【溺れる】
この愛はまるで底無し沼のように終わりが見えない――
神の宮殿の自分の寝室で、ピッコロは愛弟子の躯を胸にかき抱いていた。
まるで彫像のように理想的なプロポーションが、ピッコロの愛撫に応えて背中をしならせる。
白い肌、細い腰、甘い声、ウブな反応も薄く開いた唇も、すべてが自分を誘惑し、煽り立てる。
この声に、肌に、躯に、魂に、とうの昔に溺れ切っている己をピッコロは自覚していた。
溺れる者は藁をも掴むと云うけれど、藁を掴む気も溺れぬようもがく気も始めからなかった。
もとより自分は、この子に救われたのだ。
この子と出逢って、世界の美しさに気づき命の尊さを知った。
己の命を捨ててまで敵から守った弟子に、ピッコロは恩すら感じていた。
荒野で共に過ごした子供に魔族では有り得ない感情が芽生え始めたのを知った当初こそ葛藤したものだが、眠る子供の頭を撫でる頃にはその葛藤も消えていた。
呪文のように繰り返された亡き父の憎悪に満ちた声も、かつての宿敵への憎しみも、いつしか子供への愛が深まるにつれ消えていった。
この子が消してくれたのだ。
この子が、闇から自分を救い出し、光ある世界へと導いてくれた。
俺の命ある限りお前を守ろう。
俺の命はお前のものだ。
だが、お前自身は俺のもの―。
その想いのありったけを篭めて突き上げれば、息も絶え絶えに震える腕で縋り付いてくる。
「あ、あ!ピッ、コロさ・・・んっ!」
(もう、限界か)
弟子の訪れを待ち侘びた時間に比べれば何とあっけなく終わる行為だろうと、いつもピッコロは思う。
だが、この行為がなければ人間は命を生み出せないのが事実だし、己と弟子の間にも確かに新しく生まれ出ずる何かがあった。
悟飯の唇が戦慄くのを合図に互いにしっかりと抱き合い、名残り惜し気に口付ける。
あとは二人、愛の高みへと昇りつめるだけ―
そうして何度も昇りつめる度に、ピッコロは溺れてゆく。
まるで底無し沼のように底の見えない愛に。
溺れて、溺れて、でももがく気などない。
(俺はこれで良いのだ―)
この、底の見えない愛に終わりなどないから。
否、命の続く限り終わらせたりなどしないから。
だから、この子に溺れたままで良いのだ。
己の半身を弟子の躯に埋め込ませたまま肘をつき、ピッコロは汗に濡れた悟飯の前髪をかきあげた。
そのまま愛おしそうに頭を撫でつけると、未だに荒く呼吸を続ける悟飯が微笑んだ。
とその時、ピッコロの中で何かが閃いた。
次の瞬間にはまるで悪戯を思いついた子供のような表情をして口端を釣り上げる。
「よし、今日はもっと溺れてやろう」
楽しげにそう呟くと、驚く弟子を尻目にピッコロは再び律動を開始した。
END
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