【蜘蛛の巣-満月の夜に―前編】
だが、ピッコロの問いの意図するところは悟飯の返答によって次の行動を決定するのが目的ではなく、悟飯の要求を確認するのが目的のものであった。
このオレが欲しいのだろう、と。
ピッコロの質問の意味を読み取った悟飯は、言葉に出せない己の欲求の気恥ずかしさに頬を染め、伏し目がちにピッコロから視線を逸らした。
俯いたその瞳は、ハラハラと地面へと舞い落ちて行く桜の花びらを追っている。
自身の欲求を桜の花弁ほどにも声には出せず、怯んだ心に悟飯が魔族服を掴んだ手を緩めた時、すかさずピッコロは顎を捉えて上向かせた悟飯の唇にそっと口付けた。
桜の花の色のように淡い口付けは、だが、ほどなくして夕暮れどきの空の色のように次第に濃厚さを増していった。
ちろりと覗かせた舌先で悟飯の上唇をなぞったピッコロは、過敏な悟飯の躰が竦んだ隙に口内へと長い舌を捩じ込み、そのまま愛弟子の口腔の奥をまさぐった。
悟飯の舌の上を滑ったピッコロの舌は、その後長いことぬるぬると悟飯の舌に絡み付いては敏感なポイントを刺激し、時として歯列の裏を撫で、時として天井を這う。
「ん、ん・・・っ!んんーっ!ぅ、んっ・・・!」
口腔内で好き勝手に動くピッコロの舌に脳内に快感がびりっ、びりっと電気となって走り、悟飯が己の口内で堪えきれない悲鳴を上げる。
トドメとばかりに吸われた舌の先を甘噛みされた悟飯が強張った下半身に無意識に腰を引くと、長い口づけにようやく満足したようにピッコロは熱く乱れた吐息を早春の夜の冷気の中に開放した。
蹂躙された唇を紅く濡らした悟飯の肩を掴んで向こうへと押しやり、冷たい微風に自身のマントをそよがせながら、魔法で作ったビニール製のシートをピッコロが闇を切り裂いてはためかせる。
その動作を、悟飯の虚ろな瞳が黙って見守った。
「悟飯、ここへ」
映画の俳優のように様になる姿で片膝を付き、ピッコロは地面に広げたビニールシートの上へと悟飯を促した。
その声に従ってシートを汚すまいと靴を脱いだ悟飯から文字通り上着を剥ぎ取ると、ピッコロは適当な桜の木の枝に掛け、先の口内への愛撫にもはや制御不能となった悟飯の欲望に囁きかけた。
「見せてみろ」
優しく気遣ってくれた筈のピッコロの言葉に驚き、悟飯の眼鏡の奥の瞳が動揺に揺れる。その黒曜石の瞳に浮かんだ、これ以上嬲らないで欲しいと責めからの許しを乞う色を、ピッコロは平然と見つめ返した。
待ち侘びた春の訪れを予感させる日差しの穏やかな昼間と違い、各所に居座る冬の精霊の存在を疑う早春の夜更け、屋外で全裸になどなったらひとたまりもない。
体の丈夫なサイヤ人の血を半分だけ受け継ぐ悟飯が風邪をひく可能性があるのかどうかは未知数だが、少なくとも悟飯の躰は春の入口の夜の気温を寒いと感じていた。
仕方なしに悟飯は、半身を覆うセーターとYシャツはそのままで、細い腰に留まるズボンのベルトに手をかけた。
日常生活に於いては一日に何度も耳にする身の回りの何てことのない音なのに、ガチャガチャと響くベルトの金具が触れ合う音が、この時は羞恥に戸惑う悟飯の耳に厭に大きく卑猥に聞こえた。
季節を逆行して紅葉の葉の色に頬を染めた悟飯が緩めたベルトごとズボンを下ろすと、生理的欲求の波が引いて既に意気消沈した悟飯自身を隠す下着が、口角に笑みを浮かべるピッコロの視線に晒される。
そこに濡れて変色したとひと目でわかる箇所を指で示して、ピッコロは悟飯を問い詰めた。
「パーティーの間、何を考えていた?」
「ピ、ピッコロさんのことを・・・」
「オレのこと・・・?」
わざとらしく聞き返し、ピッコロは尖った爪先で悟飯の分身を辿る。
「わかっているぞ。専門学的知識が詰まったお前の頭は、このオレとのセックスでいっぱいだったのだろう」
「それは・・・!だって、ピッコロさんが・・・!」
「オレが、何だ?」
悟飯の必死さを嘲笑うように尚もしばらくれるピッコロに恨みがましい視線を送りながら、何故ピッコロが悟飯が自身の欲望をコントロール出来るギリギリの境界線を守っていたのか、悟飯はその答えを悟った気がしていた。
「ピッコロさんが、あんなことをするから・・・」
「ではお前は、パーティーの間中、オレとのセックス以外考える余裕がなかったのだな?」
「・・・!」
ピッコロの露骨な表現に返す言葉もなく、悟飯は唇を噛み締めて俯いた。
なんて酷い人だろう、ただでさえピッコロでいっぱいの心を更に独占する為に、こんな悪戯を思いつくなんて。
「返事がない所をみると、どうやら図星のようだな。お前が人の目から隠れてこっそり腰を揺らしていたのを、オレの分身が窓から見ていたぞ。お前は気付かなかったようだがな」
「えっ・・・!?」
悟飯の驚愕に更に追い打ちをかけたピッコロが指で合図すると、愕然と佇む悟飯の両脇にふたりのピッコロが腕組みをした姿で静かに舞い降りる。
小型のローターがウィークポイントを掠める度に思わず腰が引けてしまった恥ずかしい姿をピッコロの分身に目撃されていたのにも気付かなかったが、いつの間にかピッコロが分身していたことすら悟飯は知らなかった。
その分身と本体との違いは何かと三人を交互に見比べると、柔らかい眼差しの2つの瞳と、感情の篭らぬ無表情の4つの眼が悟飯を見つめ返す。
なるほど、本体と分身を見極めるポイントは感情の有無か。
と、追い詰められたこの状況の中で、クリアになった悟飯の頭脳が本来の明晰さを取り戻した。
分身を使って三方から囲まれた以上、いつもの甘えた抵抗は許されないのだろう。
それに、ピッコロの責めからの早い開放を望むなら、ピッコロの言葉を素直に認めた方が良さそうだった。
「ピッコロさんの言う通りです。パーティーの間ずっと、早くピッコロさんに抱かれたいと思っていました」
ふたりの分身には目もくれず、悟飯は見上げたピッコロ本人を真っ直ぐ射抜いて本心を吐露した。
長いこと培われてきたふたりの師弟関係の間には、今更隠すべきものなど何も存在しない。
格闘家にありがちな同性に見栄を張りたい愚かさとは無縁な悟飯は、ピッコロの前ではありのままの自分を晒け出せ、唯一悟飯にだけ気を許せるピッコロは、その悟飯に対して闘いが絡む時こそ厳しい指摘もするが、闘い以外では自由を与えるのが常だった。
それは師弟関係が恋人関係に変化した後も依然として変わらず、ピッコロに逢うも逢わないも悟飯の自由、性交渉に於いても悟飯のペースにピッコロが合わせ、悟飯の気に沿わぬ行為をピッコロが強要したことは一度たりとてない。
社会的に一人前と認められたからにはこれまでのように遠慮はしない、とのピッコロの言葉通り、ピッコロが悟飯に無理を強いるのは今回が初めてであった。
そこには、確固たる師弟の上下関係が存在するものの、恋人としての甘えが許される絶妙な力のバランスがあった。
悟飯が逢いたいと思えば逢いたい場所にピッコロは存在し、悟飯が添い寝をねだればピッコロは悟飯に寄り添い、悟飯が救いを求めればピッコロは手を差し伸べ、悟飯が愛を欲する時にはピッコロは言葉と愛撫でそれに応えてきた。
そして今も、言葉での直球勝負に出た悟飯を、ピッコロは受け止めなければならない。
それがわかっているからこそ、鏡に映った自身の姿を確認するように、悟飯は臆することなくピッコロの瞳の中の自分をじっと見つめ返した。
「いいだろう。言いつけを守れたのだから、約束通り褒美をやる。悟飯、下着を脱いでそこに四つん這いになれ」
やっと望んだ展開が訪れて安堵した悟飯は、再び蘇った己の欲求とピッコロの命令に忠実に従った。
途中、三人のピッコロに見守られる中での脱衣に下着にかけた手が躊躇ったが、相手はどれもピッコロであると自分に言い聞かせると、あるかなしかの勇気を振り絞った。
(ずるいや、ピッコロさん。何も分身なんかしなくたって良いのに・・・)
と、腕組みをしたまま表情のひとつも変えずに悟飯の動作を眺めるピッコロに対して不満とも呼べない小さな反発を感じ、悟飯はピッコロにあてつけるかのように脱いだ下着をその場に放る。
その行動に悟飯がむくれているのを承知していながら、悟飯の許容範囲を心得ているピッコロの口角の笑みは消えることがなかった。
ピッコロの分身もまた、本体に倣って余裕の笑みを顔面に張り付かせている。
このオレが欲しいのだろう、と。
ピッコロの質問の意味を読み取った悟飯は、言葉に出せない己の欲求の気恥ずかしさに頬を染め、伏し目がちにピッコロから視線を逸らした。
俯いたその瞳は、ハラハラと地面へと舞い落ちて行く桜の花びらを追っている。
自身の欲求を桜の花弁ほどにも声には出せず、怯んだ心に悟飯が魔族服を掴んだ手を緩めた時、すかさずピッコロは顎を捉えて上向かせた悟飯の唇にそっと口付けた。
桜の花の色のように淡い口付けは、だが、ほどなくして夕暮れどきの空の色のように次第に濃厚さを増していった。
ちろりと覗かせた舌先で悟飯の上唇をなぞったピッコロは、過敏な悟飯の躰が竦んだ隙に口内へと長い舌を捩じ込み、そのまま愛弟子の口腔の奥をまさぐった。
悟飯の舌の上を滑ったピッコロの舌は、その後長いことぬるぬると悟飯の舌に絡み付いては敏感なポイントを刺激し、時として歯列の裏を撫で、時として天井を這う。
「ん、ん・・・っ!んんーっ!ぅ、んっ・・・!」
口腔内で好き勝手に動くピッコロの舌に脳内に快感がびりっ、びりっと電気となって走り、悟飯が己の口内で堪えきれない悲鳴を上げる。
トドメとばかりに吸われた舌の先を甘噛みされた悟飯が強張った下半身に無意識に腰を引くと、長い口づけにようやく満足したようにピッコロは熱く乱れた吐息を早春の夜の冷気の中に開放した。
蹂躙された唇を紅く濡らした悟飯の肩を掴んで向こうへと押しやり、冷たい微風に自身のマントをそよがせながら、魔法で作ったビニール製のシートをピッコロが闇を切り裂いてはためかせる。
その動作を、悟飯の虚ろな瞳が黙って見守った。
「悟飯、ここへ」
映画の俳優のように様になる姿で片膝を付き、ピッコロは地面に広げたビニールシートの上へと悟飯を促した。
その声に従ってシートを汚すまいと靴を脱いだ悟飯から文字通り上着を剥ぎ取ると、ピッコロは適当な桜の木の枝に掛け、先の口内への愛撫にもはや制御不能となった悟飯の欲望に囁きかけた。
「見せてみろ」
優しく気遣ってくれた筈のピッコロの言葉に驚き、悟飯の眼鏡の奥の瞳が動揺に揺れる。その黒曜石の瞳に浮かんだ、これ以上嬲らないで欲しいと責めからの許しを乞う色を、ピッコロは平然と見つめ返した。
待ち侘びた春の訪れを予感させる日差しの穏やかな昼間と違い、各所に居座る冬の精霊の存在を疑う早春の夜更け、屋外で全裸になどなったらひとたまりもない。
体の丈夫なサイヤ人の血を半分だけ受け継ぐ悟飯が風邪をひく可能性があるのかどうかは未知数だが、少なくとも悟飯の躰は春の入口の夜の気温を寒いと感じていた。
仕方なしに悟飯は、半身を覆うセーターとYシャツはそのままで、細い腰に留まるズボンのベルトに手をかけた。
日常生活に於いては一日に何度も耳にする身の回りの何てことのない音なのに、ガチャガチャと響くベルトの金具が触れ合う音が、この時は羞恥に戸惑う悟飯の耳に厭に大きく卑猥に聞こえた。
季節を逆行して紅葉の葉の色に頬を染めた悟飯が緩めたベルトごとズボンを下ろすと、生理的欲求の波が引いて既に意気消沈した悟飯自身を隠す下着が、口角に笑みを浮かべるピッコロの視線に晒される。
そこに濡れて変色したとひと目でわかる箇所を指で示して、ピッコロは悟飯を問い詰めた。
「パーティーの間、何を考えていた?」
「ピ、ピッコロさんのことを・・・」
「オレのこと・・・?」
わざとらしく聞き返し、ピッコロは尖った爪先で悟飯の分身を辿る。
「わかっているぞ。専門学的知識が詰まったお前の頭は、このオレとのセックスでいっぱいだったのだろう」
「それは・・・!だって、ピッコロさんが・・・!」
「オレが、何だ?」
悟飯の必死さを嘲笑うように尚もしばらくれるピッコロに恨みがましい視線を送りながら、何故ピッコロが悟飯が自身の欲望をコントロール出来るギリギリの境界線を守っていたのか、悟飯はその答えを悟った気がしていた。
「ピッコロさんが、あんなことをするから・・・」
「ではお前は、パーティーの間中、オレとのセックス以外考える余裕がなかったのだな?」
「・・・!」
ピッコロの露骨な表現に返す言葉もなく、悟飯は唇を噛み締めて俯いた。
なんて酷い人だろう、ただでさえピッコロでいっぱいの心を更に独占する為に、こんな悪戯を思いつくなんて。
「返事がない所をみると、どうやら図星のようだな。お前が人の目から隠れてこっそり腰を揺らしていたのを、オレの分身が窓から見ていたぞ。お前は気付かなかったようだがな」
「えっ・・・!?」
悟飯の驚愕に更に追い打ちをかけたピッコロが指で合図すると、愕然と佇む悟飯の両脇にふたりのピッコロが腕組みをした姿で静かに舞い降りる。
小型のローターがウィークポイントを掠める度に思わず腰が引けてしまった恥ずかしい姿をピッコロの分身に目撃されていたのにも気付かなかったが、いつの間にかピッコロが分身していたことすら悟飯は知らなかった。
その分身と本体との違いは何かと三人を交互に見比べると、柔らかい眼差しの2つの瞳と、感情の篭らぬ無表情の4つの眼が悟飯を見つめ返す。
なるほど、本体と分身を見極めるポイントは感情の有無か。
と、追い詰められたこの状況の中で、クリアになった悟飯の頭脳が本来の明晰さを取り戻した。
分身を使って三方から囲まれた以上、いつもの甘えた抵抗は許されないのだろう。
それに、ピッコロの責めからの早い開放を望むなら、ピッコロの言葉を素直に認めた方が良さそうだった。
「ピッコロさんの言う通りです。パーティーの間ずっと、早くピッコロさんに抱かれたいと思っていました」
ふたりの分身には目もくれず、悟飯は見上げたピッコロ本人を真っ直ぐ射抜いて本心を吐露した。
長いこと培われてきたふたりの師弟関係の間には、今更隠すべきものなど何も存在しない。
格闘家にありがちな同性に見栄を張りたい愚かさとは無縁な悟飯は、ピッコロの前ではありのままの自分を晒け出せ、唯一悟飯にだけ気を許せるピッコロは、その悟飯に対して闘いが絡む時こそ厳しい指摘もするが、闘い以外では自由を与えるのが常だった。
それは師弟関係が恋人関係に変化した後も依然として変わらず、ピッコロに逢うも逢わないも悟飯の自由、性交渉に於いても悟飯のペースにピッコロが合わせ、悟飯の気に沿わぬ行為をピッコロが強要したことは一度たりとてない。
社会的に一人前と認められたからにはこれまでのように遠慮はしない、とのピッコロの言葉通り、ピッコロが悟飯に無理を強いるのは今回が初めてであった。
そこには、確固たる師弟の上下関係が存在するものの、恋人としての甘えが許される絶妙な力のバランスがあった。
悟飯が逢いたいと思えば逢いたい場所にピッコロは存在し、悟飯が添い寝をねだればピッコロは悟飯に寄り添い、悟飯が救いを求めればピッコロは手を差し伸べ、悟飯が愛を欲する時にはピッコロは言葉と愛撫でそれに応えてきた。
そして今も、言葉での直球勝負に出た悟飯を、ピッコロは受け止めなければならない。
それがわかっているからこそ、鏡に映った自身の姿を確認するように、悟飯は臆することなくピッコロの瞳の中の自分をじっと見つめ返した。
「いいだろう。言いつけを守れたのだから、約束通り褒美をやる。悟飯、下着を脱いでそこに四つん這いになれ」
やっと望んだ展開が訪れて安堵した悟飯は、再び蘇った己の欲求とピッコロの命令に忠実に従った。
途中、三人のピッコロに見守られる中での脱衣に下着にかけた手が躊躇ったが、相手はどれもピッコロであると自分に言い聞かせると、あるかなしかの勇気を振り絞った。
(ずるいや、ピッコロさん。何も分身なんかしなくたって良いのに・・・)
と、腕組みをしたまま表情のひとつも変えずに悟飯の動作を眺めるピッコロに対して不満とも呼べない小さな反発を感じ、悟飯はピッコロにあてつけるかのように脱いだ下着をその場に放る。
その行動に悟飯がむくれているのを承知していながら、悟飯の許容範囲を心得ているピッコロの口角の笑みは消えることがなかった。
ピッコロの分身もまた、本体に倣って余裕の笑みを顔面に張り付かせている。