【誘惑】



いつだって俺ばっかりが求めてる。
いつも俺だけが愛してる。
たまには俺を誘ってみせてよ。
そうしたら俺は、きっと貴方を満足させてみせるから。



「お願い、お兄ちゃん」

「嫌だ」

―ウルサイ



「ね、このとおり」

「駄目だ」

―黙れ



「ねー、お願い」

「断る」

―僕は忙しいんだよ!



「お願いします、お兄様」

「却下」


職場に戻ればやりかけの仕事もあるし、学会で発表する論文の資料も集めなきゃならないし、第一まだパンにだって会っていない。
お前が自宅に戻る前にどうしてもと言うから、職場からまっすぐおまえのところに来たって云うのに。

「どーしてもダメェ~?」

「何で僕がお前を誘わなきゃならないんだよ!」

「だって、たまにはお兄ちゃんから誘って欲しいんだもん」


あー馬鹿らしい、もう帰ろうっと。
こんなくだらないことに付き合ってる時間が勿体ない。

「待って!!帰らないでよ、兄ちゃん」

慌てて引き止める悟天、そんなとこ子供の頃のままだね。

「だってさ、だってさ・・・」

おいおい、いい歳してベソなんてかくなよ。

「いっつも俺ばっかで。兄ちゃん、一度も求めてくれたことなんてないじゃん。同じ男なのにさ。それって何だか」

困ったな、弱いんだよね、悟天のその顔に。

「俺ばっかり兄ちゃんのこと好きみたいじゃん」

「何を、馬鹿な」

わかってないよ、お前。
僕だってお前を愛してるよ。
その証拠に、今まで一度だってお前を拒んだことなかったじゃないか。

「兄ちゃんに比べたら俺、馬鹿だもん。優秀な兄ちゃんには敵わないよ」

またそうやって口を尖らせる。
参った、僕の方こそお前には敵わないよ。
お前は弟なんだから、主導権は僕が握っていたいのに。
僕もつくづくおまえには甘いよな。
我ながら呆れる。
まずは、どうすればいいんだ?
ネクタイを緩めて意味深な視線を投げて、それから?
Yシャツのボタンを一つずつ外して、あとは何をすればいい?
とりあえず目の前で脱いであげようか。

ゴクリ。

何だ、今の音は。
まったく、お前は昔から堪え性がないな。
ベッドに足を開いて座り、手の平を上に向けて中指でおいでおいでをしてやると、途端にむしゃぶり付いてくる。
知らなかったよ、お前がそんなに切羽詰まっていたなんて。
誘う、とか、誘わない、とか、そんなに大事なことじゃないだろう?
何時だって僕は、お前に応えていたんだから。





END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
1/1ページ
スキ