【寝顔】
「たでぇま~。今帰ったぞ。・・・!?何だ、あれは!?」
修行を終えて帰宅した悟空を出迎えたのは、ソファの向こう側から覗く、誰かの足だった。
あの大きさの足の持ち主は、孫家では悟空を除いて一人しかいない。
ソファに近寄りそっと覗き込めば、案の定、息子の悟飯がソファに横たわってうたた寝をしていた。
悟飯はよくこういう寝方をする。
学校生活と正義のヒーローとしての活動、深夜を過ぎてまでの勉強と多忙な日々を送る悟飯は、疲労からか、10分や15分の仮眠とも呼べない短い仮眠をちょこちょこと取る。
だが、今日に限っては、他に家人の姿が見当たらないことからして、短い睡眠のつもりでどうやらうっかり寝こけてしまったらしい。
(寝顔は・・・変わんねぇんだな)
7年振りに見る熟睡した悟飯の寝顔に、悟空の胸に次第に懐かしさが込み上げてきた。
体は成長して父親とほぼ変わらない体格になっても、その寝顔には幼い頃の面影が残っている。
7年振りに見る寝顔だが、7年前とさほど変わらない。
精神と時の部屋に二人きりだった7年前には、時々、眠る悟飯にこっそりとキスをしたものだ。
白いおでこに。
丸い頬に。
紅葉の形の小さな手に。
そして、さくらんぼ色の唇に。
「んっ!・・・やべぇ・・・。オラ、元気が出てきちまったぞ///。ハハ・・・ったく、こっちの“ムスコ”は相変わらず節操がんねぇなぁ」
と照れて頬をかく父の姿など見えていない筈なのに、不意に悟飯が、寝ながら可笑しそうにフッと笑った。
その笑顔に、自然に悟空からも笑みが零れる。
どんな夢を見ているのやら。
どんな夢でもいい。
悟飯が、幸せそうに笑ってくれるなら。
叶うことなら、その夢に、自分の姿がありますように・・・。
「お父さん、お帰りなさい!」
突然はっきりとした口調で父を出迎える挨拶をした悟飯に、悟空は口から心臓が飛び出そうなほど驚いた。
「・・・お、おう。た・・・たでぇま」
不謹慎な企みを見破られたのかと、悟空はぎこちなく返事をしたが、それきり悟飯からのいらえはなかった。
不思議に思って恐る恐る悟飯に近寄ると、さっきの出来事が嘘のように悟飯は再び安らかな寝息を立てている。
「なんだ、寝言か」
(寝言にしては、随分とはっきり喋ってたな)
寝言とわかれば安堵はするが、それにしても今のは心臓に悪い。
『お帰りなさい』とはっきり言った悟飯。
それは、修行を終えた父の帰宅を喜んだものなのか、それとも喜んだのは7年振りの父の帰宅か。
どちらでも良い。
悟飯が喜んでくれるのなら。
幸せそうに眠る悟飯の寝顔に、悟空は、二つの愛情が胸いっぱいに満ちてくるのを感じていた。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。