【パレット-ふたりの色-】

このクライマックスを迎えるにあたって、悟飯の汗に悟空が手を滑らせるのが先か、それとも震える悟飯の両腕が肘から折れるのが先かという段階で、悟空の仕打ちに抗議するかのように悟飯のペニスが欲望のひとかたまりを吐き出した。

「・・・!?」

それまで悟飯が絶頂に向かうのに合わせて悟飯を扱いてやっていた悟空は驚きでぴたりと激しい動きを止め、悟飯の胸を滑る白濁液の流れを見守った。
悟飯が自身に触れられもせずに精を放ったのは、初めてのことであった。
未だ女の肌を知らぬ高校生とは云え、まがいなりにも悟飯は男であり、男であるからにはペニスへの愛撫なしでの絶頂はありえないと信じていた悟空には、己が与えた快感に喘ぐ息子が前立腺を刺激されただけで射精した目の前の現実が俄かには信じがたい。

「悟飯、オメェ、オラが扱いてやってねぇのにイったんか・・・?」

悟空が返事を待とうにも、頭にパンパンに血が上った悟飯には悟空の言葉は聞こえておらず、質問に対するリアクションを示す動作すら窺えなかった。
そんなにアナルでの快感が良かったのかと悟空は悟飯の感想を聞きたかったのだが、絶頂の感覚もなく精を放った悟飯は、自分がペニスから精液を漏らしたことすら気付いていなかった。
どうやら悟飯のこの射精は快感や刺激による絶頂ではなく、躰を逆さまにされた状態で前立腺を突かれる衝撃により、ペニスに溜まった精液が溢れ出ただけのようであった。
期待が外れてただの生理現象だったと悟った悟空は、それだけ悟飯に無理な体勢を強いていたのだと知り、悟飯の背中に反ってそっと悟飯の躰をベッドに下ろす。
ようやく悟飯の躰が安堵するいつもの体位に戻った時、悟空は悟飯の肛門から睾丸までの間の『蟻の戸渡り』呼ばれる部分を二本の指で少し強めになぞった。
途端に悟飯のペニスがびくりと震え、その鈴口が溜まった欲望の開放を懇願して開閉を繰り返す。

「あっ・・・!あっ、あっ、あ・・・っ!」

先の悟空の質問にも答えられなかった悟飯が上げる上擦った喘ぎ声に、悟空の背筋がぞくり、と震えた。
その震えが悟空に何を思わせたのか、悟空は悟飯の胸に零れ落ちた白濁液を二本の指で掬うと、血中に欠乏した酸素を求めて呼吸過多になった悟飯の軽く開いた口の中へと、強引に突っ込んだ。

「うぐっ・・・!!」

突如として口内に現れた悟空の武道家らしい太い指と覚えたばかりの青臭い苦味に、悟飯は眉を顰める。
いったいいつの間に父が射精したのだろうかと見上げた悟飯の瞳に映ったのは、父親と同じ顔をした見知らぬ男の顔だった。
そこには思いやりのある優しい父の姿はなく、代わりに昂ぶる欲望に双眸をぎらつかせたサイヤ人の男が冷酷な表情で上から悟飯を見下ろしていた。
今まで悟飯を抱いていた父が、悟飯が抱かれていた父が、悟飯の知らぬ間に、悟飯の知らない別の男へと変貌を遂げていた。
しかもその男は、興奮の為に微かに超化しかかっている。
恐怖と混乱に青褪め、ようやく聴力を取り戻した悟飯の耳に届いた懐かしい声が悟飯に衝撃の真実を告げた。

「どうだ、美味ぇか、悟飯。・・・自分の味はよぉ・・・」

悟空のものだと思っていた精液が自分のものだったと云う事実と、口の中に放り込まれた二本の指は先刻まで悟飯の尻の中に入っていた指ではないのかと云う疑問に、悟飯の胸に逆流を起こした胃液がせり上がってくる。

「うえっ・・・!!・・・ぐぅ・・・っ!」

「おっと・・・。吐き出すなよ、全部飲み込めよ・・・」

猛烈な吐き気に餌付く悟飯にまたもや無茶な要求を承諾させようと、悟飯に体重をかけてのしかかったまま、逃げられないように悟飯の頭を固定すると悟空は二本の指で悟飯の口内を犯し始めた。
これまで何度も交わした濃厚な口づけと同じ要領で悟飯の舌の上を滑り、ぐるりと指を回転させると天井をなぞる。
乱れた呼吸が整わないうちに上からのしかかられた重みと、酸素を必要としている状況で呼吸器官のひとつを塞がれた息苦しさに肩で喘ぎながらも、意思とは関係なしに悟飯の躰は快感を拾う。
だが、どれほどの快感があろうとも悟飯の嫌悪感には些かの変化もなく、悟飯は口内から脳にかけて走る電気と胸のうちの嫌悪感を交互に味わう結果となった。

「んんっ・・・、うぇっ!ぐぅっ・・・ん、うん・・・っ!」

「悟飯、オラの指を舐めろ」

いつまで経っても治まらない吐き気に悟飯の雄が萎えた時、悟空は悟飯の気を紛らわせる為に、性器への口腔愛撫を彷彿とさせる行為の試みを思いついた。
悟空のモノを舌で扱いているのに似た感覚に、自身が放った精を飲み込む嫌悪感が薄れるかも知れないと。
口内に満ちた青臭さが鼻腔を通って鼻に抜ける不快感と、舌に感じるぬるりとした気持ちの悪い苦味に苦しみながらも、逃げ道を塞がれた悟飯は観念して悟空の指に舌を絡め、吐き気を催すほどの嫌悪の対象を舌先で掬うと唾液と共に咽喉の奥へと流し込む。
その悟飯の舌の動きに合わせて悟空の指が悟飯の口の中を自由に動き回った。
悟飯の秘部を愛撫するような手つきで何度も手首を翻しては、二本の指で悟飯の舌を挟み、舌裏をくすぐっては親指で桜色の唇の輪郭をなぞり、頬の裏側を擦っては天井を往来する。
たちまち口内に溢れる唾液に悟飯の精が溶け込み、味も匂いも薄れてゆくのに比例して悟飯の嘔吐感も次第に引いてゆく。
悟空の指を舌で追い、悟空に教え込まれた覚えたての舌技を懸命に駆使している間に、悟飯は自分の精液混じりの唾液を何度も呑み込んだ。

「ん、ふっ・・・うん、んっ・・・んん、んっ・・・」

逆流を起こした胃液が唾液とともに胃の中に落ち着いた頃、嫌悪感は鳴りを潜め、嫌悪感に取って変わった快感に次第に悟飯は身を委ねるようになっていった。
悟空の指にウィークポイントを責められる度に悟飯はくぐもった嬌声を上げ、頭がショートするのに合わせて躰を強張らせる。
びくり、びくりと自身の躰が竦む毎に悟飯の動きは止まったが、躯の緊張が解けると思い出したように動きを再開させる舌に、悟空は己のモノを愛撫されているような錯覚に陥った。
よもやこんな行為に快感と興奮の副産物があろうとは夢にも思わなかったが、悟飯の上下の口を犯す行為にいつしか悟空は没頭し、律動を止めていた腰を無意識に円を描くように回し始める。
優しく前立腺を擦られるその動きと内部に感じる肉の弾力に、悟飯もまた、ささやかながらも無意識に腰を揺らした。
そうして激しい律動もなく、躰を密着させたまま、無言で指と舌での口腔内愛撫は続く。
ウィーポイントを責め続けられて、ショートした悟飯の頭が時々くらりと眩み、その衝撃が後に脳内のあちこちに甘い痺れを残した。
悟空の太い二本の指が悟飯の口内と思考回路のすべてを塞ぎ、息苦しさと脳を掻き回される辛さに、悟飯の目の端に涙の玉が浮かぶ。
朦朧として焦点の定まらない黒曜石の瞳を濡らす涙と、虐げられているかのような苦し気な悟飯の表情に悟空の背筋を加虐心がゾクゾクと走り抜け、悟空は舌舐りをした口もとを冷酷に歪めた。
悟飯との行為で性的興奮を覚えると、性的興奮を司る神経と隣接した暴力を司る神経が刺激される故か、それとも戦闘民族サイヤ人のもともとの性質からなのか、悟空は抑えても抑えても抑え切れない、残虐性を宿した狂暴な衝動を感じていた。
うっかり気を抜けば超化してしまうほどのこの衝動をかろうじて堪える為に、悟空は悟飯を痛みつけるのではなく、代償として羞恥に悶えさせる道を選んだ。
悟飯が羞恥や抵抗感に悩み、嫌悪感に苛まられて葛藤する様は悟空の加虐心を満足させてくれ、加虐心が満足すると、ようやく悟空を苦しめる暴力的な衝動は地球人のそれと変わらないレベルにまで鎮まるのだった。
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