【独占欲】
お父さんと親子以上の関係になって数ヶ月が経った頃、僕は僕の中のある変化に気付いた。
これは嫉妬というやつなのだろうか、お父さんにじゃれ付く悟天を疎ましく思ったり、お父さんとお母さんが仲良さ気に寄り添う姿に苛立ったりする時がある。
日常の、ほんの些細な当たり前の光景なのに、その度に僕は胸の奥がざわつくのを感じていた。
お父さんは僕のお父さんだけど、僕一人のお父さんではない。
だって、お父さんは家族みんなのお父さんだし、お父さんには気心知れた仲間もいれば親友のクリリンさんもいる。
何より僕達が住むこの地球にとっては、なくてはならない無敵の英雄なのだ。
地球の救世主たるお父さんは、地球そのものだとも言える。
その考えに至る度に、何かと狭量になりかかる自分に羞恥心を感じるが、それでも心のモヤがなかなか晴れないこともあった。
そんな時は、目を細めながら僕の頬を撫でてくれたり、僕の腰を掴んで自分の方へと引き寄せるといったお父さんの普段の行動が、僕を落ち着かせてくれる。
それまでのモヤモヤがすうっと引いていくのを、僕って何て単純なんだろうって思ったりもするけど。
僕の中の醜い感情も知らず、お父さんはいつものお父さんのままで、僕にいつもの自分を取り戻させてくれる。
そんなお父さんにもたった一つ、僕に対する独占欲を窺わせる言葉がある。
「オラの悟飯」
小さい頃から幾度となく聞かされてきたから一体いつからお父さんが僕に対してそういう感情を持つようになったのかは判らないけど、あれは、そう多分、お父さんの独占欲。
その言葉を聞いて育ったせいか、何の抵抗もなく、僕はお父さんのものだって思えてしまう。
お父さんを独占したがる人が他にいたとしても、お父さんが独占欲を向けるのは僕にだけ。
それが秘かな優越感と共に僕の独占欲を満足させてくれる。
「オラの悟飯」
そう囁かれる度に体も心もお父さんのものになっていく僕。
「おめぇはオラのものだ」
そうやってお父さんに独占されることで満たされる僕の独占欲。
「僕はお父さんのものです」
物心つく前からずっと。
これからも貴方のものでいさせて下さい。
それが、僕の独占欲。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。