【背徳の鎖を手繰り寄せし者の名は-前編-】











その日の深夜、娘との入浴や就寝の添い寝など、二週間振りに父親らしいことができたと満足した悟飯は、パジャマ姿のまま書斎のパソコンと向き合っていた。
翌日に研究所内で発表されるデータの最終チェックの為、瞳がパソコンの画面に羅列された難しい文字を追う。
その脳が、久し振りに二人きりで外出した弟を思い出していた。
久々に心の底から笑えたと思う。
悟天といると、いつも楽しかった。
悟天は常に新しい発見をし、悟飯を驚かせてくれる。
悟飯は驚き、呆れながらも悟天のペースに巻き込まれ、気がつくと虜になっている。
初めて悟天に触れられた時には必死で抵抗したが、兄の傷を懸命に庇おうとする悟天の優しさに、悟飯の心が折れた。
当時はまだ父に棄てられた現実が受け入れられず、また父への貞操観念もあり悟天には応えられないと思っていたが、父の失踪から2年が過ぎ、悟天のお陰でようやく現実を受け止める力がついてきた。


そう、自分は棄てられたのだ、父に。


途端に胸に走る鋭い痛みを振り払うように椅子から立ち上がると、悟飯はキッチンへと向かった。
コーヒーメーカーをセットすると食器棚からお気に入りのコーヒーカップを取り出す。
この白地に青い小さな花が散った5点セットのコーヒーカップも、ダークブラウンの木目調の食器棚も、結婚前にビーデルと二人で選んだものだった。
家具も食器もすべて、シンプルなデザインを好む悟飯に、笑顔でビーデルは合わせてくれた。
普段は気の強い彼女が見せてくれたしおらしい一面だった。
あの頃は未来が輝いて見えた。
だが、この結婚が父を遠ざけるキッカケになったのも事実だった。
結婚前は3日に一度だった二人きりの時間が週に一度に減り、それからというもの目に見えて急速に逢える時間はなくなっていった。
赤ん坊の泣き声に久々の逢瀬が邪魔されたことも再三ではない。
すれ違うばかりの日々が続き、それに耐えかねたように父は失踪した。
当然かも知れなかった。
だけど、もしも・・・と、父と一緒に旅立った、初めて自分が父に抱かれたのと同じくらいの少年に、悟飯には拭っても拭っても拭いきれないある疑問が浮かび上がった。
父はただの少年好きで、少年とはほど遠い年齢と容姿の自分に飽きたのではないか、と。
この考えに至る度に悟飯は、身も引き千切れんばかりの憎悪に苦しんだ。
それを救ってくれたのが悟天だった。

「俺は大丈夫だから。俺が兄ちゃんを好きって気が付いた時にはもう、兄ちゃんは他人のものだったんだもん。兄ちゃんのこと独り占めしたいなんて言って困らせたりしないから」

そう繰り返す悟天に、いつしか体も心も委ねるようになっていった。
悟天の愛撫はいつも優しくて、固くなっていた悟飯の心を徐々にほぐしてくれたが、悟飯の中から父の影を追い出すかのように行為の内容は容赦がなかった。
この前も・・・と思い出す度に顔から火が出るほど恥ずかしくなる。



「まだわかんないの、兄ちゃん?」

耳元で低く囁かれ、耳たぶを噛まれた途端に体中に電流が走り抜け、思わず甲高い声を上げてしまった。

「悟天っ!・・・も、っ・・・」

やめてくれ、と言う前に秘部に差し込まれた異物で体内をかき混ざられ、体が震えた。

「ダーメ。ちゃんと答えてよ、これはゲームなんだから。ねぇ、今何が入ってると思う?」

スチール製のデスクに備え付けの椅子の上に大きく脚を拡げて座らされ、ゲームと称して次々に秘部に挿入される物の名前を答えさせられた。
両腕は椅子の背もたれの向こう側できつく縛られ、目も普段仕事で着用しているネクタイで覆われている状態では物の名前など当てられよう筈もない。

「は、あ!・・・こう・・・さ・・・っ」

「またぁ?さっきから一度も答えてないじゃん」

つまんないの、と言うわりには面白がっているような悟天の口調に、ゾクリと背筋が震えた。
これは、何か企んでる。

「正解はヘアブラシ、でした。兄ちゃんの中を傷つけないように、ちゃんと柄がツルツルしてるのを探してきたんだよ」

「ふっ!・・・くぅ、んっ」

「一回も答えられなかったバツに、暫くこれで楽しんでなよ。・・・―もっとも―」

ぐちゅぐちゅと、ワザと音が出るようにヘアブラシを出し入れさせながら顔を近付けてきた悟天が、ニヤリと笑う気配がした。

「この柄の長さじゃあ、楽しめないかも知れないけどね」

悟天の言葉どおり短めのつくりのヘアブラシの柄は、敏感な部分にかすりはするものの決して突き上げてはこず、中途半端に与えられる快感のもどかしさに躯を捻った。

「兄ちゃんのアナルから出てきた汁で椅子が汚れてるよ。ヤラシイね、兄ちゃん」

「あ、あ、あっ・・・!」

「何?兄ちゃん、どうしたの?」

とどめとばかりに、言葉というよりは息を耳に吹きかけられてはどうにもならなかった。

「う、ふっ・・・くぅ・・・ぅ」

「兄ちゃん、泣いてるの?」

ネクタイに滲み出た涙に気付いたのか、悟天の声音が優しいものに変わったのがわかった。

「はぁっ・・・ひっ・・・っ・・・」

「ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだ」

「              」

「・・・兄ちゃん・・・」

「       」

「うん、わかった。わかったから、後ろ向いて」






「本当に思い切りしていいんだね?」

あの時泣きながら悟天自身をねだってようやくゲームは終了したが、自分が何を口走ったのかは理性が擦り切れた脳では覚えていられなかった。
あの後の悟天の機嫌の良さからして、とんでもない言葉でも口にしたのだろうか。
自ら悟天を求めたのはあの時が初めてだった。
手首の戒めも、目を覆う涙に濡れたネクタイも解かれた後は、自身の秘部から漏れた体液で汚れたスチール製の椅子に顔を擦りつけ、椅子にしがみつく形で散々喘がされた。
口元から直接椅子にこぼれた唾液が、悟天に揺さぶられる衝撃で糸を引きながらカーペットへと落ちていった。
あのゲームの最中、悟天が前以て用意した数々の物以外のゲームの材料を探すため書斎を物色していた気配がしたが、仕事上の大切な書類が入っているからと、普段からデスクの引き出しを開けないように厳重に注意しておいて良かった。
お陰で、引き出しの奥にしまわれたままになっていた物を、悟天に発見されずに済んだ。
あんな物、悟天に見つかったらただで済むわけがない。



あれはお父さんが―


と、父を思い出す度に痛む心を抱えながら、コーヒーカップの中の黒い液体の苦味を舌で堪能しつつ、悟飯は書斎へと戻って行った。














―後編へ―

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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