【僕の初恋】
「んー、どこにいったのかなぁ?」
幼馴染のトランクスに、自分の昔懐かしの玩具を見せると約束した悟天は、家中の押し入れをあちこち探し回っていた。
だが、どこに仕舞われたのか憶えがなく、当てずっぽうに扉を開けるものだから、お目当てのものはなかなか見つからない。
と、古ぼけたアルバムを発見し、興味本位に中の一冊を取り上げると、ひらりと一枚の写真がアルバムの中から零れ落ちた。
「あっ、落っこちちゃった。ったく、こういう物はちゃんと仕舞っておいて欲しいなぁ」
などとブツブツ独り言を言いながら落ちた写真を拾い上げ、そこに写っている人物に目を遣った途端に心臓を何かに射抜かれた。
「可愛いっっ!!」
写真には、今の自分と同年代の少女と自分の父とが笑顔で肩を寄せ合っていた。
悟天の父親に肩を抱かれたこれまで見たこともないような可愛い少女に、この世にこんなに可愛い子が存在したなんて、と感動すら覚えてしまう。
悟天の生まれて初めての経験。
これは、俗に言う『一目惚れ』というやつだろうか。
「誰だろ、この子。お父さんの知り合いかなぁ」
写真を見る限りでは、この二人、かなり親密そうだ。
地球人ではない父は老いが遅く、悟天が10歳にもなろうというのに今だに老け込む気配を見せない。
だが、この写真の父の若々しさからして、写真が撮影されてからかなりの時間が経過している筈で、故に写真の少女もそろそろ成人を迎えていてもいい頃だ。
父の周りに、こんなに可愛い少女がいただろうか。
悟天の記憶の中には、この少女に該当する人物は思い当たらない。
金の髪に翡翠の瞳、透き通るような肌の色が白いチャイナ服と相俟って、可憐な小さな花を思わせる。
そして、花が綻んだかのような優し気な笑顔―
(ん?待てよ・・・)
金の髪に翡翠の瞳、どこかで見たような・・・。
「悟天、何やってんだ?」
「おっ、お父さんっ!」
突然背後から声をかけられて、口から心臓が飛び出そうなほど驚いた。
一体、いつの間に現れたんだ?
いや、それより、今は聞きたいことがある。
「お父さん、この写真・・・」
父の目の前でひらり、と写真を掲げ、『この可愛い子は誰?』の質問を遠回しにしてみる。
と、父は懐かしい思い出に嬉しそうに目を細めた。
「おおっ!?なっつかしいなー。これって、セルゲームの前に撮ったやつだから、もう10年くれぇ前になるんか」
父は記憶の引き出しから、この写真が何年前に撮影されたものなのか答えてくれる。
写真撮影の年なんか関係ない・・・こともないが、それより何より。
「お父さんの隣の子、誰?」
悟天の期待を膨らませた質問に、父は一番に、何故そんなことを聞くのかと驚愕の表情を見せ、次いで、こんな簡単なことがどうしてわからないのかと呆れてみせた。
「何言ってんだ、おめぇ!?これはおめぇの兄ちゃんじゃねぇか」
「えええっっっ!?に、兄ちゃんっっ!?」
これがマンガなら背後にガーンという効果音がつくだろう、なんて馬鹿なことを頭の片隅で朧げに思っていると、悟天に衝撃を与えた当の本人がケーキを片手に笑顔で現れた。
「悟天、おとうさん。丁度良かった。ビーデルさんが美味しいケーキを持って来てくれたんです。みんなでいただきませんか」
似てる、確かに面影はあるが・・・。
「うわぁぁぁん!!兄ちゃんのバカァッッ!!!僕の初恋を返してっっ!!!」
「えっ?えっ!?えっっ!?ごっ、悟天っ?」
「バカはおめぇだろ・・・」
悟天の叫び声に兄はパニックを起こし、父は呆れ顔を深めた。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。