【解放者―act.1悟天の邂逅-】

円を描くように腰を回しては己の前立腺を悟天の分身に擦り付け、腰を上下動させては悟天のペニスを自身の性感帯の最たる箇所に突き刺した。
悟天の『雄』を貪り、快感に酔い痴れる兄を下から眺めるのは最高だった。
何度見てもいい。
飽きることがない。
兄の好きにさせるだけで、こんなに快感に蕩けた兄のイヤらしい顔を眺められるのに、一遍もそれを試そうとしなかった父は馬鹿な男だとしか思えない。
まったく、間抜けもいいところだ。
10年も兄を弄んでおきながら、兄の上に君臨することしか頭になかったから、一番いい場面を見損ねたのだ。
転じて悟天は、父も知らない兄の姿を知っている。
その事実は、悟天のある種の自尊心をくすぐるには十分過ぎる材料となっていた。

「ん・ん・んっ・・・!」

悟天が両手を伸ばして下から兄の胸の突起を摘むと、兄は躰を竦ませて甘い声を漏らした。
筋が張った兄の両脚の内腿に力が入って悟天の腰を両側からぎりぎりと締め付けたが、見かけより何倍も頑健な体躯を持つ悟天には些かもダメージにならなかった。
今の悟天にとって深刻な問題は、怪しく動く兄の細腰と、事ある毎に悟天のペニスの根元を締め付ける兄の秘部によって悟天の欲望が限界を迎えつつあることだった。
意図なく収縮してしまう秘部はどうにもならないが、激しい兄の腰の動きを止める効果的な方法を、悟天はひとつだけ知っていた。
それが、胸の突起への愛撫だった。
指の腹で突起を潰すように擦り、次いで親指と人差し指の爪を立てて弄ってやると、兄は半泣きになりながら髪を振り乱して艶やかな喘ぎ声を上げた。
兄が腰を竦ませるのに合わせてペニスがびくびくと震え、卑猥に開閉を繰り返す鈴口からは次から次へと透明な体液が吐き出された。
その体液が兄のペニスを伝って陰毛を濡らし、さらに下へと滴って悟天の腹まで汚してゆく。
兄の鈴口は、完全には元に戻らなかった。
人体の回復能力が作動して、カテーテルを抜かれた後の兄の鈴口は元の状態に戻る為の修復作業に取り掛かったが、それでも赤く腫れたそこは尿道責めを経験する前よりも明らかな拡がりを見せていた。
その鈴口から溢れる先走りを2本の指で掬うと、悟天は躊躇なく己の口もとへと運んだ。
兄と視線を合わせながらわざと舌を出して指を汚す先走りを舐め取ると、背筋をぞくりと震わせた兄は物欲しそうな眼差しで行為を中断された無念さを訴えてきた。
何とかフィニッシュを遅らせようと孤軍奮闘する悟天の苦労など、露知らず。
経験の浅さと若さ故に抑えと堪えが効かない上に、悟天は兄と愛し合う日に備えて日頃からなるべく禁欲を己に課していた。
その、愛欲に飢えた状態の悟天には、今日のように箍が外れた兄の激しさは最も危険な起爆剤だった。
だが、己を殺して責めに耐え抜いた兄にも、当然相応の見返りが必要だろう。

(しょうがないなぁ・・・)

悟天が今よりももっと年齢と経験を重ねたならば兄が満足するまで己を律することが可能になるかも知れないが、理性よりも感情が先行しやすい若獅子のような今の悟天には、導火線に点った火の廻りを遅らせる手段はなかった。
となれば、後は爆発を待つしかないではないか。

「兄ちゃん、一回イカせて・・・?すぐ回復するから」

これ以上のフィニッシュの引き伸ばしは無理と観念した悟天がそう願い出ると、兄は無言で享楽の火付け役を引き受けて、中断された行為を仕切り直した。
だが今回は、先ほどとは腰の動きが打って変わっている。

「あっ、あっ・・・!・・・兄ちゃん、スゴい・・・。スゴい・・・イイッ!!」

「はぁ・・・、悟天・・・。・・・あっ!あっ!」

己が愉しむ為ではなく、悟天を絶頂に誘うのを目的として腰をグラインドさせる兄に、たちまち悟天は快楽の頂きまで追い立てられた。
兄の肉体の素晴らしさは、感度の良さだけではない。
兄は、インテリチックな容姿と堅い職業のイメージからは想像も出来ないほどのスキルを隠し持っていた。
男を悦ばせ、酔わせる能力を。
ほどなくして双玉がムズムズしてきた悟天は腹筋を使って上半身を起こすと、向かい合わせになった兄の腰を抱いてベッドの上に胡座をかいた。
双玉からせり上がってくる波に任せて下から荒々しく突き上げると、兄の口から漏れる矯正は一層激しさを増していった。
行為の途中から兄の眼の焦点が合わなくなり、自身の力で己の上体を支えるのも難しそうだった。
それでも兄は朦朧とした意識の中で、悟天にしがみつきながら、悟天の動きに合わせて自ら腰を振っていた。
ふたつ分の荒々しい呼吸音に混じって激しく肉を打ち付ける音が響き、ふたりの結合部からは液体を叩くのに似た微かな音が合間に漏れ聞こえてきた。
兄の秘部から漏れた腸液が双玉を含めて悟天の股間の周辺を濡らし、空気に触れて冷えたそれが冷たく感じて悟天が大きくひとつ身震いをすると、その振動が兄の内部に伝わって前立腺を刺激したのか、兄の両脚が小刻みな痙攣を始めた。
この両脚の痙攣といい、お互いに知らないところはないほど知り尽くした仲の筈なのに、実際に体を重ねてみなければ知り得ぬことがあったのを、初めて兄を抱いた際に悟天は知ったのだった。
兄には、セックスの時の癖が幾つかあった。
そして、その癖はいずれも、兄が妻を抱く折には現れないものばかりだった。
兄の癖はどれも、兄がアナルに男性器を埋め込まれて初めて見せるものだったのだ。
両脚が痙攣している最中に強くアナルを引き締めるのも、そのひとつだった。
兄の中に深々と差し込んだペニスの根元を強い力で締め付けられ、我慢の利かない悟天はたちまち爆発寸前まで追い詰められた。
どちらともなく唇が合わさり、互いに互いの舌を舐め合いながら悟天が兄のペニスを上下に扱くと、ほどなくして悟天の手の中で兄のペニスが大きく脈打った。
その瞬間、悟天自身も兄の腸内に、兄への欲望と積もりに積もった恋情の塊を吐き出していた―





記憶の中の兄が達するのと同時に、現実の悟天もまた、二度とは叶わぬ想いを放っていた。
あの後は、どうしたのだった?
確か、兄の腸液と悟天の白濁液で汚れたペニスを兄の舌で綺麗に拭って貰い、口約通りにすぐさま回復すると、後背位と正常位で兄を責め立てた。
あの時は、体勢が正常位に変わる際に、兄はいつものように自身の片膝を胸に抱いて悟天に秘部を見せてくれた。
だが、今は―
今は、愛する兄に指一本触れられない。
悟天が触れることは許されない。
あの夜、父が突然兄のもとに帰って以来、兄はあからさまに悟天を避けるようになっていた。
理由はすぐにわかった。
兄は悟天と切れるように、父から厳しく命じられたのだと。
兄は父の言いつけを忠実に守った。
己が父に棄てられたのではないと判明し、父への貞操観念が復活したらしい。
まったく馬鹿げていた。
愚かだった。
兄も。
悟天も。
父は兄を縛る鎖を緩めただけで、兄を手放してなどいなかったのだ。
そうとは知らずに兄は鎖が緩んだ不安から自分を見失い、悟天は鎖がたわんで出来た隙につけ込んだ。
だが、兄と悟天の裏切り行為を知った以上、兄に固執している父がふたりの関係の継続を許す筈がない。
そして、そんな父に、兄は逆らえない。
極めつけが、悟天に届けられた、父からの挑戦状。
その挑戦状には、金輪際己のものに触れるなと、無言で綴られていた。
もしも悟天が父の意に従わなければ、父は果たし合いも辞さないだろう。
望むところだ。
それで兄を父から奪い返せるものならば。
それで兄の愛が、悟天に戻ってくるのなら。
悟天はこめかみを伝う涙を拭うのではなく、新たな涙が流れないように、手の甲と手首で両眼を押さえた。
それでも溢れる涙は留まるところを知らず、仰向けに寝転がる悟天の両目から川のような筋を作って耳へと流れ込んだ。
父が兄を抱きたければ、そうするがいい。
父が兄を抱くなら、悟天も兄を抱く。
兄を、抱きたい。
これだけ夜毎、禁断症状に苦しめられているのだから、悟天にもその権利はある筈だ。
だけど。
悟天が動けば、兄が傷つく。
兄がまた、父に手酷く抱かれてしまう。
あの挑戦状には、そんな意味合いも篭められていた。
悟天への警告が。
拳でカタがつくなら、それに越したことはない。
悟天が一番恐れているのは、父の怒りが兄に向かうことだった。
何としてもそれだけは回避したかった。
こうして、抑え切れない兄への劣情と、どうにもままならない現況へのジレンマを抱えながら、悟天は兄の躰を思い出しては己で自身を慰める日々が続いていた。










【解放者―act.2】へ―
6/6ページ
スキ