クロス大陸編
夢主の名前
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窓から差し込む朝日
その眩しさで目を覚ました
ぼんやりと目を開けると知らない部屋
…そうだ…昨日は確か…
アシュトンと出会ってから、この宿に泊まったのを思い出す
相変わらず彼と出会う以前の事は思い出せないままだが
眠い目をこすり、隣のベッドを見ると彼の姿は無かった
一気に眠気は吹き飛び、サッと血の気が引いていく
ずっと側に居てもらいたいなんて、そんな図々しい事は言わない…
でも、せめて…もう少しだけ…一緒に…
だって、私を気に掛けてくれたのは…
優しくしてくれたのは…貴方だけなの…
このままこの知らない世界に放り出されたら…私はきっと…生きていけない
バタン!と半ば勢い良くドアを開けると美味しそうないいにおいが漂ってきて…
くぅ…とお腹が鳴った。
「あ、おはよう!よく眠れた?」
ひょっこり顔を出したのは、探していたアシュトンだった
ニコニコと笑いながら、今起こしに行こうと思ってたんだよ〜と言いながらフライパンを振っている。
あぁ…居てくれた…良かった…
「おはよう、ございます…あの私もお手伝いします!」
「え、いいの?じゃあお皿を二枚出してくれるかい?」
「はい!」
テキパキと皿に盛られていく料理
スクランブルエッグとソーセージ
色々な種類のサンドイッチ
キャロットジュース
どれも美味しそうだ
「あの、これ全部アシュトンが作ったんですか?」
「うん。宿の女将さんに聞いたら、自分の分も作ってくれるなら調理場を貸してくれるって言うから…。
そんな大したものは作れてないけどねぇ〜。
あ、食べられない物とかある?」
「いえ、大丈夫です!美味しそう…」
「へへ、良かった〜。じゃあ食べようか。」
ふわふわのスクランブルエッグをスプーンですくい、口に運ぶと…
甘くて優しい味付けがフワリと広がって、とても美味しい
「アシュトンはお料理上手なんですね…すごく美味しい…」
「そ、そんな…簡単だから誰にでも作れるよ?
えへへ…でも褒められたのなんて初めてだから…嬉しいなぁ…」
恥ずかしそうに笑う彼は背も私より高い大人の男性なのに…
とても可愛らしく見えた。
ほっこりしていると、彼は思い出したように私に向き直る。
「そういえば君…ええと…名前は何ていうの?良かったら教えてほしいなぁ〜…なんて…」
…名前…
頭で考えてみても、昨日アシュトンと会った以前の事は何も思い出せない…
私は誰で…
どこから来て…
何をしていたのか…
「だ、大丈夫?急すぎたかな……あ!そうだ!デザートがあるんだった!
持ってくるねっ!」
私が俯いていると、彼はそう言って食べ終わったお皿やコップを持って行った。
…また、気を使わせてしまった…
話さないといけないのに…
信じてくれるかも分からないけれど…
…ううん、アシュトンはきっと信じてくれるだろう。
だって、見ず知らずの私を助けてくれて、話を聞いてくれて…
こんなにも優しくしてくれる…
今頼れるのはアシュトンだけ…
甘えてるって分かってる…
でも、ごめんなさい…
あと、もう少しだけ…貴方に…側にいてほしい…
「おまたせ!…はい!これ!
昨日のアイスにブルーベリーを混ぜてみたんだ!」
ガラスの器には白と薄い紫の2種類のアイスが盛り付けられていた。
「これも、アシュトンが?」
「う、うん!昨日も美味しそうに食べてたから…嫌じゃなかったら、召し上がれ!」
「…おいしい…」
甘酸っぱくて…冷たくて…口の中でスッと溶けてしまったアイス。
モヤモヤとした後ろ向きな考えさえも消してくれたようで…
私はポツリポツリと、思っていた事をアシュトンに話していた。
ーーーーー………
「…そっか…だから君は一人であそこに居たんだね…」
「はい…」
これからどうすればいいのか…
私自身どうしたいのか…
それすらも分からない…
「…あのさ…これはあくまでただの提案なんだけど…
僕と一緒に…旅をしないかい?」
「…え?」
「あの!一人よりも二人のが気が紛れるし!
買い物とかも困らないし!
ぼ、僕…こう見えても剣士だし!
それに、町の外は魔物が沢山居て危ないし!
も、勿論…その、君が嫌なら無理にとはいわない、んだけ…ど…」
半ば、まくし立てるように言うアシュトン。
そんな彼をポカン、と見つめるだけの私に段々とその声は尻すぼみになっていく。
「…いいん、ですか…?」
「え?」
「私、本当に何も出来ないんです…
戦い方も分からないですし…魔物も、どんなだか分からなくて…
私なんかと、旅をしたら…きっとアシュトンの足手まといに、なってしまう…
そ、それでも…」
いいの?
まだ一緒にいても、いいよって…言ってくれるの?
私が俯いて泣くのを我聞していると、アシュトンはぎこちなく、優しく頭を撫でてくれて…
「…うん、君の記憶が戻るまで…一緒に旅をしよう。」
「っ…はい、よろしく…お願いします!」
「えへへ…うん。よろしくね。
…えーと……うーん…やっぱり君の名前無いと不便だなぁ…。」
「ですよね……あの…じゃあ、アシュトンが付けてください。私の名前。」
「え!?僕が!!??
お、女の子に名前付けるなんて…いいのかなぁ…」
暫くはウンウン唸りながら周りをウロウロしていたアシュトンは、ピタリと立ち止まって私に向き直った。
「…シオン、なんてどうかな…?」
「シオン…」
体の真ん中に落ちてきたような
カチリ、と何かはめ込まれたような…
不思議な感覚。
ジワジワと喜びが込み上げて来るのが分かる。
嬉しい…私の名前…
他の誰でもない…貴方に貰った、私の…
「ありがとう!アシュトン!」
嬉しくて嬉しくて…いろんな人に自慢して回りたいくらいだ
どうしよう…どうしようもなく、顔が緩んでしまうのが分かる。
自分の事に精一杯だった私は、不意に背を向けて空になったアイスの器を手に「片付けてくるね」と小さな声で歩いていった彼に気付かなかった。
その顔が耳まで赤くなっていた事にも。
(かわ、っ!
…いや、…お、落ち着け僕…!
これから先彼女と一緒に旅をするんだから…
情けない顔なんて…見せられない…!!)