【蜘蛛の巣-満月の夜に―前編】

ただひとつ、自らの眼で見ることの敵わない悟飯にもわかったのは、挿入の際に引っ掛かりを感じなかったことから、おそらくは先の丸い物であろうということだけだった。
だが、そんなささやかな事柄を感知できたとて、それは未来への展望に何ら繋がるものでもない。
棒状の細い金属は狭い尿道を無理矢理押し拡げるほどのものではなかったが、悟飯は周囲の体温を奪いながら奥へ奥へと静かに侵入を果たす冷たくて硬い物質への違和感と異物感に苛まれた。
『動くな』と命じられたのを忘れたかのように強張った悟飯の腰がびくり、びくりと竦み、ピッコロの欲望で封じられた口の中で喘ぎとも悲鳴とも判別のつかない声を上げる。

「んぅ・・・!・・・ぅんっ!・・・んっ!」

悟飯のくぐもった喘ぎ声に呼応するように悟飯の口内でピッコロが欲望を増し、この欲望をすぐにでも開放したいのか、悟飯の主導権を奪ったピッコロは焦れったそうに悟飯の後頭部の髪を強く掴み直した。
しかし、頭皮が引っ張られるほどの強さであってもピッコロの手に握られた悟飯の髪は一筋も抜け落ちはせず、『悟飯の躰を傷付けない』とのピッコロの宣言はどのような場面に於いても最優先に守られるべきものらしかった。

「下界を覗き見している時に面白い物を見つけてな、いつかお前に使ってやろうと思っていた。だが、その頃のお前はまだ学生でな。刺激が強過ぎるといけないからと、お前が一人前になるまで我慢していたのだ。念の為、今回は初心者向けを用意したぞ。痛みはないか、悟飯?」

顔面蒼白となった悟飯の耳に届く躰を気遣う声は、いつものように優しい。
ピッコロの言葉が真実であるのは確かだった。
尿道を通る金属の棒はその細さからして初心者向けなのは間違いなく、悟飯は微塵の痛みとも無縁でいられた。
だが、膀胱を刺激されることによって生じる尿意は、不快極まりない。
その不快感が変化したのは、金属棒が深さ20センチほどに到達した時だった。

「あっ、あっ、あっ、あっ・・・!」

膀胱を取り巻く前立腺を金属棒で突かれ、悟飯はピッコロの欲望を頬張ったまま上擦った声を漏らした。
直腸から膀胱に向かって伸びた前立腺を前後から責められ、下半身を大きく痙攣させた悟飯の瞳が、眩しいものを直視した後のようにチカチカと光視症を起こして霞む。
快感の強さに更に大きく口を拡げた鈴口からは金属棒を呑み込んで尚も蜜が滴り、大量のローターにあらゆる腸壁を震わされた後孔はヒクヒクと卑猥に蠢いた。
その様子を後方から見守っていたピッコロ本人が、穏やかな瞳はそのままで口角に深い笑みを刻んで呟く。

「・・・やはりな」

眼前で繰り広げられる、悟飯が主演の劇が己の思い描いたシナリオ通りに進行してゆくのを見届けたピッコロは分身に合図を送って悟飯の口腔から欲望を取り出させ、代わりに自身が悟飯の脇に片膝をついてその耳に愛を囁くように甘く告げる。

「以前からお前にはマゾヒストの素質があると思っていたが、やはりオレの見込み違いではなかったらしいな」

「なっ・・・!そ、そんな・・・」

よもや師匠でもあり恋人でもあるピッコロがそんな風に思っていたとは見当もつかなかった悟飯は、あまりの衝撃と動揺に、そんな馬鹿馬鹿しいことがあるものかと続ける筈の声を詰まらせた。

「違うと言うのか?ならば、こいつがいつもより固く反り返っているのは、どういうワケだ?反論があるなら、このオレが納得する説明をしてみろ」

ピッコロが指摘したのはもっともで、前後の口に異物を挿入された状態であるにも関わらず、悟飯のペニスは腹に付く勢いで天を睨んでいる。
だが、悟飯にしてみればそれは前立腺への刺激に対するただの反応であり、このような責めを悟飯が喜んでいるとピッコロに捉えられるのは心外だった。
しかし、如何に目の前の現実を悟飯が承服しかねたところで、この日この時、ピッコロの手によって新たな性感帯を開発されたのは紛れもない事実であり、それを『馬鹿馬鹿しい』の一言で片付けるのは愚かしいことだった。
ピッコロの勝手な解釈に意義を唱える余裕のない悟飯が項垂れると、かつてないほど拡がった鈴口からだらしなく漏れた大量の先走りがシートを汚している光景が目に入る。
もはや、悟飯に反論の余地はなかった。
認めたくはないが、おそらくピッコロの見解が正しいのだろう。
それでも、否定の言葉も肯定の声も発せられないまま悟飯は、最後の抵抗を示してか弱々しく頭を振った。
そんな悟飯の心境を嘲笑うのか、ピッコロはビーカーの中で危険な薬品を混ぜるように、ゆっくりと慎重に悟飯の尿道を掻き回し始めた。

「ああっ・・・、あっ、あっ・・・!あぅ・・・っ!」

一番の弱点である前立腺をただ突かれるのではなく尿道越しに擦られると、その感覚は直腸と連動してより深い快感を生み出した。
前後の口を内部から拡げられた感覚に悟飯の下半身は小刻みに震え、下腹部と腰から昇った電気は容赦なく悟飯の背骨を灼いた。
不自然に乱れる呼吸は浅く、時折咽喉の奥から短く掠れた悲鳴が上がる。
尿道に金属棒を差し込まれたままペニスを扱かれ、かつて味わったことがない視界を奪われるほどの快感に、悟飯が頂点に達するまで大して時間はかからなかった。

「はあっ、はぁっ・・・、はぁ・・・っ・・・」

生まれて初めてドライオーガズムを経験した悟飯は、オーガズムの波が去った後も荒い呼吸の合間に何度も躰を大きく痙攣させた。
その震えが治らぬうちから、悟飯に無茶苦茶な口腔愛撫を強要していたピッコロの分身が、ただの人形に魂が吹き込まれたかのように本体の合図もなしに自ら再び唇で悟飯の呼吸を塞ぐ。
全身の虚脱感に襲われながら悟飯もまた、その口付けに応えた。
他のピッコロの存在も忘れて舌を絡め合う行為に没頭する2人の姿に、悟飯と口付けを交わす時に自分はあのような表情をしているのかと、ピッコロは妙な気恥かしさに捉われた。
だが、僅かな照れにほんのり染まったピッコロの頬はやがて、分身と言えども自分以外の者との口付けに夢中になっている悟飯への苛立ちに、目に見えてはっきりと不快な色を表して変わった。
分身との口付けにすっかり陶酔し切った悟飯の顎を掴んで強引に顔を横に逸らさせると、どちらのものとも判別のつかない唾液が名残り惜しげに2人の間に銀糸を引き、ピッコロはいっそのことふたつの舌を引き千切ってやりたい衝動に駆られる。
その衝動の代償として、ピッコロは精液の放出を許されずに固く腫れた悟飯の睾丸をキツく掴むと、痛みを訴える悟飯の耳に優しく囁いた。

「射精したいか、悟飯?いい加減に、ここから思い切りぶちまけたいか?」

恋人を甘やかすいつもと同じピッコロの声音にようやく欲求を叶えなれる希望を見出した悟飯は、苦痛の為に浮かべた涙を懇願の涙へと変え、縋る想いで小さく何度も頷いた。



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