛らしい女の子ですねぇ…お爺さん。」

「ホントにのぉ…」

「でも、心配ですねぇ…
この子が女子おなごとして成長していったら、きっと鬼ヶ島に住む鬼達に目をつけられてしまう…」


「そうさなぁ…」


あぁ…やっぱり、そうなんだ…

私は成長したら鬼退治にいく…
‘桃太郎’に生まれてしまったんだ…
しかも、何の手違いか…
桃太郎は男の筈なのに、私は生前の性別のまま…女として桃太郎になってしまった。

…これはもう…いっその事…男として振る舞った方が良いのかもしれない…



「この子には酷かもしれんが…
いっそ、男子おのことして育てた方がいいのかもしれん…

この子の名前は桃太郎にしよう。」


「そう…そうですね…
ごめんなさいね…桃太郎…
あなたを女子おなごとして育ててあげられなくて…」

「すまんのぉ…桃太郎…」



…なんて、優しい人達なんだろう…
私の身を案じての事なのに…

護ってあげたい…と思った。

血が繋がってる訳でもなく、桃から出てきた奇妙な赤ん坊にそこまで心を砕いてくれる…
この二人には幸せになってほしい…

…よし!
目指すは鬼ヶ島

目的は鬼退治



昔話で語られてる桃太郎みたいに上手くいくかどうかは分からないけど…

お爺さんとお婆さんの為に頑張ります!!




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