書斎に戻ってドアを閉め、コーヒーを啜りながら書斎の中ほどまで足を進めた時だった。
突然、家族以外の気を感じた。
家の中に家族以外の誰かがいる。
その気配よりも、2年振りに感じた懐かしい気に驚愕し、金縛りに遭ったように体が硬直して動けなくなった。
書斎より少し離れた妻の寝室に現れた気は、しかしその場に長くは留まらず、ゆっくりとこちらに近付いて来る。
子供の頃なら手にした物など放り投げて駆け出しただろう、少なくとも1年半前までなら突然の来訪にも喜んで迎え入れられた筈だ。
しかし今は混乱と動揺と、何より後ろめたさが久々に逢える喜びを打ち消していた。
書斎の前で立ち止まってドアをノックした気は、驚愕のあまり声の出ない悟飯の返事を待たずして二人を隔てる扉を開けると、以前と変わらない真夏の太陽な明るい笑顔で「よう！」とだけ言って中に足を踏み入れた。

「久し振りだな、悟飯。元気だったか？」

「お・・・父さん・・・」

「今、パンに会って来た。でっかくなって、髪も伸びたなぁ。伸ばしてんのか？」

着のみ着のままで失踪した筈の悟空は、何処から調達したのか、当時着用していた胴着ではなくカジュアルな普段着姿で現れた。
その事実より何より、悟飯には悟空の気が殺気に似たものを孕んでいるのが気になった。
子供の頃より父親の変化に敏感だった悟飯だからこそ気付けたのかも知れない。

「どうした、こんな時間、に・・・？」

「おめぇに逢いに来る時は、いつもこのくれぇの時間だったろ？」

表情も口調も普段と変わらないことに、より大きな不安を感じて仕方がない。

「コーヒー飲んでんのか？オラにも一口くれよ」

そう言うと悟飯の手ごとコーヒーカップを手の平で包み、自分の口元へと運ぶ。
こんなことは初めてだった。
普段なら苦いという理由で、コーヒーなどまず口にしなかったのに。
コーヒーを口に含みながら間近で悟飯を覗き込むように見据える悟空の、刺すような鋭い眼差しで、悟空が静かに怒っているのを確信した。
溜め込んで溜め込んで一気に怒りを爆発させる悟飯とは対照的に、悟空は腹に据えかねることが起こると静かに怒りを表す。
こんあった悟空に、勝てる者など存在しない。
その恐ろしさを、悟飯は子供の頃から嫌と云うほど知っていた。

「やっぱ、苦ぇや・・・なんだ、せっかく来たってのに、歓迎してくれねぇんか？」

悟空のおどけた表情とは対照的に顔を引き攣らせた悟飯の歯の根が、カチカチと微かな音を立てて鳴った。
地球の平和を破壊せんと目論む的に向けられる時にはこれ以上もなく頼もしい父の怒りが、いざ自分に向けられるとなると恐怖以外の何物も感じられない。
その悟飯の恐怖心を更に煽る言葉が、声音も低く悟空から発せられた。

「悟天とあんなことになってりゃあ、歓迎なんか出来るわけねぇか」

「！！」

途端に二人の間に流れた凍てついた空気に、悟飯の息も心臓も凍り付く。
ただ、ゴクリ、と唾を飲み込む音だけが悟飯の耳に嫌に大きく聞こえた。

「びっくりしたぞ。まさかオラの長男と次男が、あんなことになってるなんてな！」

悟空が一歩前に進めば悟飯が一歩下がり、悟飯が一歩下がれば悟空が一歩前へ進み出て、悟飯は徐々に書斎の中央から窓際に設置されたデスクへ、デスクから壁際へと追い詰められてゆく。

「ど・・・どう、して・・・」

「どうして・・・？真っ昼間から見て下さいと言わんばかりにあんなとこでヤってたのは、おめぇ達じゃねぇかッ！！」

「っ！！」

驚きで取り落としたコーヒーカップが焦げ茶色の染みをカーペットに残しながら転がる軌跡を目で追う余裕もなく、悟飯はただ黙って悟空を見つめるしかなかった。
ひたすら主を待ち続ける明度の落ちたパソコンの画面が、追い詰められ、愕然とした悟飯の姿を映し出していた。

「あそこ・・・な、ウーブにる南の島からここに帰るまでの直線上にあるんだ」

「・・・」

「オラはあの時、ウーブの修行が一段落ついて、おめぇとパンに会いに来る途中だった・・・」

「と、さ・・・」

「オラのいねぇ間に悟天がおめぇに手を出したことくれぇ、すぐにわかったさ。だけどオラがもっと許せねぇのは、おめぇがオラの気にも気付かねぇくらい、悟天の上で夢中んなって腰を振ってやがったことだッ！！」

もしもあれが、悟天からの無理矢理な行為だったならば、悟空は迷わず止めに入っただろう。
しかし、明らかに悟飯も楽しんでいた為、止めるに止められず出るに出られず、震える拳を握り締めてその場から立ち去るしかなかった。
だから、余計に怒りも大きかった。
逢えば抑えられなくなると知りつつ、悟天より先に、悟飯に逢いたかった。
逢って、悟飯の本音を聞きたかった。

「どういうことだ、悟飯」

肩を掴んで壁に押さえ付けると悟飯の肩がゴキッ、と鳴り、痛みで悟飯が眉をひそめる。

「僕・・・は・・・」

やっと悟飯が体の奥から搾り出した声は殆ど音を伴わず、それが更に悟空の苛立ちを誘った。

「おめぇが話したくないってなら、それでもいいさ。どうせ後で悟天にも会うつもりで来たんだ、悟天に直接聞いてやる」

「悟天には何もしないで下さい！」

今まで怯えていたのに、何処からそんな力が出たのだろう、咄嗟に悟空を引き止めようと、悟飯が父親の逞しい腕を捕まえた。

「僕が・・・僕が悪いんです！僕があいつを巻き込んだ・・・。だから、悟天には何もしないで下さい。・・・僕が、何でもしますから・・・」

悟空が力ずくで解決しようとするならば、修行をサボりがちな悟天では到底太刀打ちできない。
それでは悟飯の傷を思いやってくれた悟天には、あまりにも酷い結末ではないか。

「お願いします・・・」

力なく項垂れて、だが悟飯のすがるような願いが届いたのか、一旦は緩めた悟飯の肩を掴む手に再び力を篭めると、悟空はゆっくり語を繋いだ。

「本当に、何でもするんだな？」

「はい・・・んっ！んっ、う、ん・・・んっ」

悟飯の返事と同時に乱暴に口付けると、悟空は熟知している悟飯の口腔内の敏感な部分を容赦なく攻めたてた。
悟空の舌が敏感な部分を掠める度、悟飯はくぐもった甲高い声を上げる。
ねっとりと舌全体をなぶられては口内中をかき廻され、奥まで突っ込んだ舌で天井をなぞられた。
無数の蟲が這い出てくるような間隔が悟飯の腰を襲い、それらは電気を従えて一気に背筋を駆け昇っては次々と悟飯の脳を直撃していく。
2年振りに感じた体温と体臭にも悟飯の脳はクラクラと目眩を起こし、熱くなった躯と呼応して悟飯自身も反応した。

「くぅ！・・・うっ！」

と、悟空は悟飯の躯を離し、理由が掴めず呆然と立ちすくむ悟飯の目の前で躊躇うことなくスチール製のデスクの引き出しを開けると、奥から紙袋を取り出した。

「まだ持ってたんか」

悟天とのゲームがあるまでその存在をすっかり忘れ去られていたものが、幾重にも包まれた紙袋から顔を覗かせた時、新たな怯えが悟飯の躯を走った。
悟空が悟飯の反応を楽しむ為に何処からか仕入れてきたグロテスクなそれは、おぞましいことに、2年もの間放置されていたにも関わらず機能はまったく損なわれていなかった。

「ホラ」

試しに入れられたスイッチを再び切った状態でデスクの上に置かれ、悟飯は悟空の言わんとすることを瞬時に理解した。
精通が始まって以来自慰する暇も与えられなかった悟飯は、自慰行為に対して一般男子からは考えられないほどの抵抗感と羞恥心を抱いていた。
それを知っていながら、見せろ、と言う。
パジャマのボタンを外す悟飯の指が、恐怖と羞恥と、もたもたしていたら痺れを切らした父に身に着けているものを引き裂かれかねない焦りとで震えた。
父に裸体を晒すのは2年振りだった。
その白い躯に残る悟天の跡に悟空の目付きが更に鋭さを増し、父の険しい視線から逃れるように、悟飯は唇を噛み締めて背を向けた。
無機質なそれに、やはり無機質なゼリーを塗りたくり、あの日悟天に弄ばれたように大きく脚を拡げて椅子に座ると、解れていない秘部を傷つけないよう少しずつゆっくりと自分の躯の中に埋め込んでいく。

「うっ・・・くっ・・・！・・・は、あっ・・・」

ゼリーが塗られているとは云え、怒張した大人のそれと同じサイズのものに、悟飯の秘部は痛みを伴って張り裂けそうに目一杯拡げられる。
全部埋め込まぬうちから悟飯の内股の筋はピクピクと震え始め、更に奥に捩じ込むと熱く吐き出される息と同時に椅子の背凭れから腰がはがれた。

「ん、くっ・・・あ、あっ・・・」

秘部が擦り切れそうな痛みを堪えてどうにか躯の中に収めた時、悟空が紙袋の中から何かを探し始め、自慰を強要しておきながらやはりそれを使うのかと、悟飯は諦めの溜め息を吐いた。
こうやって悟空は、いつも悟飯の運命をその手に握る。
悟飯の命と地球の未来がかかった時でさえ。

「まだ浅ぇぞ。おめぇのイイトコロは、もっと奥にあるんだったよな！」

「ひっ！あ、ああっ！！」

悟飯の手加減をした挿入を見破った悟空によって更に奥まで捩じ込まれたものが前立腺を強く擦り、その衝撃は太い電流の本流となって悟飯の背中を逆流し、脳へと流れ込んだ。

「だから甘ぇって言うんだよ、おめぇは」

リモコンのスイッチを入れると同時に、己の代わりに悟飯を犯しているもので何度も突き上げる。
悟飯の秘部から漏れた体液が浮かせた腰と椅子の間で糸を引き、二つの別々の物質を繋いだ。