【背徳の鎖を手繰り寄せし者の名は-後編-】


(甘ぇのはオラの方か)

かつての最強のライバルの言葉を思い出し、悟空は自嘲気味に片頬を歪めた。

『貴様の甘さには反吐が出るぜ』

世界で二人きりの同胞に何度もなじられた言葉。
命からがらで生き延びてきたベジータとは生き方が違うからと、特に気に止めていなかったが、今回ばかりは自分の考えの甘さを嫌と云うほど痛感させられた。

『すみません、お父さん』

逢うと必ず悟飯は謝罪の言葉を口にした。
忙しい悟飯の為を思えば逢えないことなど苦痛ではなかったが、それを申し訳なく思う悟飯に心苦しさを感じていた。
こうして逢えるだけで良いから気にするなと、その都度落ち込む悟飯を励ましたが、それが悟空の優しさからくる気遣いだと解釈していた悟飯には、息子に負担をかけたくないと思う悟空の心は届いていなかった。
悟空があれほど可愛がっている孫娘のパンの夜泣きに駆り出された時でさえ、悟飯は詫びてきた。
父親としての仕事を立派に成し遂げた後だと云うのに、戻ってきた悟飯の酷い顔は今でも忘れられない。
これがもしも・・・逢えない原因が悟飯の側にないのだとすれば、お互い何の負い目もなく逢えるのではないか、そんな考えすら浮かんできた。
逢えない原因が悟空にあるならば、悟飯の罪悪感を軽くしてあげられるかも知れない、と。
旅立つ前に話し合っても良かったのかも知れないが、昔から人に気を遣っても、遣わせることを好まない悟飯のことだから、きっと自分のせいだと悩んでしまうだろう。
だから、何も告げずに旅立った。
もっとも、悟飯から離れた一番大きな理由は修行熱が昂じた結果であり、そこのところを攻められたら一言も返せない。
かといって自分が持つ家庭をどうでもよい、などと思っていたわけではない。
悟空にとっての修行は一般的な男性にとっての仕事のようなものであり、例えるならば働き盛りの壮年の男が仕事と家庭とどちらが大事かと問われて返答に窮するような、そんな心境に似ていたかも知れなかった。
何よりも、ウーブの存在に戦闘好きのサイヤ人の血が騒いで仕方がなかった。
そんな父親の性分を、誰よりも一番苦楽を共にした悟飯は理解してくれている筈だった。
理解して、待っていてくれていると信じていた。
信じていたからこそ、裏切られたのだと云う思いが強い。

「くっ・・・ふっ・・・!う、んっ!」

悟飯は父の無言の命令に従い、今にも泣き出しそうな顔で自分自身に手を添えて慰めている。
悟空は、先端から溢れ始めた透明な体液に濡れつつあるそれを悟飯の手の上から握り締めると、悟飯の手の骨が砕けるかと思われるほどの強さで、あらぬ方向へ力を篭めた。

「ああっ!!うああああっ!!あああっ!」

折れるほどの勢いで握り締められたそこは、悟空が手を緩めても鼓動と共にズキズキと痛み、悟飯は涙を浮かべて肩で荒い呼吸を繰り返す。

「痛ぇか、悟飯。痛ぇよなぁ・・・。だけど、オラの心臓はもっと痛かったんだッ!!!」

その言葉に、悟飯の動きが止まった。
ただ、涙に濡れた瞳だけが、悲しみを湛えて揺れている。
自分が父を苦しめることがあるなどと、悟飯には思いもよらないことだった。

「手が止まってんぞ」

そう言われて重ねた手の上から強引に扱かれ、自分の手が添えられたままになっているのにも関わらず、直に悟空本人から施されているかのような錯覚に、悟飯の躯がビクンと跳ねる。
悟空が親指の腹で頭の平らな部分を何度も往復して撫でると、透明の液体は喜び勇んで次から次へと溢れ出してくる。
それを指で絡め取ると、竿全体になすり付けるように悟飯の手を握ったまま上下する。
悟飯自身が更に固さを増して今にもはち切れんばかりになると、悟空は悟飯の秘部に顔を近付けて、歓喜の涙を流す健気な場所を舌でなぞり始めた。

「はっ!ああっ!!あっっ!!」

懸命に無機質な物体を飲み込む秘部へのぬめついた舌の感触に、悟飯の脚が絶頂の前触れを報せてガクガクと大きく痙攣を始める。
それを見計らい、分厚いカーペットのおかげで何とか一命をとりとめてデスクの近くまで転がった空のコーヒーカップを素早く掴むと、悟空は悟飯の性器へと宛てがった。
どくり、どくり、と悟飯のものが熱く脈打つ度に白濁液がコーヒーカップに溜まり、そのあまりの生々しさと、愛用の陶器どころか思い出までも自分自身が吐き出す欲望が穢していく嫌悪感から、悟飯は固く目を瞠って顔を背けた。
精を出し尽くして荒く呼吸を続ける耳元で低く“飲め”と命令され、悟飯の優秀な脳がすべての時間を止めた。

「これを、おめぇが、全部飲むんだ」

ゆっくりと吐き出された言葉の意味を理解した途端に震え出した自分の体を宥め、今にも溢れそうになる涙を湛えながらコーヒーカップを受け取り、躊躇いがちに口元へと運ぶ。
父のものを飲まされた経験は何度かある。
だが、自分のものは初めてだった。
ヌルヌルとした液体が喉の奥に絡み付く不快感と嫌悪感は何いつも以上で、二口目には白濁液のヌルつきが胃液を刺激して猛烈な吐き気に襲われた。

「ぐっ・・・!・・・うぇ・・・うっ・・・うぐっ・・・」

込み上げてくる嘔吐感を口元を押さえてどうにかやり過ごし、嘔吐感が去ると再びカップの中のものを口に含んだ。
その悲痛な表情を見守る悟空の口の中に、青臭いがどこか甘味を帯びた、決して嫌いではない息子の味が蘇る。
こんな、同情も禁じ得ない状況の息子にさえ、悟空の情欲はつき動かされて仕方がない。

(こいつはガキの頃からそうだ)

痛みつけられるほどに、人の心の奥底に潜む、呼び覚ましてはいけないものを揺り起こす。

「まだ残ってんぞ。全部舌で舐め取るんだ」

時間をかけてようやく飲み干せたように見えたが、まだカップの側面にへばり付いたままの白濁液を指で示して、悟空は容赦なく抵抗の出来ない息子に命令を下す。
それにも悟飯は従った。
苦し気に眉根を寄せ、舌を出して自分のものを懸命に舐め取り続ける。
傷ついた瞳が更に淫猥さを助長させるその姿に抑えきれない情欲を感じ、堪らず悟空は悟飯をカーペットに押し倒した。
深く口付けると悟飯の舌に僅かに残る白濁液を自分の舌で奪い、強く吸い上げた悟飯の唾液と共に飲み込んだ。
片方の手で悟飯の内腿や脇腹を撫で上げながら、耳裏から首筋、首筋から鎖骨へと白い肌を辿る唇が胸に到達した時、そこに悟天の残した跡を見つけ、悟空の動きが止まった。
仕事と家庭を持つ悟飯を慮って目立つ場所には極力付けられていないが、ピンポイントに悟飯の弱点をついたそれが、二人の間の秘め事が、一度や二度の数少ないものではないことを物語っている。

「・・・ッショオッ・・・!!・・・チクショオオオッ!!!」

不意に込み上げてくる苦々しさは絶叫となって悟空の口から迸り、悟飯の鼓膜をビリビリと揺らした。

「待てなかったんか・・・?」

「・・・お、父さん・・・?」

「前は7年も待ってくれてたじゃねぇか。・・・7年が待てて、2年が待てなかったんか?」

悟飯の肩口に額を押し付けて苦し気に吐き出される言葉を、悟飯は何を言われたのか理解らないといった面持ちで聞いている。
悟飯が5歳の時に父が1年帰らなかったのにはやむを得ない事情があった。
父と子を7年に渡って引き離したのは生死の問題であり、父は帰りたくても帰れない状況にあった。
だが、今回は違う。
今回だけは、父は自分の意思で出て行ったのではないか。
待てと言われたのであれば、自分の寿命が尽きようとも待っていた。
だが悟空は、「たまには帰るから」と言っただけで、肝心なことは何も告げずに失踪した。

「お偉い学者様ってのは、男を取っ替え引っ替え咥え込む仕事なんか、悟飯ッ!!」

「僕は・・・お父さんに棄てられたものだとばかり・・・思っていました」

無形の剣となった悟空の言葉から我が身を守る楯となる悟飯の声は弱々しかったが、これが悟空に思わぬ衝撃を与えた。

「・・・!?・・・何で・・・オラがおめぇを棄てるんだ・・・?」

悟飯の言葉に驚き、いつもの調子に戻った悟空の頭を混乱が支配する。
自分が悟飯を棄てた、などと思われていたとは、予想の範囲外だった。
悟空と悟飯の間には、後から生まれた悟天とは比べものにならないほど強くて固い絆があり、その絆は見えない鎖となって今なお悟飯を縛り付けている筈だった。
その悟飯が、新たな鎖に絡め取られ、手繰り寄せられようとしている。
父親の呪縛から解き放たれたいと悟飯が望むならそれも致し方ないが、その為に選んだ相手が悟天なのが許せなかった。
それでは色こそ違えど、悟飯を縛る鎖の正体は同じではないか。

「おめぇはそんなこと思ってたんか?オラは、何も言わねぇでもおめぇが全部、理解ってくれてるもんだと思ってたぞ」

「ならば、お父さんには、いつもお父さんを待ち続ける僕の気持ちが理解るんですか・・・!」

魂の奥から絞り出されたかのような悟飯の声に、悟空の肩がピクッと反応した。
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