【パレット-ふたりの色-】

それでも、いつもは従順な悟飯が珍しく見せる反抗的な態度に軟化の兆しはなく、悟飯は羞恥と嫌悪に竦んだ心と澄んだ輝きを放つ黒曜石の瞳を固く閉じたまま微かに首を横に振った。
どうしてこの男は行為の度に毎回、未成熟で純情な悟飯に無茶な要求ばかりして寄越すのか、ただ愛し合うだけでは駄目なのかと、心の中に芽生えた疑問に悟空が要求を取り下げてくれるのを願って。
眉根に皺を寄せて貝のように口を閉ざした悟飯に、言葉での説得が無理だと察知した悟空は『しょうがねぇな』と諦めに似た呟きを放った。
この一言に悟飯の心は安堵のため息を吐いたが、悟空の思いは悟飯が想像したものとは逆の方向にベクトルを向けていた。
説得が聞き入れられないのであれば、残された手段はひとつしかない。

「そんなに見るのが嫌ならさ、代わりにこの前のアレ、もう一回やってみっか?」

軽い口調で明るく言い放った悟空の台詞に、固く閉じた瞳を反射的に見開くと悟飯はハッと息を呑んだ。
悟空が言う『この前のアレ』とは、前回の性交渉で口腔愛撫をねだりながら悟空の顔の上に跨がされた行為のことである。
一方的に求められて一歩的に受け入れるだけの、未だ自身から性交渉を望んだことも自ら愛撫をねだった経験もない悟飯が、卑猥な単語を使って羞恥に掠れた声で口腔愛撫を要求しながら震える手で悟空の口もとに自分のペニスを導いた、あの行為。
あの後はそのままの体勢で互いの性器を舐め、互いの性器を吸い、最後の仕上げとばかりに悟空によく見えるように自らの手で秘部を開いて悟空のシンボルを受け入れさせられた。
あれと同じことをもう一度やれと云うのか―
愕然とし、躊躇いに桜色の唇を震わせた悟飯だったが、その理由は、何も前回の性交渉の内容を思い出したからだけではなかった。
重なり合った姿勢で互いの性器を口腔で愛撫する様子をある数字に例えた行為が終わった後、悟空は下から見上げた悟飯の臀部に対して、悟飯が耳を疑うほどのコメントを残していた。
曰く、悟空を欲しがって誘っている、と。
そんな意識もなく、己の下半身がどんな様子でどんな変化をしているのかも知らない悟飯に、伝えてくれなくても良いのにわざわざご丁寧に教えて下さる誰かさんに『そんなに欲しいのか』と詰め寄られ、要求に従って泣く泣く悟飯はその誰かさんの前で拡げた自分の秘部を披露した。
あんな風にまた言葉で嬲られ、またあんな思いをするのかと思うと、悟飯の心は情けなく縮こまる。
結局、悟空が怒りを覚えるまでもなく、悟飯は悟空の脅迫に屈する以外に道はなかったのである。

「あっ、あっ、あっ・・・!」

覚悟を決めた悟飯があらぬ方を向いていた視線を恐る恐る正面に据えると、そこには想像以上に生々しい光景が広がっており、そのあまりの卑猥さに悟飯は上擦った嬌声を上げた。
それまで痛みを感じなかった傷が視覚に捉えた途端にズキズキと痛み出すように、悟空に快感を与えられている様を映像で確認することで、悟飯が感じていた快感は更に増大する。
悟空が中腰のままで律動を再開させると、その腰の動きは悟飯の予想を遥かに超える激しさを見せた。
そうして悟飯はようやく理解したのだ、悟空も悟飯との行為で興奮しているのだと。
悟空は悟飯との性交渉の最中に言葉を交わす時でも、その口調はどこか間延びした通常のものと依然として変わらず、常に冷静さを欠いてはいないように思われた。
更に悟飯に無茶な要求を突きつけるにあたっては、悟飯は悟空に醒めた気配すら感じていたのである。
行為の途中で悟空の口調が変わるのは、悟飯の名を愛おし気に切なく呼ぶ、絶頂の間際だけだった。
いつも自分ひとりが追い詰められ、みっともない姿を晒している、そう思っていた悟飯には、これは嬉しい発見だった。
この行為で乱れるのは自分だけではないと悟った悟飯の心に、持ち前の素直さが戻ってくる。
ふたりが繋がっている様子をともに楽しもうと云う、悟空の提案に乗ってみようかと。
勇気を振り絞り、悟飯は半ば虚ろになりかけた眼で、視線を悟空から再びふたりの結合部へと移した。
悟空が律動する度に、ある時は悟空のシンボルが根元まで悟飯の秘部に埋め込まれ、ある時は悟飯の秘部が悟空のシンボルを求めて追い縋る。
自信家の悟空自慢の、同年代の地球人では考えられないほどの張りと強度を保つシンボルは、悟飯の腸液に濡れて淫靡な光りを放っている。
いかがわしい光りを放つのは悟空のシンボルだけに留まらず、朝露が草木の葉を濡らすように、悟飯の秘部から溢れた腸液が悟空の陰毛を濡らし、その小さな雫が清々しい朝露とは正反対の淫らな輝きを残した。
その悟空のシンボルに前立腺を突かれる都度、悟飯のペニスは勢いよくびくびくと震え、粘り気のある透明な体液を悟飯の首から胸にかけて撒き散らし、体液を吐き出す鈴口はイヤらしくひくついた。
強烈な視覚的刺激に加えて、屈強な体躯に相応しいサイズの悟空のシンボルが往来するのに合わせて響く微かな音が、卑猥に聴覚を揺さぶる。

「ああっ!ああっ!ああっ!」

悟空と躰を重ねる度にこんな状態になっていたのだと云う事実が、快感とは別の意思を持って悟飯の背骨を軋ませた。
そんな悟飯の様子を見下ろして、悟空は口もとに勝ち誇った笑みを浮かべている。
と、悟空の激しい突きに大きく痙攣した弾みで悟飯の両脚がベッドから離れ、内臓を圧迫する無理な体勢からの開放を求めてそのまま宙を泳ぐと悟空の肩へと到達した。
中腰の悟空に無意識に下半身を預ける形になった悟飯の両脚を肩に担いだまま、宙に浮いた悟飯の細い腰を捉えると悟空は体を起こして姿勢を整えた。

「あっ・・・!?」

悟空の逞しい腕に抱えられた腰を上へと引き上げられたことによってベッドに沈んでいた上半身が引きずられ、躰を支えるものがなくなった不安定な状態に、咄嗟に悟飯は両手を付いた。
このような状況でも変化に応じて無意識に体が反応するあたりは、さすがにサイヤ人の血を引く悟飯の反射神経は並みではない。
抱き合う二人を何度も支えてきた悟飯の自室のベッドと、悟飯の腰を己の下半身に固定してベッドの上に直立不動になった悟空と、自身の躰を支える為にベッドに両手を付いた悟飯の伸びた背中と、三者の間で綺麗な二等辺三角形が形作られる。
その三角形を崩さずに悟空は悟飯の腰だけを激しく動かし、アクロバットな体勢のままで性交渉を続けた。
自身は腰を使わずに掴んだ悟飯の腰を己の躰に何度も打ち付ける様は、まるで悟空が悟飯の秘部を自慰の道具に見立てているかのように見える。
パートナーと共に昇り詰めるのが目的ではなく、己ひとりの快楽を追求する為だけの行為。
だが、この行為による快感は決して悟空ひとりだけのものではなく、逆流を起こした血液に乗ってダイレクトに頭に流れ込む電流に、悟飯は部屋中に響き渡る喘ぎ声を張り上げた。
これまで悟飯の脳をびりびりと感電させてきた電気が、逆さまになった頭にズン、ズン、と重い衝撃を与え、秘部だけではなく脳にも熱くて太い楔を打ち込まれた悟飯の意識が所々で途切れかかる。
悟空に一突きされる度に悟飯の全身は大きく痙攣し、頼りにしていた両腕からは徐々に筋肉を削り取られてゆくかのように力が抜けてゆく。

「ああっ!ああっ!ああっ・・・あ・・・っ!」

いつもは家人を気にして声を我慢する悟飯が堪えきれずに上げる高い嬌声と、武道家の悟空でなければ支えるのが困難なほどの悟飯の激しい痙攣と、自らが動いているわけでもないのに上昇した悟飯の体温に、悟空の性欲はいよいよクライマックスに近づきつつあった。
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