【解放者-act.2-堕天使の翼-】
つい今しがた悟飯が被った精神的打撃と不信感に弟が苦悩していた間、何も知らない悟飯は父の腕の中で何度もエクスタシーに達していたのだ、とても平静な精神状態では聞けなかった。
「・・・責めてるわけじゃないから、そんな顔しないで・・・。わかってるよ、兄ちゃんがお父さんに逆らえなかったことくらい」
弟が慰めるように話しても、悟飯は情けないほど歪めた顔をもとに戻すことはできなかった。
叶うことなら両耳を塞ぎたい衝動を辛うじてこらえながら、涙が溢れないように両眼を閉じて、唇を噛み締めるのがやっとだった。
「お父さんだって、純粋なサイヤ人なんだから、地球人の概念の枠を超えちゃうことがあっても仕方がないのかも知れないって、今ならそう思えるんだ・・・。遺伝子構造が、地球人とは違うからね」
かなり端折ってはあるが、弟の考えは概ね正しかった。
外見は地球人と酷似していても、遺伝子構造が違うからには、サイヤ人が地球人とはあらゆる面で異なっているのは当然だった。
どころか、比較対象を地球人に限定せずとも、『宇宙一の戦闘民族』との呼び名も高いサイヤ人が、広大な宇宙に存在する数多の種族の中でもかなり異質的な民族であるのは想像に難しくない。
宇宙広しと云えども、サイヤ人特有の性質を理解できるのは、やはりサイヤ人の血を引いた者だけだろう。
皮肉な顛末だった。
同じサイヤ人の血を引く弟にだからこそサイヤ人の特異性を許容して貰える反面、悟飯は、地球人の倫理観を盾に弟を拒絶する正当な理由を失ってしまったのだ。
それに、弟の理解が得られたところで、己が傷つけ続けた弟への罪悪感が1グラムでも減るものでもない。
「だから、お父さんのことも、何があったか知らないけど、セルゲームもことも、兄ちゃんがひとりで背負い込んで苦しむ必要なんてないんだ。・・・俺が、半分背負うから・・・。兄ちゃんの痛みも苦しみも、俺が半分背負ってあげるから・・・」
懇懇と説いた弟の言葉に、悟飯は信じられないことを聞いたような面持ちで両眼を見開くと、まじまじと弟の顔を見詰め返した。
つい先ほどまであどけなく思っていた弟の顔つきが、この時は何故か精悍で頼もしい青年の面差しに感じられ、悟飯は刹那的に、弟の逞しい胸に身も心も投げ出してしまいたい心境に陥った。
「俺だったら、お父さんみたいに兄ちゃんを捨てたりなんかしない。ずっと兄ちゃんの傍にいる。俺の命よりも、兄ちゃんを大事にするから・・・。だから俺に、兄ちゃんを支えられる男になるチャンスを頂戴」
眼差しで本気の度合いを測れるならば、弟のそれはかなりのものだった。
心に弟の言葉のワンフレーズが鋭く突き刺さった悟飯は、真剣そのものの弟の瞳を下から凝視したままでなんの反応も示せずにいた。
父に捨てられた事実が受け入れられないが故に、父の失踪の原因は自分にあると己を責め続けることで現実から目を背けていたのだと、唐突に悟ったからだった。
父と過ごした10年の歳月は決して短くない。
父に飽きられるのは十分な長さではないか。
単純に、飽きられたから捨てられた。
ただそれだけのこと、世間では珍しくもないことだ。
珍しくもないことだが、悟飯はこの答えにたどり着きたくなくて、己の言動次第では父が傍にいてくれた可能性に縋って心身を削っていたのだった。
それに気づいた刹那、自分を捨てた父に対していつまでも貞操観念を持ち続ける自身が、ひどく哀れで愚かな人間に思えてやり切れなくなった。
こんな兄の為に、弟にリスクの高い人生を送らせるわけにはいかないだろう。
たとえ、どれほど真剣に弟が悟飯を愛してくれようとも。
「・・・僕の為に、未来を捨てるような真似をするな・・・。僕なんか放って・・・お前はちゃんと女の子と恋愛して、幸せになれ・・・」
「・・・好きなひとに尽くすのが、未来を捨てることになるの・・・?そんなのヘンだよ。俺は未来を捨てるどころか、チャンスを拾おうとしてるのに・・・?」
弟の問いかけに、悟飯はくしゃりと顔を歪ませると、噛み締めた唇を震わせた。
涙にぼやけた視界に映る弟の瞳から、掴まれた手首から、合わせた体から弟の純粋な想いが悟飯の心に流れ込んできて、長年の父への想いを別方向へと押し流そうとしていた。
お父さんのことは、もう諦めよう―
悟飯は初めてそう思った。
「俺の幸せは、こうして兄ちゃんに触れられることだよ・・・。だから、俺の心配なんかしなくたっていい。・・・兄ちゃんの為なら、なんだってする。・・・だから・・・」
―俺を受け入れて欲しい―
そう言葉にする代わりに、再び弟は悟飯に接吻けた。
二度目のキスは、一度目よりも優しくて穏やかだった。
弟の舌が悟飯の苦しみを掬うように丁寧に悟飯の舌をなぞっている間、悟飯はただ無感動に成されるままに任せていた。
時折頭の片隅が小さく弾けて反射的に瞳を瞑ったが、それ以外は、悟飯は痴呆にでもなったように呆然と天井を眺めているだけだった。
もはや弟を拒絶する理由も、弟に抗う力も悟飯には残されていなかった。
このまま流されてしまえば楽になれる。
疲弊した心が小さくぽつりと呟いた時だった。
躰をたどる手つきの拙さに、これが弟の初体験だと悟った悟飯は、再びなけなしの力を振り絞った。
だが、どれだけ躰を捩っても、何度弟の戒めから逃れようともがいても、それらは岩のような固い決意をもって存在する弟を動かすのに微塵の効果ももたらさなかった。
この時の悟飯は自身の貞操の危機よりも、弟の人生を己が穢し、壊すことを恐れていた。
弟はそんな悟飯の心理にはお構いなしに悟飯の首筋を舐め、悟飯の胸板に舌を這わせ、拘束していない方の悟飯の脚の内側をズボンの上から撫で回した。
「うっ・・・!・・・くっ・・・ふ・・・っ!」
明らかに経験が不足している愛撫であるにも関わらず、数ヶ月ぶりの同性からの支配に、悟飯の躰は敏感に反応した。
これ以上さきに進むのを止めたい心とは裏腹に、悟飯の躰は、同性から求められる喜びにかつてないほど猛り狂っていた。
その昂ぶりをズボンの上から手のひらで包み込むようにして扱かれ、下着の中が湿ってゆくのを感じながら、悟飯は無意識に腰を浮かせて喘いだ。
その喘ぎが弟の口内に吸い込まれた時だった。
弟の手がズボンのベルトに掛かり、悟飯は驚きに両眼を見開くと、自身の行動が弟の動作を止めるのにどれほどの効果があるのかどうかを考える間もなく、ベルトを操る弟の手を必死に掴んだ。
「ぅんっ・・・!ううっ!」
弟に舌を絡め取られ、抗議の声を封じ込められた状態で、この期に及んでもまだ父への貞操観念を捨て切られない己の愚かさを嘲りつつも、まさかそこまで踏み込んでくるつもりなのかとの焦りに、この時の悟飯は突き動かされていた。
弟は悟飯の抵抗をものともせずに器用に片手でベルトを緩めると、腹回りの肉が落ちて緩んだズボンの中に手を忍ばせて、直に悟飯の昂りに指を這わせてきた。
先走りのヌルつきを利用して親指の腹で亀頭部を撫でられた悟飯が躰を竦めるのと同時に短い呻き声を上げると、弟はさらにくびれた部分を指先で擦り始め、狭いズボンの中で可能な限りの愛撫を施した。
「すごい・・・。どんどん溢れてくる・・・」
敏感部を刺激されて漏れる体液に弟が熱っぽく呻き、興奮に掠れたその声に男性的なセクシャリティを感じて、悟飯は背筋をぞくりと震わせた。
頭では血を分けた弟とわかっていながら、悟飯の躰はこの時すでに弟を男として意識し始めていた。
「兄ちゃんって、濡れやすいんだね。俺の手がぬるぬるだよ」
どこか愉しむような口ぶりで弟が話し、悟飯は弟との初めての性的な会話への羞恥に唇を噛み締めて顔を背けた。
弟と同じ台詞を吐いた父を思い出しながら。
「・・・責めてるわけじゃないから、そんな顔しないで・・・。わかってるよ、兄ちゃんがお父さんに逆らえなかったことくらい」
弟が慰めるように話しても、悟飯は情けないほど歪めた顔をもとに戻すことはできなかった。
叶うことなら両耳を塞ぎたい衝動を辛うじてこらえながら、涙が溢れないように両眼を閉じて、唇を噛み締めるのがやっとだった。
「お父さんだって、純粋なサイヤ人なんだから、地球人の概念の枠を超えちゃうことがあっても仕方がないのかも知れないって、今ならそう思えるんだ・・・。遺伝子構造が、地球人とは違うからね」
かなり端折ってはあるが、弟の考えは概ね正しかった。
外見は地球人と酷似していても、遺伝子構造が違うからには、サイヤ人が地球人とはあらゆる面で異なっているのは当然だった。
どころか、比較対象を地球人に限定せずとも、『宇宙一の戦闘民族』との呼び名も高いサイヤ人が、広大な宇宙に存在する数多の種族の中でもかなり異質的な民族であるのは想像に難しくない。
宇宙広しと云えども、サイヤ人特有の性質を理解できるのは、やはりサイヤ人の血を引いた者だけだろう。
皮肉な顛末だった。
同じサイヤ人の血を引く弟にだからこそサイヤ人の特異性を許容して貰える反面、悟飯は、地球人の倫理観を盾に弟を拒絶する正当な理由を失ってしまったのだ。
それに、弟の理解が得られたところで、己が傷つけ続けた弟への罪悪感が1グラムでも減るものでもない。
「だから、お父さんのことも、何があったか知らないけど、セルゲームもことも、兄ちゃんがひとりで背負い込んで苦しむ必要なんてないんだ。・・・俺が、半分背負うから・・・。兄ちゃんの痛みも苦しみも、俺が半分背負ってあげるから・・・」
懇懇と説いた弟の言葉に、悟飯は信じられないことを聞いたような面持ちで両眼を見開くと、まじまじと弟の顔を見詰め返した。
つい先ほどまであどけなく思っていた弟の顔つきが、この時は何故か精悍で頼もしい青年の面差しに感じられ、悟飯は刹那的に、弟の逞しい胸に身も心も投げ出してしまいたい心境に陥った。
「俺だったら、お父さんみたいに兄ちゃんを捨てたりなんかしない。ずっと兄ちゃんの傍にいる。俺の命よりも、兄ちゃんを大事にするから・・・。だから俺に、兄ちゃんを支えられる男になるチャンスを頂戴」
眼差しで本気の度合いを測れるならば、弟のそれはかなりのものだった。
心に弟の言葉のワンフレーズが鋭く突き刺さった悟飯は、真剣そのものの弟の瞳を下から凝視したままでなんの反応も示せずにいた。
父に捨てられた事実が受け入れられないが故に、父の失踪の原因は自分にあると己を責め続けることで現実から目を背けていたのだと、唐突に悟ったからだった。
父と過ごした10年の歳月は決して短くない。
父に飽きられるのは十分な長さではないか。
単純に、飽きられたから捨てられた。
ただそれだけのこと、世間では珍しくもないことだ。
珍しくもないことだが、悟飯はこの答えにたどり着きたくなくて、己の言動次第では父が傍にいてくれた可能性に縋って心身を削っていたのだった。
それに気づいた刹那、自分を捨てた父に対していつまでも貞操観念を持ち続ける自身が、ひどく哀れで愚かな人間に思えてやり切れなくなった。
こんな兄の為に、弟にリスクの高い人生を送らせるわけにはいかないだろう。
たとえ、どれほど真剣に弟が悟飯を愛してくれようとも。
「・・・僕の為に、未来を捨てるような真似をするな・・・。僕なんか放って・・・お前はちゃんと女の子と恋愛して、幸せになれ・・・」
「・・・好きなひとに尽くすのが、未来を捨てることになるの・・・?そんなのヘンだよ。俺は未来を捨てるどころか、チャンスを拾おうとしてるのに・・・?」
弟の問いかけに、悟飯はくしゃりと顔を歪ませると、噛み締めた唇を震わせた。
涙にぼやけた視界に映る弟の瞳から、掴まれた手首から、合わせた体から弟の純粋な想いが悟飯の心に流れ込んできて、長年の父への想いを別方向へと押し流そうとしていた。
お父さんのことは、もう諦めよう―
悟飯は初めてそう思った。
「俺の幸せは、こうして兄ちゃんに触れられることだよ・・・。だから、俺の心配なんかしなくたっていい。・・・兄ちゃんの為なら、なんだってする。・・・だから・・・」
―俺を受け入れて欲しい―
そう言葉にする代わりに、再び弟は悟飯に接吻けた。
二度目のキスは、一度目よりも優しくて穏やかだった。
弟の舌が悟飯の苦しみを掬うように丁寧に悟飯の舌をなぞっている間、悟飯はただ無感動に成されるままに任せていた。
時折頭の片隅が小さく弾けて反射的に瞳を瞑ったが、それ以外は、悟飯は痴呆にでもなったように呆然と天井を眺めているだけだった。
もはや弟を拒絶する理由も、弟に抗う力も悟飯には残されていなかった。
このまま流されてしまえば楽になれる。
疲弊した心が小さくぽつりと呟いた時だった。
躰をたどる手つきの拙さに、これが弟の初体験だと悟った悟飯は、再びなけなしの力を振り絞った。
だが、どれだけ躰を捩っても、何度弟の戒めから逃れようともがいても、それらは岩のような固い決意をもって存在する弟を動かすのに微塵の効果ももたらさなかった。
この時の悟飯は自身の貞操の危機よりも、弟の人生を己が穢し、壊すことを恐れていた。
弟はそんな悟飯の心理にはお構いなしに悟飯の首筋を舐め、悟飯の胸板に舌を這わせ、拘束していない方の悟飯の脚の内側をズボンの上から撫で回した。
「うっ・・・!・・・くっ・・・ふ・・・っ!」
明らかに経験が不足している愛撫であるにも関わらず、数ヶ月ぶりの同性からの支配に、悟飯の躰は敏感に反応した。
これ以上さきに進むのを止めたい心とは裏腹に、悟飯の躰は、同性から求められる喜びにかつてないほど猛り狂っていた。
その昂ぶりをズボンの上から手のひらで包み込むようにして扱かれ、下着の中が湿ってゆくのを感じながら、悟飯は無意識に腰を浮かせて喘いだ。
その喘ぎが弟の口内に吸い込まれた時だった。
弟の手がズボンのベルトに掛かり、悟飯は驚きに両眼を見開くと、自身の行動が弟の動作を止めるのにどれほどの効果があるのかどうかを考える間もなく、ベルトを操る弟の手を必死に掴んだ。
「ぅんっ・・・!ううっ!」
弟に舌を絡め取られ、抗議の声を封じ込められた状態で、この期に及んでもまだ父への貞操観念を捨て切られない己の愚かさを嘲りつつも、まさかそこまで踏み込んでくるつもりなのかとの焦りに、この時の悟飯は突き動かされていた。
弟は悟飯の抵抗をものともせずに器用に片手でベルトを緩めると、腹回りの肉が落ちて緩んだズボンの中に手を忍ばせて、直に悟飯の昂りに指を這わせてきた。
先走りのヌルつきを利用して親指の腹で亀頭部を撫でられた悟飯が躰を竦めるのと同時に短い呻き声を上げると、弟はさらにくびれた部分を指先で擦り始め、狭いズボンの中で可能な限りの愛撫を施した。
「すごい・・・。どんどん溢れてくる・・・」
敏感部を刺激されて漏れる体液に弟が熱っぽく呻き、興奮に掠れたその声に男性的なセクシャリティを感じて、悟飯は背筋をぞくりと震わせた。
頭では血を分けた弟とわかっていながら、悟飯の躰はこの時すでに弟を男として意識し始めていた。
「兄ちゃんって、濡れやすいんだね。俺の手がぬるぬるだよ」
どこか愉しむような口ぶりで弟が話し、悟飯は弟との初めての性的な会話への羞恥に唇を噛み締めて顔を背けた。
弟と同じ台詞を吐いた父を思い出しながら。