【ソーダキャンディ】



「お父さん、アメ舐めますか?」

日中は悟空にべったり、兄がハイスクールから帰宅すれば兄の悟飯にべったり、の孫家のアイドル(?)の次男の悟天がいつもは父と一緒の入浴を珍しく母のチチと行っている最中、二人の留守のスキを見計らって悟飯の自室を訪ねた悟空に、悟飯が飴玉を差し出した。

「サンキュー!どうしたんだ、これ?」

「お母さんと街に買い物に行った時に、お店の人から悟天が貰ったそうなんです」

「街でこんないいもんが貰えるんか。お、ソーダ味」

「行き着けの小さなお店らしいですよ。いつもお母さんのお手伝いをする悟天へのご褒美だそうです。お店の人が何故だか僕の分も持たせてくれたんですけど、こういう物はお父さんの方が喜ぶかと思いまして」

「おう、嬉しいぞ。ありがとな、悟飯。かー、飴玉なんて久し振りだなぁ」

悟飯の予想どおり、悟空はにこにこ顔で個包装の袋を開けると綺麗な水色の塊を口の中に放り込んだ。


これだ、この笑顔が見たかったのだ。


己の思惑どおりに事が進んで満足気に微笑む悟飯の腕を悟空が掴む。

「えっ!?」

驚く悟飯を引き寄せると、ゆっくりと顔を近付け、口付けた。

驚きで薄く開いた悟飯の口の中に己の舌で飴玉を差し込み、悟空はそのまま悟飯の口内で飴玉を舐め始める。

飴玉ごと悟飯の舌に舌を絡ませ、時には軽く吸う。

口腔内で蠢く悟空の舌に頭に靄がかかりそうになりながらも悟飯もまた、舌の上を転がるソーダ味の爽やかな甘さを楽しんだ。

みるみる溶け始める小さな塊を相手の口の中に放り込み合い、口内に溢れるどちらのものともつかぬ唾液を互いに飲み込んだ。

いつしか二人は互いの体をしっかりと抱き合い、無心に幸せな甘さを貪っている。

口いっぱいに広がるその甘さは、互いの想いの甘さなのか、これから来る二人の未来を象徴したものなのか。

想いが通じ合い、こうしてキスをするのも当たり前になってから気付くこともある、と想いが通じ合う前を悟空は思い出していた。

伝わらない想いを何とか伝えようと懸命になるあまり、相手の言葉に、行動に,滲み出ている相手の本音に互いに気付けなかったこと。

何となく気付き始めてからも、なかなか進展しないもどかしさに互いに身を焦がしていたこと。

(今、僕はとっても幸せなんです)

そう言った悟飯の真意を、小さく薄くなった水色の塊と共に悟空は甘く噛み砕いた。





END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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