【パレット-ふたりの色-】

これは悟飯を傷付けない為の必要に応じた措置だったが、躯の半分に地球人の血が流れ、サイヤ人の凶暴性が意識の底に眠る悟飯には到底理解不可能なことだった。
悟飯を愛するが故の苦しみを理解して貰えないやるせなさが、ことさらに悟空の独占欲を掻き立てる。

「悟飯、舌を出せ」

悟飯を支配して独占欲を満たし、このやるせなさを忘れようと、またしても悟空は悟飯の羞恥心を煽る命令を下す。
その低い声音には、いつもの張りのある明るさは消え失せていた。
悟空は気分が高揚すればするほど頭の片隅が醒め、口調もいつもの朗らかな性格からは考えられないほどの冷淡なものへと変わってゆく。
悟飯との行為の最中に悟空の発する言葉が冷ややかなものなるのは、酷薄そうな口調とは反対に悟空の精神が高揚している証だった。
それを知ってか知らずか、悟飯は悟空の指に舌を絡めたまま何の反応も示そうとはしない。
これは悟空の言葉に悟飯が躊躇した為ではなく、優秀なはずの脳が機能を停止してその煽りを喰らった耳まで聴力を失ったのが原因だったのだが、反応のない悟飯に珍しく焦れた悟空は二本の指で悟飯の舌を掴むとそのまま口の外へと引きずり出した。

「んんんーっ!」

舌を引っ張り出された悟飯がくぐもった声を上げるのにも関わらず、悟空は指で挟んだままの悟飯の舌を己の舌先でちろりと舐める。
途端に悟飯は躰をびくっと竦ませたが、悟空に掴まれた舌を引っ込めようとはしなかった。
悟飯のペニスに愛撫を施すのと同じ動きをする悟空の舌の動きに合わせて、悟飯も無意識に覚えたての舌技を使って悟空の舌を舐める。
そうしてそのまま互いに舌を出し合って互いの舌を舐め合う行為は続き、それは悟空が悟飯の舌から指を離しても変わることはなかった。

「は・・・っ、ふっ・・・!んん・・・っ!」

「はぁ・・・っ、うっ・・・!」

ふたりの唾液が絡み合い、漏れる吐息は互いに熱く、相手の舌が敏感な部分に触れるとどちらともなく切な気な喘ぎ声を漏らす。
二人は夢中で口外でのキスを繰り返し、舌の動きに連動するように意図せず悟空は律動を再開させた。

「あぁ・・・っ!あっ!あぅ・・・っ!」

舌と前立腺を刺激された悟飯が、自分の意思で妖しく腰を使っているかのように何度も腰を痙攣させる。
悟空が口外でのキスから深い口付けへと切り替えると悟飯の口内に悟空の唾液が流れ込み、この唾液が悟飯を一気に高みまで押し上げた。
ふたりの行為の終焉を告げるような悟飯の痙攣に、悟空は急激な射精感に襲われ、慌てて悟飯のペニスを掴むと激しく上下に扱き始めた。

「はっ・・・!ああっ!!」

悟空の手の中でグチュグチュと卑猥な音を立てる悟飯のペニスが膨張して弾ける瞬間、悟飯の腰がガクガクと小刻みに震え、その振動が悟空に致命的な決定打を与えた。

「・・・っ・・・悟飯・・・っ・・・!」

「あぅっ!あっ・・・!ああっ・・・!ああっ!」

手の中で悟飯のペニスが力強く脈打つのに半瞬遅れて悟飯の体内から己のシンボルを引き抜くと、悟空は悟飯の白い腹の上にしこりのようなやるせなさと独占欲の塊をぶちまけた。
切な気に悟飯の名を呼ぶその声には、大きな歓喜と微かな悲しみが尾を引いていた。
絶頂を迎えたふたりは心臓が激しい動悸を起こすほどの嵐が過ぎ去るまで無言のまま肩で荒く息を付き、その呼吸が平常の状態に戻るまでの間、父親の無体な行為に訴えるように悟飯の痙攣は続いた。
悟飯の躰が竦む度に、悟飯の肌の色によく似たふたり分の体液があちこちに白い流れを作る。
粥を零したような白濁液の海は、あろうことか悟飯の喉元近くにまで及んでいた。
言わずもがな、悟空の第一射であった。

「今日は保たなかったなぁ・・・ハハ・・・」

未だ収まらない荒い呼吸の合間に、いつもおどけた口調でどこか可笑しそうに悟空は呟いた。
この台詞が悟飯に聞こえていたのなら、いったいこの男は何を宣っているのだろうかと不審感にきっと眉を顰めたに違いない。
これまで悟空との性交渉を短かいと悟飯が感じたことは一度もなく、今回だとて例外ではなかった。
だが幸運にも自我を自失した悟飯の耳には悟空の声は届いてはおらず、悟空の言葉に対する反発も反感も悟飯の中で産声を上げることはなかった。
代わりに悟空の心中には何か釈然としないものが残っている。
絶頂に向かって己の力で一直線に昇り詰めるのが男のサガならば、『悟飯に昇らされた』感が否めない今回の性交渉が悟空には納得がいかない。
密かにリベンジを誓うテンションの高い悟空とは対照的に、悟空に気力、体力、精力のすべてを搾り取られた悟飯は、ぐったりと放心状態のまま指一本すら動かせずにベッドに躰を横たえている。
山桜の花びらのようにほのかに色付くその白い腹に手を伸ばすと、悟空はパレットの上でふたつの色を混ぜ合わせるようにふたりの精液を混ぜ始めた。
後処理をすべて悟空に任せきりにしていた悟飯が腹と胸の上をぬるりと滑る悟空の手に驚いて目を開けると、そこでは悟飯の理解を遥かに超えた奇抜な儀式が行われていた。
我が目を疑うあまりの光景に為す術もなく、悟飯は愕然とその手の動きを見守っている。
悟空は行為が終わると上機嫌の様子で悟飯の躰を綺麗に拭ってくれるのが常で、今回も例に倣っていつものように拭って貰えるものと思い込んでいた悟飯は、どれほど自身の躰が汚れようとも気にも止めていなかった。
それが―
悟空の予測不可能な奇行に呆然とした悟飯が抵抗できないのを良いことに悟空の手はあちこちに伸び、ふたりの色は白い悟飯の肌を染めるようにあらゆる所に塗られてゆく。
腹筋の割れた腹から細い腰に、形良く引き締まった小振りの臀部に、筋肉の付いた大腿部に、敏感な胸を通って力瘤の出る二の腕に、そして悟空の最初の精液を受け止めた首に・・・。
武道家である悟空の大きな手の平で首を絞められるように色を塗りたくられた時、悟飯の鼻を刺激臭が掠め、忘れていた嫌悪感による吐き気が再び胸に蘇り悟飯はうっ、と眉間に皺を寄せた。
その様子を見守っていた悟空が、すかさず『まあまあ』と悟飯を宥めにかかる。

「乾けばそのうち、気にならなくなるさ」

気楽に楽天的な予想を口にする悟空に、本当にそうだろうかと、悟飯は疑惑たっぷりの視線を向けた。
ふたりとも夢中になり過ぎて我を忘れて没頭していたが、本日は平日であり、当然のこと明日は悟飯はハイスクールに登校しなければならない。
だが、これもまた当然のことで、この有様のまま登校など到底悟飯には考えられなかった。
今すぐにでもバスルームに直行したいくらいなのだが、躰は悟飯の意思に従わず、ひとりでは歩行もままならない。
悟空の肩を借りてようやくバスルームに辿り着けたとしても、こんな夜更けに入浴などしたら母親のチチにこっぴどく叱られるだろう。
ならばとて翌日の朝風呂も、十二分に不審感を買いそうだった。
どう考えても白い肌に塗られた色を落とす手段も希望も叶えられそうにない現実に、悟飯の心は絶望感に打ちひしがれる。

「・・・今日だけ・・・。今日だけ、オラの我が儘を許してくれ。そうしたら、もうこんな無茶はしねぇ・・・」

静かにそう告げる悟空に、悟飯は絶望すらも諦めて緊張を解いた。
悟空の言う通り、さきほどまで耳元でピチャピチャと聞こえていた水音は次第に収まり、体液が乾くのに従って鼻を不快に刺激する異臭も落ち着いてくる。
たまには悟空の言葉を信じてみようと決意した悟飯は黒曜石の瞳を閉じ、満足そうに隣りに滑り込んできた悟空に身を預けると泥のような眠りに就いた―





翌日、悟空の予言通りに悟飯の躰に塗られたふたり分の精液が再び異臭を放つことはなかったが、そこには極力汗をかかないように最大限の注意を払った悟飯の努力の成果があったのは云うまでもない。
その後、この時の悟空の口約束はあっさりと破られることとなり、自分の考えの甘さを悟飯が愚かしく呪うまで、一ヶ月もかからなかった。





END

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