希う終焉を捧ぐ





…――。




「…此処まで着いてきて貰っておいて何だが…

お香、仕事とか大丈夫なのか?」


転生し、此所に来る度に目にしていた。

亡者を裁く閻魔大王…
その補佐官である鬼灯…

獄卒達がどれだけ忙しなく動き回り、仕事をこなしていたかを。

なので獄卒であるお香も実は忙しい中時間を割いて自分に付き合わせてしまっているのではないか…

そう勘ぐってしまうのは仕方のない事だろう。


「ふふ…。
そんなに気にしなくても大丈夫よぉ。
本当に大変になったらちゃんと持ち場に戻るから。


…だから、もう少しだけ…
貴方と一緒に居させてちょうだい?」


久し振りに逢えたんだから。


そう言ってふんわりと微笑むお香。

その笑顔はとても綺麗で…
正直、直視できない。


そうか…なんて素っ気なく返しても…
視線を逸らしても…


自分がこうして照れている事も彼女には全部見透されてるような気さえする。



「あら、千尋…その髪飾り…」


ふと、お香の視線が頭につけている飾りに止まった。


「ん?あぁ…これか…
ばぁちゃんの手作りなんだ。」

「そうなの…素敵ね」


でも、ちぃちゃんも似たようなのを着けていたような…

気のせい、だったかしら…




隣で首をかしげているお香に気付かず、閻魔殿のドアを開けて中に入る。


「おー。懐かしい…
やっぱ全然変わってないんだな…」


「ふふ…そうね…
千尋からしてみれば懐かしく感じるのかもしれないわねぇ~…

でも…貴方が言うように、地獄も建物もそう変わりはしないわ。

だけど…貴方はとても変わったわね…」



お香のその一言に俺は歩いていた足を止め、彼女の方に顔を向ける。

スルリと伸びてきた手が頬に触れ、優しく撫でて…。


「こんなに、大きく逞しく成長して戻ってくるなんて…
思ってもみなかったわぁ…」

「お香…」


嬉しそうに言うお香に声を掛けようとしたその時…


「あれ?お香ちゃん?」

「「!」」


聞き覚えのある声が聞こえ、二人揃ってビクリと身体が跳ねる。


「あ、あら…閻魔大王…」

「さっきやっと仕事が一段落したからちょっと休憩しようとおもってさ~…

ん?そっちの子は…亡者?
でもワシ聞いてないけど…

それに死装束じゃないんだね?」

「ふふっ…大王、彼は千尋ですよ。」

「え…えぇー!?
千尋くん!?本当に!!?

へぇ~…そっかそっかぁ~…。
大きくなったねぇ~!

ワシの知ってる千尋くんなんて、こんなに小さかったからなぁ~。」


そう言って右手の親指と人差し指で摘まむような動作をしてみせる。

「俺は米粒か。」


まぁ、閻魔大王は無駄に図体がデカイから感覚的に俺はそんなんだったんだろうけど。


「なんなら裁判受けていく?
あ、でも今鬼灯くん居ないんだった…。」


「え?アイツ閻魔殿に居ないの?
珍しいな…」


大王の言い方からして見回りと言う訳でも無さそうだ。


「今、ちょっと人を案内してるんだよ。

夕方くらいには戻ってくると思うから…
悪いんだけどちょっと時間潰しててくれる?」


「えー…どうするかな…」


鬼灯本人が居ないのなら大王が言うように戻るまで時間を潰さなければならない。

だが、そう言われると何をして過ごせばいいのか分からなくなる。

「…ねぇ千尋?
もし嫌でなければ集合地獄で仕事の手伝いをしてくれないかしら?
簡単な書類整理とお洗濯なのだけれど…。」


腕を組んで考えていると、お香がそんな提案をしてくれた。


「あぁ俺でよければ手伝うが…
書類整理なんて…俺みたいな只の亡者に任せてもいいのか?」


「あら。千尋は地獄では結構有名なのよ?」

「そうだねぇ~。
今までの千尋くんは小さかったし…
大抵は賽の河原付近に居たから知らないだろうけど…
皆からすごく評判良かったんだよ?

君、ちょこちょこ閻魔殿や集合地獄に顔を出しては掃除やら荷物運びやらしてたでしょ。

草むしりとか洗濯とかの雑用も押し付けられたりしてたのに、嫌な顔ひとつしないし小言も言わなかったんだって?

その度に皆感心して、千尋くんの噂が広まっていったみたいだよ。」

「…マジでか…ι
あー…そういや、一時期鬼灯とか獄卒達がワザワザ河原まで俺を呼びに来てたな…。
その時は子供に手伝いを頼むほど人手が足りないのかと思ってたが…。」


「うふふ。千尋は皆の人気者なのよぉ?」

クスクスと笑いながら言うお香。

…まぁ、頼りにされて悪い気はしないが…


「んじゃ、大王ちょっと手伝い行ってくるな。
あ、鬼灯が戻ったら一応俺の事伝えておいてくれ。」

「うん。がんばってね。」




………―。



「あれ、お香さんだ~。」

「…隣の奴誰だ…?
亡者って感じじゃないし…
獄卒にも見えないし…

Σハッ!ま、まさか…
かかかか、彼氏っ…!!?」

「そんなに気になるなら聞いてみればいいじゃん。


お香さーん!!こんにちわー!!
その人彼氏ー!?」

「ばっちょ、おまっ…!!」


「あら、茄子ちゃんに唐瓜ちゃん。
こんにちわ。」

「お、お香さん!
ここここんにちわっ!!」

「ねぇねぇ~お香さん!
その人だれ?付き合ってるの?
恋人?彼氏?」

「そう言えば、初対面だったわねぇ…
彼の名前は千尋。
一応は亡者なのだけれど…彼に関しては色々複雑で…特別扱いなの。」

「ふ~ん…そうなんだ~。」

「えーと…じゃあ獄卒と同じ様な接し方でいいんですか?」

「えぇ。お願いね。
千尋、この二人が唐瓜ちゃんと茄子ちゃん。小鬼の新卒ちゃん達よ。」

「小鬼…って事は、そのサイズでも大人…でいいんだよな?
…よろしく。」

「ど、どうも。」

「よろしく~!」


「仲良くしてあげてね?
じゃあ、行きましょう。千尋」




「くっ…!
身長からして負けてるっ…!」

「…ねぇねぇ唐瓜ー…
今の人、ちぃちゃんに似てたね~。
お兄さんとかだったりして!」


「は?千歳さん?
似てたかぁ?

あ!千歳さんと言えば…
俺、荷物拾ったんだった!

後で届けておかないとな…。」




直ぐにその場を離れた俺は、二人がそんな会話をしていた事に気付かなかった。

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