【蜘蛛の糸-満月の夜に-後編-】


「で・・・出るっ・・・!!出ちゃうっ・・・!!」

恥も外聞もなくピッコロ達を振りほどく勢いではしたなく乱れた悟飯がその瞬間に放ったものは、尿でもなければ精液でもなかった。
排尿時に近い音を立てながらも尿ではなく、悟飯がこれまで経験したことのないほどの凄まじい快感でありながらも、精液ではない。
人体のどの成分に該当するのか皆目検討もつかない無色透明で無味無臭の体液が、月明かりにキラキラと反射しながら弧を描いて迸り、正体不明のこの体液を撒き散らす間、悟飯の細い腰は天に向かって大きく跳ね上がり、全身の筋肉は緊張して痙攣を誘い、脳には眼も眩むほどの白い火花が散っていた。
「はぁ・・・っ、ひっ・・・ひぃ・・・」

射精を終えた直後のような荒い鼓動と呼吸の中で、悟飯は新たな涙を流してすすり泣いた。
同情したくなるほどの悲しげな泣き声を聞きながら、無慈悲にもピッコロは、はち切れんばかりに膨張した己自身で潮を吹いたばかりで括約筋の緩んだ悟飯の後孔を割った。

「はあ・・・あっ・・・!あっ、ああっ!!」

潮吹きから間髪入れずに挿入されたピッコロの欲望を、更に躰の最奥に誘うように悟飯は無意識に締め付けた。
直腸を圧するピッコロ自身を柔らかい肉襞が優しく包み込んだが、突然直腸に現れた異物に前立腺を擽られる快感に、悟飯の後孔は反射的に口を閉ざす。
待ちに待った嬉しい瞬間の筈が、数時間にも及ぶ責めと恥辱にまみれた快楽に悟飯の体力も精力もすでに限界を超えていた。
そして、有望な学者の卵としての理知的な枠組みのすべても。

「あっ、あっ、ピッ、コロさ、んっ・・・!ああっ!」

座った姿勢で貫かれながら悟飯は、朦朧とした意識の中で譫言のように愛しい恋人の名を繰り返し、ピッコロにしがみ付いたままなりふり構わず狂ったように腰を振り続けた。
今の今まで己を押さえ付けていたピッコロの分身達が、いつの間にか姿を消しているのにも気付かないほどに無我夢中になって。
自我を捨ててピッコロとの快楽に溺れてゆく悟飯を堪能したピッコロが、主導権を取り戻すべく体勢を入れ替えて悟飯をビニールシートの上に俯せにして組み敷くと、悟飯は少しだけ腰を浮かせてそれに応えた。
その背中に覆い被さろうとしてピッコロは、思い出したようにつと愛しい者の体液に汚れた己の手を月光の下にかざした。
神の宮殿の己の個室の仄暗い闇の中ではなく、ほのかな明るさの下で初めて目の当たりにした悟飯の体液は、まるで蜘蛛の巣のように指と指の間を伝い、満月の光りを浴びて雨上がりの蜘蛛の糸のように銀色の輝きを放っていた。
ピッコロの心を捉えるような艶やかで妖しい光りとぬるついた感触に、戦慄と情欲の昂ぶりがぞくぞくとピッコロの背筋を走り抜ける。
ピッコロがかざした手の向こうでは、垣根に張り巡らされた蜘蛛の巣に哀れな蝶が一匹、捕らえられていた。
先に相手を捉えたのはどちらだったのか、悟飯の後孔を熱情のままに差し貫いてピッコロはひとり、懐かしい過去に思いを馳せた。
言葉で告げた悟飯だったか、それとも行動で示したピッコロだったのか。
師弟でありながらも恋人としての関係が始まって以来、どれほどの月日が経ったのだろうか。
高潔な絆で精神的に結ばれたふたりは、やがて情熱の赴くままに互いを求め合い、愛し合い、交差するその想いは蜘蛛の巣のように複雑に絡み合って二度と離れることは敵わない。
もがき疲れてまさに力尽きようとしているあの蝶のように、力の限りにどれほどもがこうとも、特別な想いで編み込まれた糸からは生涯逃れられない。
これまでにない快感に悟飯が全身を引き攣らせながら泣き喚くのにも構わず、ピッコロは桜を散らす嵐のように激しく悟飯の躰を揺さぶり続けた。

「咲き狂え、悟飯」

そよ吹く風にさえも色彩の淡い花びらを散らすと知りながら、人々を魅了する美しさで咲き誇る、あの桜のように。

「そして、貪り、喰らい尽くせ。―このオレの、魂までも、な・・・」

己の張り巡らせた罠にかかった蝶を捕食せんと、じりじりと目標物との間を詰める、あの蜘蛛のように。

「社会人になったからには遠慮はせん、と言っただろう。これからは今までお前が知らなかった快感を、たっぷりと味あわせてやる。悟飯、オレに溺れろ。オレは、快楽に溺れたお前の躰を思うさま屠ってやる」

ピッコロの腰のグラインドに合わせて無意識に腰を振る悟飯の耳元で、ピッコロは甘く囁いた。
汗に濡れた前髪を額に張り付かせたまま悟飯が弱々しく何度か頷いたが、自我を喪失した筈の悟飯がピッコロの言葉を正確に理解しているのかは判断の難しいところだった。
ピッコロ自身を深々と咥え込みながら、ビニールシートを涙と涎で汚し、ピッコロが想いのありったけを中に放つまで、悟飯はおびただしい量の精液を撒き散らした。
住宅街から外れた肌寒さの残る夜の公園には人影はなく、天空から下界を見下ろす美姫だけが、主役を狂わせたこの劇の唯一の観客だった。
今宵は満月。
歴戦の勇者の息子と人々を恐怖に陥れた大魔王の後継者が、愛する者にその身を捧げる夜―















汗に濡れたYシャツを着たままで帰宅した悟飯が風邪を引いたと、悟飯の父が息子の恋人に苦情を申し立てに天界に現れたのは、翌日のことだった。
その後、ブジーを使ったプレイにピッコロと悟飯がすっかりハマったかどうかは、地球の神ですら預かり知れないことだった。






END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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