【オレの所に】
「えーん、えーん、恐いよぉ・・・お父さん、助けてぇ」
泣いている子供。
泣いて、泣いて、なかなか泣き止まない。
そう、あれは。
―4歳の悟飯だ・・・
すぅー・・・とゆっくり夢から醒めた。
現況が呑み込めず、しばし呆然とする。
どうやら、不覚にもうっかり瞑想の途中で眠ったしまったらしい。
チビ共の修行の最中だというのに、情けない。
その“チビ共”は、ピッコロが瞑想を始める前からの組み手を、今だに続けていた。
忙しなく動き回り、飛び跳ね、エスカレートするとケンカが始まる。
子供とは、果たしてこんなに扱いづらいものだっただろうか。
同じ子供でも、悟飯の小さい頃とはまるで違う。
悟飯は従順で、いつでもピッコロの命令には二つ返事で頷いた。
「はい、ピッコロさん」
と・・・。
その悟飯は、幼少期から重い運命を課せられてきた。
それに比べればこいつらは気楽だ、と思う。
幼少期から地球を救う為の戦いに駆り出され、闘いを嫌っているのに無理矢理潜在能力を引きずり出され。
傷ついて、傷ついて、最後には身も心もボロボロになった。
それなのに泣くことも赦されず、悟飯が涙を封じ込めてから7年の月日が経とうとしていた。
時々、笑っている悟飯の顔が泣き顔に見えることがある。
誰もが癒されるあの優しい笑顔に、4歳の頃の悟飯の泣き顔が重なって仕方がないのだ。
最高で、最愛の弟子。
悟飯、貴様はこのオレ様の弟子だ、甘ったれることは許さん。
だが、心に負った傷に耐えきれない時は―
その時はオレの所に来い。
他の誰の所でもなく、このオレの所に来い。
「はい、ピッコロさん」
ピッコロの記憶の中の悟飯が、二つ返事で頷いた。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。