【ワイングラス】

悟飯の試運転が終わった後は、念の為、一般市民であるカプセルコーポレーションの社員がブルマの前でもう一度試運転を行い、納得したブルマのGOサインが出たら即刻製品化する手筈になっている。
乗りやすい、運転しやすい、価格が安いの3点をキャッチコピーに掲げたこのジェットフライヤーが無事製品化すれば、値段の手軽さから一気に全世界に普及していくだろう。
そうなれば、今はたった数名の社員を抱えるに過ぎないカプセルコーポレーションは、いずれ年を追う毎に規模を拡大していく世界有数の企業へと成長を遂げてゆく。
カプセルコーポレーションの経営が軌道に乗った暁には、トランクスは社長に就任する。
それは、ブルマとカプセルコーポレーションの社員の間で、既に決定された事項だった。
悟飯はトランクスに、「キミは人類に残された最後の希望だ」と繰り返し言い聞かせて育ててきたが、その実、トランクスは仲間が一人もいなくなった世界で悟飯が生きてゆく為に必要な、悟飯自身に残された希望だった。
そのトランクスを、更に多くの人々が必要とする日がやって来る。
誰もが彼の幸福な結婚と、優秀な後継を望むだろう。
大勢の人間に囲まれる筈のこれからの彼の人生に、男の恋人など相応しくない。
悟飯がトランクスの想いに応えることは、世間ではスキャンダルにしかならない。
トランクスの輝かしい未来を、スキャンダルなどで汚すわけにはいかなかった。
愛しているからこそ、トランクスを受け入れてはいけないのだ。
そう自分に言い聞かせる悟飯を、トランクスはレイプまがいの強引さで無理矢理体を開かせた。
その時の悟飯の体の傷は今はもう癒えたが、互いの心にしこりが残った。
悟飯にすれば、弟のように可愛がっていたトランクスからそんな目で見られていたのかというショックよりも、幼い頃から教え導いてきたトランクスに道を踏み外させてしまった罪悪感の方が強く、心の最奥に濃い影を落とした。
トランクスにすれば、悟飯よりも年上になったのにも関わらず、いつまでも自分を一人前の男として認めず、最後の最後まで拒否し続ける悟飯に対しての憤りと情けなさで、今にも胸が破裂してしまいそうだった。
きらびやかな豪邸に住まい、まばゆい宝石で我が身を飾っても、高価な衣類に身を包んでも、高級料理に舌鼓を打っても、どんなに人も羨むような生活を手に入れたところで、愛する人ですら手に入らないつまらない人生など、何の価値もない。
『キミの為だ』と繰り返し何度も悟飯は訴えてくるが、そんな綺麗事に騙されるほど、トランクスはもう子供ではない。
真にトランクスの為を思うなら、トランクスを拒絶すること自体が間違っている、とトランクスは思う。



『認めさせる』



『受け入れてはいけない』



二つの心は交じり合いながらも、別々の方向に向って進んでいる。



「トランクス!いい加減にしろ!」

悟飯の制止も聞かず、尚も悟飯の首筋から喉元を、更に頬を撫で続けてすっきりとした顎のラインをなぞるトランクスに、遂に激昂したのか、次第に悟飯の口調は荒く、言葉使いも乱暴なものになっていく。
通常の人間ならば怯えて動けなくなるほどに放出された怒気も、トランクスにはまったくと言っていいほど効果がない。
悟飯の耳穴に小指を侵入させ、耳の弱い悟飯が肩を竦ませて言葉を失うと、今度は舌を捩じ込んで無遠慮に耳穴を舐め廻した。

「くふっ・・・!くううっ!」

耳が悟飯のウィークポイントであることを、たった一度の経験でトランクスは悟っていた。
耳たぶを上下の歯で挟んで軽く引っ張り、耳の形に沿って耳裏に舌を這わせ、再び耳穴に舌を差し込むと、ぴちゃぴちゃと唾液が絡まる音を立てながら執拗に耳ばかりを攻め立てる。
耳から脳天にかけて突き抜ける稲妻に、悟飯は瞬間的に固く目を瞠るが、動揺と悲しみを湛えた黒曜石の瞳を何とかこじ開けてドライブを続けた。
軽やかに走り続けたジェットフライヤーのスピードは落ち、それまでの安定した走行が嘘のように機体はフラついている。
何があっても操縦桿だけは離してはいけない。
例え操縦桿を握る腕が震えて、指先から次第に力が抜けてゆこうとも。
この試運転の成功は、夫を亡くし、可愛い我が子と離れ離れになり、恐怖の時代を女一人で乗り切ったブルマへの最高のプレゼントとなる予定だった。
人造人間をトランクスが倒してくれた今となっては、悟飯が彼女にしてあげられることはもう何もない。
気丈にも幼い我が子を世界平和に為に悟飯に託してくれたブルマへの、せめてもの恩返しになる筈だった。
そのブルマが、この一台のジェットフライヤーを作り上げる為に、数少ないカプセルコーポレーションの社員と共にあちこちの街を歩き回り、瓦礫の下から部品をかき集めて来たのを知っている。
更にその数倍の時間が、コンピューターとの格闘に注ぎ込まれていた。
皆の希望を乗せた血の滲むような汗と努力の結晶を、こんなところで失うわけにはいかない。
悟飯が片手を離せば、ジェットフライヤーはたちまち墜落してしまう。
可能ならば片手でジェットフライヤーを操縦しながらもう片方の手でトランクスを振り払いたいところだが、生憎悟飯の腕は一本しか残されていなかった。
悟飯が言葉以外にトランクスの行動を止める術を持たないのを承知の上で、トランクスの愛撫は尚も続く。
舌先で耳を嬲りながらも遠慮なくTシャツの上から胸を、まさぐる布一枚越しに伝わるトランクスの手の平の体温に、意思とは裏腹に悟飯の躯は歓びに打ち震える。

「ふっ・・・ぁ!くっ・・・うっ、うっ!」

何とかスキを見計らってトランクスから逃げ出そう。
だが、どうやって?
思考を巡らそうにも今の悟飯にはジェットフライヤーを操るのがようやっとで、せめてトランクスの愛撫への反応を抑えるくらいしか方法がない。
掠れた視界に飛び込んできた岩場を車体を傾けてどうにかやり過ごしているそのスキに、トランクスの手がTシャツの中に侵入してきた。
4本の指を揃えて指の腹で脇腹から胸にかけてしたから上に撫で上げ、指が胸の突起に到達すると、指の先で転がすように突起を弄ぶ。
しきりに耳元でぴちゃぴちゃと鳴る唾液の音に、ジェットフライヤーの放つジェット音も通常の半分ほどしか聞こえない。

「やめ・・・ろっ!トラ・・・ッ・・・う、ふっ・・・!」

くっ、とトランクスが2本の指で突起をつまんだ瞬間、咄嗟に悟飯は体をトランクスとは逆方向に捩った。
胸をまさぐる手も、耳を舐め回す舌も悟飯から引き離され、トランクスは数秒間だけ無言で怒りを表した。
肩で喘ぐように呼吸を続ける悟飯の横に立ち尽くすと、瞬時に超化する。
いつもはトランクスの内面を表すように澄んだ輝きを放つ金色のオーラが、この時ばかりは触れれば火傷しそうなほど熱く、痛かった。

「何・・・故、スーパーサイヤ人に・・・?」
戦闘場面でもない状況でのトランクスの超化に驚き、思わず悟飯がH型の操縦桿を手前に傾けるとジェットフライヤーは一気に失速し、危うく地面からそそり立った岩場にジェットフライヤーの腹部をこすりつけてしまうところだった。
慌てて車体を戻し、元の高度を保とうと試みる悟飯の股間にトランクスの手が伸び、悟飯は筋肉を固くした。

「よせっ!!!」

怒鳴ると同時にガニ股に開いた脚を閉じてトランクスから逃げようとするが、今度はトランクスの方が早かった。
片脚を悟飯の脚に絡めて固定し、右手で悟飯の胸を押さえつけて悟飯の躯をドライビングシートに縫い付け、空いた左手でズボンの上から固くなった悟飯自身を握る。
トランクスが手の平全体で覆うように悟飯自身を愛撫すれば、びくり、と竦んだ悟飯自身がトランクスの手の平の中で固さを増す。



こんなに躯は素直なのに。



愛しい悟飯の精神は、トランクスの存在を受け入れながらも、肝心なところで拒絶する。
今も、今までも、そしてこれからも。
何度言葉で伝えても、幾度愛を囁いても、悟飯がトランクスの想いに応えることはない。
意思の強さは時として、裏目に出ることもあるのだ。
ならばトランクスに残された最後の手段は、強引に奪うしかないではないか。
手の平で悟飯自身を上下に擦り、先端部分を握り込んでやわやわと揉みしだくと、じっとりと湿った感触がトランクスの手に伝わってくる。

「うっ・・・うっ・・・く、うっ・・・んっ」

自身の雄を刺激されて、悟飯は背中をのけ反らしてただ喘ぐしかなかった。
感度が良い、のトランクスの言葉どおり、男として意識しているトランクスから触れられて、悟飯の肌は必要以上に敏感になっている。
トランクスの愛撫に過剰に反応する躯は、 トランクスに触れられている箇所すべてに快感の波がうねっていた。
絡められた脚でさえも、トランクスのがっしりとした骨格と程良く逞しい脚の筋肉を感じて、次第に力が抜けてゆく。

「鉄みたいに堅いですね、悟飯さん・・・」

トランクスがうっかりと耳元で囁いて悟飯の耳たぶを噛めば、ゾクリとしたものが悟飯の背筋を駆け降りて、更に悟飯自身に熱が篭る。
尚も耳の形に沿って甘噛みを続けられ思わず何度も目を瞠るが、その都度辛うじて目を開き、ぼやけた視界に映る障害物を確認してはすれすれのところでかわしてゆく。

「ズボンの上からでも、悟飯さんが濡れているのがよーくわかりますよ。ビショビショになった下着を穿いて帰るのは気持ち悪いでしょう?ここで脱ぎましょう」

言うが早いか、トランクスは悟飯のズボンのベルトに手をかけ、下着ごとズボンを脱がし始めた。
2/5ページ
スキ