【黒と白 Ⅱ】



「この間、派手にやり合ったそうだな」

「うん?・・・何でベジータが知ってんだ?・・・そっか、トランクスから聞いたんか・・・。
悟天のヤツ、けっこうお喋りだなぁ。何でもトランクスに喋っちゃうんだもんなぁ。・・・別に、やり合ったワケじゃねぇよ。ちょっと組手をやっただけだ。オラもあいつも、全然本気じゃなかったさ・・・」

「オセロで負けた腹いせに貴様があいつを痛みつけていた、と悟天は話していたそうだが」

「腹いせなんかしてねぇよ。頭を使ったゲームでオラがあいつに勝てねぇことくらい、やる前からわかってたからな。それに、2回戦ではあいつがオラを勝たせてくれたんだ。何だか知らねぇけどよ、あいつ途中で手を抜きやがった」

「オセロで勝負をして、負けたら勝ったヤツの言うことを聞く約束だったらしいな。トランクスも悟天と、その約束を前提にオセロで対戦している。何故あいつが途中で手を抜いたかオレにもわからんが、貴様の考えていることはわかるぞ。貴様がヤツに挑んだのはオセロで負けた腹いせなどではなく、日頃の鬱憤を晴らしたかったからだろうが」

「・・・やっぱ、ベジータにはお見通しだったか。おめぇの言う通りさ・・・。報われそうで報われない、ってのはけっこうツラいもんがあるからな。ここんとこずっと我慢してたけどよ、たまにはモヤモヤしたもんをあいつにぶつけてやろうと思ってさ」

「・・・ぬかせ。簡単に報われて堪るか。・・・だが、その様子ではあれから進展はなかったようだな。・・・いい気味だ」

「ああ・・・。進展はねぇよ。これでもオラ、頑張って行動してんだけどよ・・・」

「あいつは頭脳は優秀でも、世俗に疎いところがあるからな。こと恋愛に関しては、奥手を通り越して更に鈍感に磨きがかかる。・・・せいぜい苦労するがいい。もっとも、同情などしてやらんがな」

「ああ、わかってるさ。ベジータに同情して貰えるなんて思ってねぇ。だけど、あいつの鈍さにも困ったもんでさ、相手によってはトラブルを引き込んじまうんだよなぁ」

「そのトラブルのことだが、ハイスクールの学園祭でひと悶着あったそうだな」

「何だ、悟天のヤツはそんなことまでトランクスに喋ってたんか!?」

「以前に天界で貴様が話していた男が現れて、あいつに痴漢行為を働いたと聞いたが、事実か?」

「ああ、事実だ。・・・あの男、あいつにひでぇことしやがったっ!!」

「何だ・・・!?そいつは一体、何をしたと言うんだ!?」

「・・・・・・」

「話せ、カカロット!」

「・・・ズボンの上から、指を入れやがった」

「・・・なっ・・・!・・・何てヤツだっ!!まさか、貴様はその男を生かして帰したワケではあるまいな!?」

「まあまあ、落ち着けよ、ベジータ。今度はあいつも自分が強いってとこを見せたしさ、次にあの男があいつに近付いたらそれだけで逮捕されるってことになったみたいだしさ」

「何!?そんなことが出来るのか!?」

「ああ、何でも迷惑防止法がどうとかって警察のオッサンが言ってたぞ?まあ、何にせよ、これに懲りてあの男が二度とあいつにちょっかい出さなきゃあ、それに越したことはねぇ。あの一件であいつも、最近じゃあ不自然に近寄って来る男に警戒心を持つようになったみたいだからな」

「では、一件落着したのだな。・・・それにしても迂遠なことだ。貴様に似てお人好しなだけあって、あいつは他人に対する警戒心が薄い。例えそれが初対面の人間であっても、まるで昔から知ってるかのように誰でも簡単に受け入れる。・・・かつて生死を分かつ闘いをしたこのオレですら、な。・・・だからこそあいつは、すんなりとオレの心の中に入って来た・・・」

「・・・・・・」

「・・・そんな恐い顔で睨むもんじゃないぜ、カカロットさんよ。あいつの鈍感さに苦労させられているのは、何も貴様に限ったことではないのだからな。だが、あの鈍感さは、時にトラブルを引き寄せる原因になっても、あいつに好意を寄せる輩には鉄壁のガードとなる。さしものカカロットさんも手を焼くほどの、な。・・・貴様で駄目なら、このオレが貰う」

「・・・そうはさせねぇ・・・。あいつは必ず、オラのものにする」

「・・・ほう・・・・?たいした自信だな?その自信が何処から来ているのか、是非お聞かせ願おうか」

「あいつは、オラの為に生まれて来たんだ。オラのものになる為に・・・。だから、近い将来、オラはあいつをオラのものにする。・・・絶対にだ!」

「・・・何を根拠に・・・」

「ああ、根拠なんかないさ。・・・でも、オラにはわかるんだ。・・・っ、って、あれぇ・・・?」

「貴様の番だが、貴様にはもうオレの石は挟めん。パスしろ、カカロット」


「あ、ああ・・・。挟める所がねぇんじゃあ、しょうがねぇなぁ。・・・って、おいおいベジータ、そんなにひっくり返すなよ!そりゃあねぇだろ!」

「これで勝敗は決まったな。もはや貴様には、この劣勢を挽回するチャンスはない」

「くー、駄目だ、全然ひっくり返せねぇ・・・」

「最後の一手、これで決まりだ!!」

「ま、負けた・・・」

「どうだ、カカロット!手も足も出まい!何せこのオレは、悟飯から直々にオセロを教わったからな!」

「そ、そうだったんか・・・。悟飯のヤツ、トランクスと悟天だけじゃなくて、ベジータにまで・・・。でもよ、その悟飯を相手に、オラはこの前けっこう良い勝負したんだぜ?ここまでボロボロにならなかったのに、今日は何でだ!?」

「それは、途中から貴様の集中力が切れたからだろう。ゲームの最中にあいつの話を持ち出せば、貴様は必ず心を乱すとオレは踏んだ。案の定、オレに揺さぶりをかけられた貴様は動揺し、思考力を低下させた。・・・悪く思うなよ、オレの作戦勝ちだ」

「汚ねぇぞ、ベジータ!!」







END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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